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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
12/56

◆2

 寝返りを打つも居心地が悪い。仕方なく携帯に手を伸ばすと、新市、雄二、昭隆からも返事がきていた。エンの言ってたとおり四人とも無事らしい。


『あ、マホウがヘルハウンドを引き付けたおかげでお友達はみんな無事に逃げ切れたよ。ある意味君が助けたようなものだ』


 ──俺のおかげ、か。


 その代償として一生体内の悪霊と付き合っていかなければならない。それはあまりにも大きな代償のように感じられた。考えれば考えるほど憂鬱になっていく。これではいけないと思い適当にネットサーフィンでもしようとネットの検索エンジンを開くと、今朝検索に失敗した駅名が履歴に残っていた。

 もう一度検索をかけてみると、神奈川県横浜市にある駅だということがわかった。真鵬たちが通う高校も横浜市内にある。思っていたよりも近くにあったのかと思うと不思議な感じがしたが、横浜市といえど広い。きっと真鵬が知らないだけであの駅も普段使う人がそれなりにいるのだろう。といっても始発の時点で乗客は真鵬だけであったが。

 かなり立派な屋敷だったため、もしかすると有名な場所なのかもしれないと思い調べてみたがなにも手がかりを得られなかった。屋敷に関することを書いている地元の人のブログなども特に引っかからない。そもそもその辺りにそんな大層な建物はないらしく、地域一体が閑散としている住宅地が続いているだけの片田舎という位置づけだった。


 ネット社会のこの世の中で情報を得られないものがあるんだな、と驚いていると、変な可能性が頭に思い浮かんだ。


 ──もしかして俺狐か狸に化かされてるんじゃないか。炎やら魔法陣やらも全部幻であの屋敷も本当は存在しない……。


 その時、頬にやわらかい猫じゃらしのようなものが当たった。顔を少し動かすと、猫じゃらしの正体がすぐにわかった。小猩々の尻尾だ。


「お前も本当は幻なんじゃ……」


 無意識に小猩々の尻尾を掴んで引っ張ると、びっくりした小猩々は飛び上がってキィーッと甲高い声をあげた。慌てた様子で窓まで走り、涙を目いっぱい溜めている。


「え、あ、ごめん」


 すぐに謝るが頭をぶんぶんと横に振り、真鵬を許してくれる気配もない。


「お前も幻なら辻褄合わないか……」


 はあ、とため息をつくとあることに気が付いた。屋敷ではずっと周りを回っていた、ヒロナによる水色四つの魔法陣がない。術が解けたということなのだろうか。


「ねえ、くるくる回ってた水色のやつ知ってる?なくなったのかな」


 未だに泣き出しそうな小猩々に聞くと、弱々しく鳴いてから真鵬に駆け寄り、上半身の寝巻の裾をめくり始めた。


「おい、なにするんだよ」


 止めようとしても言うことを聞かない小猩々になされるがままにしていると、へその下あたりにあの魔法陣が浮かび上がっていた。水色ではなく藍色ではあったが、間違いなく真鵬の周りを回っていたものだ。


「なんでこんなところに……。ここに集まってるってこと?なにこれ?」


 小猩々に聞いてみても首を傾げるだけで、なぜへその下にあるのかはわかっていないみたいだった。


「こんな漫画みたいなこと全部夢だったらいいのに」


 目をつぶって口に出してみるもこれが夢であるはずもなかった。




 この日以来真鵬は一睡もできないまま月曜日の朝を迎えた。鏡で自分の顔を見ると目の下のクマがひどい。青黒く広がっているそれは一見すると誰かに殴られてできた痣のようだ。どうしたものか、と真鵬は悩んだ。学校を休むべきか。しかしその他の面で体調不良は起きていない。確かに寝不足ではあるがもはやこの状況に慣れてしまい、眠気のピークも過ぎた。もちろん眠いことに変わりはないため、眠れるなら今すぐにでも寝たいが。


 それに学校を休むと母親もどきがしつこくその理由を聞いてくるためにうるさい。どうにかしてこの部屋から出させたいらしく、ご飯が下にあるから下りて来いだの、体温を測るなら下で測れだの、とにかく全然部屋にいさせてくれないのだ。体調が悪いことを知っているならご飯も体温計も上まで持ってきてくれればいいのに、そういう意味で心配をしてくれる母親ではなかった。家にいるときに部屋で一人、いわゆる『年頃の男の子』がなにをしているのかわからないのが怖いらしい。無理矢理家族団らんもどきを強いられる。これが不思議なことに真鵬の父親が家にいたり、真鵬が外出するとなるとなにも干渉してこない。家の外ではなにをしようがお構いなしだ。父親は朝から働きに出ているため平日の家の事情を知らない。


 父親の前では真鵬に対して理解を示し、いい子ちゃんでいるのが新しい母親だった。

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