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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
14/56

◆4

 どうにかこうにか学校に遅刻することなくたどり着いたものの、明らかにクラスメイトたちの態度が違った。腫れ物に触れないように遠巻きで真鵬を見ている。自席でぼーっとしていると、「ちょっと!」と慌てた声が聞こえた。


「真鵬どうしたの!?クマひどいよ!」


 顔を見なくてもわかる、この声は俊太だ。


「いや……寝れなくてさ」

「寝れなくてって……。お前、相当ヤバいよ」

「新市に言われなくてもわかってるよ」

「家帰れば?それか保健室」

「どうしたって寝れないんだから意味ない」

「でも授業どころじゃないんじゃ……」

「あのさ……。墓地でなにがあった?なにかあったから寝れないんだろ?それに俺たち、なにかが燃えるのを見たんだ。でもそれがなんなのかわからなくて……。火事にもならなかったみたいだし」


 珍しく雄二が真剣なトーンで聞いてくる。しかし真鵬はその質問に答える気になれなかった。第一に経緯を話すのが面倒だし、信じてもらえるかわからない。真鵬自身も未だに現実だと受け入れたくない気持ちが強い。


「燃える?なにが?」


 真鵬が出した答えはすっとぼけることだった。なにも知らない、犬に追いかけられたあとなんとか逃げ切れたけど中で迷子になってパニック状態になった、と回らない呂律で話すとそれ以上俊太たちはなにも言えなくなってしまった。

 担任が教室に現れ、朝のホームルームが始まった。この状態で先生に見つかっても面倒くさいことになると思った真鵬は顔を机に突っ伏した。運がいいことに今の真鵬の席は真ん中の列の一番後ろだ。無事バレずにホームルームを乗り切った。


 一限目の日本史、二限目の英語を怪しまれながらも終わらせると(英語の時は担当教諭である柴畑しばはたから英語で体調が悪いのかと聞かれたが、真鵬は不気味な笑顔と呂律の回らない舌で「アイム ファイン サンキュー、アンドユー?」と返して教室を戦慄させた)、三限目と四限目は体育だった。


 ──さすがにこの体で体育は無理だな……。


 ゆっくり体育着に着替えた真鵬は体育教師の笹塚ささづかに「体調が悪いので見学させてください」と頼み、端のほうで見学することにした。この時も早退か保健室に行くことを勧められたが、かたくなに断った。笹塚はその様子に疑問を感じたようだが深くは追究されなかった。


 この時期の体育の種目は男子がサッカー、女子はソフトボールをやることになっていた。風が少し強く、体を動かしていないと寒い。見学には向いていない日と言える。広い校庭を反面ずつ使って体をのびのびと動かす姿を体育座りで眺めていると少し離れたところから話し声が聞こえた。


「今日は真鵬がいないからちょっと苦しいかもしれない」


 声の主は体育で同じチームのクラスメイト、由井政人ゆいまさとだった。勉強もできてスポーツ万能、容姿端麗で人気者である非の打ち所がない彼にそんな風に思われているとは知らなかった真鵬は自然と頬がほころんだ。それと同時に少し罪悪感も芽生えた。経験がほぼない割になぜかサッカーは上手にできた真鵬がチームにいないことで苦戦をしいられるかもしれない。特に真鵬のチームは政人と真鵬で成り立っているに等しかった。


 ──ごめんな、政人。試合頑張れ。


 ひそかにエールを送っていると、試合開始のホイッスルが鳴った。


 ボールは政人がキープしつつ相手ゴールに迫っているが、そのボールさばきについ見惚れてしまう。それは女子のほうが顕著で、ソフトボールの試合がない女子たちはサッカーの試合を見て政人に黄色い声援を送っていた。そんなことも意に介さない政人がシュートしたが、相手のキーパーに阻まれてしまった。ギャラリーから大きな落胆の声が上がる。まるでボールを阻止したほうが悪者かのような扱いだ。


 その時、ひと際強い風が吹いた。校庭の砂が舞い上がり、目に入る。反射的に目をつぶったのも束の間、今度は無数の砂粒が顔に当たる。パシン、と音がするほど勢いよく体中に当たる砂粒は風が吹きやまないせいで次から次へと人を襲った。

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