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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
13/56

◆3

 二年前に再婚した父親の相手は紀日子きひこという、若くて美しい人だった。

 それまでも何回か真鵬にとって母親らしき人ができたが、皆父親と結婚するまでには至らなかった。別にそれで構わなかった。十数年父親と二人で築いてきた生活サイクルに新しい人が入ってくるほうがストレスになる。できれば真鵬が家を出るまで父親には独身でいて欲しかった。


 中学二年生の時、いつも通り帰宅すると見知らぬ女性がリビングにいた。びっくりして動けずにいると、今日から真鵬の母親になったという。寝耳に水だったのでうまく返事を返すことができなかった。このリビングにいたのが紀日子だったのだが、最初から真鵬にあまり興味がなかった。大鉄家の新参者、しかも結婚相手の息子だというのに距離を縮めようとしてこない。

 それでも真鵬の父親が家にいるときは真鵬に優しく振る舞うという二面性を持ち合わせていた。『普段から仲良くしてます』というテンションで接してくるのだが、そんな茶番に付き合う気はさらさらない。総じて紀日子は真鵬にとって面倒くさい継母、という認識だった。それとは対照的に真鵬の父親に対してはべったりで、見ているこっちが恥ずかしくなるほどだった。


 つまり、と真鵬はある日家で朝ごはんを食べながら思った。


 紀日子さん(このひと)は俺の父親が好きなだけで、別にその他のことはどうでもいいってことだ。結局父親と似たもの同士なんだな。


 とはいえ家事をやってくれる上にご飯もちゃんと作ってくれる。二面性を捨ててくれれば他に文句はない。肝試しに行った日の不在着信は家電からだったが、恐らく紀日子が心配してるふりをして架けたものだろう。それに対して父親は特に反応しなかったはずだ。というのも、真鵬の父親・銀矢ぎんやは紀日子以上に真鵬に関心がなかった。


 幼い頃から面倒は見てもらっていたがそれは愛情によるものではなく、義務感からだというのは真鵬も気が付いていた。こんな息子に愛情を注げるはずもない。なぜなら銀矢にとって真鵬は赤の他人のこどもだからだ。真鵬は銀矢の最初の結婚相手の連れ子だった。

 真鵬が二歳の時に父親になった銀矢は真鵬の実の母親と三人で暮らしていたが、母親は真鵬が三歳の時失踪してしまった。捜索願を出したものの見つからず、結局生きているのか死んでいるのかもわからないままだ。

 それでもいつかまた会えるかもしれないと、銀矢は真鵬の実の母親のために残された真鵬を手元に置くことにした。施設に預けることも考えたが、なぜかそれはできなかった。

 それからは父子二人での生活が始まったが、息子とはいえ血も繋がっていないこどもに愛情を注ぐことはできなかった。一応どうにか愛そうと努力もしたが、どう頑張っても愛は生まれなかった。


 銀矢が愛していたのは真鵬の母親であり、このこどもではない。

 勝手にいなくなった妻のこどもだ、自分のこどもじゃない、と憎たらしい気持ちになったこともある。ただ、高校を卒業するまでは面倒を見ようと決めた。それは自分自身に課した義務だった。

 味気ない日々を淡々と暮らしていく中で真鵬は順調に大きくなっていき、いつしか銀矢と同じ身長になったが、それにすら気が付かなかった。

 二人で横に並ぶこともないからだ。真鵬と銀矢はお互いにとってただの同居人だった。その同居人がどこに行こうが銀矢の知ったことではない。そもそも家にいないことすら紀日子に言われるまで知らなかったぐらいだ。


 真鵬は父親にも母親にも心配などされたことはなかった。


 ──やっぱり学校行くか。


 のそのそと着替え、朝ごはんも食べずに家を出ると嫌味なぐらい快晴だった。この二日間、家に引きこもっていた真鵬にとって太陽光は目に痛い。幸いにもこの土日は父親が家にいたため、紀日子から小うるさく部屋から出ろとは言われなかった。食事の時はさすがにリビングに下りたが、紀日子は真鵬の様子を見てぎょっとしていた。それもそうだろう、クマが日増しにひどくなっているのを見れば誰でもぎょっとする。それに加えて寝不足のせいでふらつきもした。事情を知らない者からしたら相当異様に思うはずだ。

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