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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第二章 自問自答
11/56

◆1

 始発で家に帰るとすぐベッドにダイブした。

 エンは屋敷から駅までちょっと遠いと言っていたがとんでもない、夜道というせいもあってか三十分以上歩いた。やっとたどり着いた駅の駅名を見てもどこなのかわからなかったため携帯で調べようとしたが電池は残り僅かで、検索をかけた途端電池切れになった。驚きだったのは小猩々がちゃんと先を行って道を案内してくれたことだった。ただの可愛らしい子猿かと思いきや案外利口だ。先を行きすぎることもなく、ちょくちょく真鵬の様子をうかがってはガードレールの上を歩いたり、街灯から街灯へ飛び移ったりしていた。


 ──ああ、携帯充電しなきゃ。


 のろのろと起き上がって充電器に携帯を差し込み、電源を入れると恐ろしいぐらいに着信履歴が残っていた。午前一時二十分、俊太。そこから一時間に渡って秒刻みで新市、雄二、昭隆から電話がきていた。その総数は二百件を超えていた。対して親からの着信履歴は午前零時三十六分の一回だけ。


 ──やっぱり俺のことなんてどうでもいいんだよな。


 慣れた扱いに納得してメッセージアプリを開くと、こっちも四人からもの凄い数のメッセージがきていた。俊太から五十二件、新市から四十三件、雄二から三十五件、昭隆から五十件。合わせると百八十件になる。受信時間を見ると真鵬の携帯の電池が切れてから送られてきたものもあり、どれも真鵬の安否を心配するものだった。ちなみに親からのメッセージはというと安定のゼロ件だ。


「ですよねー……」


 ベッドに横になりながら四人に『心配かけてごめん。ありがとう。今帰ってきたから大丈夫です。また月曜日会おう』と同じ内容を送った。

 すると送ってから三十秒も経たないうちにメッセージが返ってきた。送り主を見ると俊太だった。


『よかった!本当に大丈夫?怪我とかは?』


 ──全然大丈夫じゃないよ。悪霊に憑りつかれてますし。


 自嘲気味に笑みを浮かべたが、あったことをそのまま伝えるわけにもいかないし、何よりもこれ以上心配させたくなかった。怖い思いをしたのは他の四人も同じだ。それに普通なら死ぬところを生きて帰ってきた。それだけで充分と考えないとやってられない。


『大丈夫。それより俊太、ちゃんと寝なよ。おやすみ』


 少し素っ気ないかな、と思ったがそのまま送信した。ここで変に明るく凝った文を返すのもおかしな話だ。


 真鵬も疲れがピークに達していた。まぶたは重く、今にもくっつきそうだった。

 睡魔を我慢する理由も見当たらない。このまま寝てしまおう。

 起きたら親に形だけでもなにか言われるかもしれないが、適当にあしらってお風呂に入ろう。

 そうしたらご飯を食べよう……。


 睡眠欲に身を任せ、まぶたを閉じる。すぐに深い眠りに落ち、目が覚めた時にはもう夕方……という予定だったはずなのだが、どういうわけか一向に眠れない。もの凄く眠いのに、まどろんでいるのにも関わらず、眠れないのだ。


 寝巻に着替えようが体勢を変えようが、なにをしても眠れない。意識が沈まないでぷかぷかと水面を浮いていて、水の中に潜ろうと思っても潜れないような感覚だ。普段から『眠れない』ということがない真鵬にとって初めての経験だった。目がギンギンに冴えて眠れないということではない。眠たくて眠たくて仕方がないのに眠れない。確かに幽霊を見た日には度々悪夢にうなされてきた真鵬だが、眠れないということは今までなかった。どうにも落ち着かなくてベッドの上でもぞもぞしていると、様子がおかしいことを察した小猩々が一鳴きして枕元までやってきた。


「家の中ではあんまり鳴かないで……親に怪しまれるから」


 呂律がうまく回らない。体に力が入らないぐらいに疲労困憊しているのに眠れないのは想像を絶するほど辛いものだった。

 注意された小猩々は反省しているのかどこか寂しそうに真鵬の顔を覗き込み、ぺちぺちと顔を叩いてくる。眠気マックスの真鵬からしたら鬱陶しさしかない。


「なにしてんの……。俺寝たいんだよ。寝れないけど」


 そんな願いもむなしく、時間がただ過ぎていくだけだった。気が付けば昼を過ぎ、親が起きたのか階下で物音がした。郵便物の確認のために玄関まで行けば、見慣れた靴が置いてあるのを見て真鵬が帰ったきたことがわかるだろう。そうすれば夕飯ができるころには部屋まで呼びに来るはずだ。それまでにはなんとしてでも一睡したい。


 ──そういうところだけは親面するんだよなあ……。まあご飯が出てくるのはありがたいけど。

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