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アンチ・ハロウィン  作者: 日雀青柚
第一章 深紅、漆黒、純白
1/56

◆1

 十月二十三日の金曜日の夜、高校一年生である大鉄真鵬(おおがねまほう)は墓地にいた。しかしただの墓地ではない。学校近くにある、有名な外国人墓地である。


「お前やっぱりビビってるだろ」

「は!?ビビってないし!」


 からかってくるクラスメイトに反論しつつも、正直ここに来たことを後悔していた。

 ビビってないと強がったが、実際は懐中電灯を持つ右手が冷や汗でぐっしょり濡れている。


──俺の悪い癖だよな、ああいうの。


 自分を責め、今日の昼休みでの会話を思い出していた。


 昼休みにクラスの仲のいい男子数人で弁当を囲みながら、教室でごくごく普通の雑談をしていた。


 昨日のバラエティ番組のこと、新刊が発売された漫画のこと、ここ最近流行っているバンドのこと。


 それがいつしか時期が近いということからハロウィンの話になった。学校近くの大通りで大規模なハロウィンパレードが行われるだの、それに参加するだのしないだの、もし参加するならなにに仮装したいかなどなど。真鵬はハイクオリティな特殊メイクを施したゾンビになりたい、と話した。俺もそれやりたいな、と賛同してくれるクラスメイトたちもいて、それはそれで大いに盛り上がった。


 ここまではよかったのだ。


 なぜかそのあと話が横に逸れ、季節外れの怪談話になった。ハロウィンから幽霊に話がシフトしたからだが、そこで肝試しの話が始まった。


 クラスメイトの一人、速水昭隆(はやみあきたか)曰く、学校近くの外国人墓地に夜な夜な幽霊が出るらしい。今では肝試し好きには有名な場所になりつつある、と興奮気味に語った。

するとよせばいいのに思いつきで話す船沢雄二(ふなさわゆうじ)がそこに肝試しに行こう、と言い始めた。


──おいおい、冗談じゃない。


 真鵬は手遅れになる前に肝試しに反対しようとしたがそんな雰囲気ではなかった。あれよあれよという間に空気の流れは完全に行くことになっていた。


「真鵬ももちろん行くよな?」


 本音を言うと行きたくなかった。墓地なんて肝試しを行うためのところじゃない。「なに、もしかしてビビってんの?それなら来なくてもいいよ、ビビりちゃん」


 けらけらと笑って馬鹿にしてくるクラスメイトたちに、真鵬は自分の気持ちと正反対のことを口にしていた。


「ビビってないよ。肝試し?行くよ、行く行く」


──終わった……。さようなら、俺の安眠。ふざけんなよ、俺の負けず嫌いめ。


 真鵬はほんの少しだけ霊感がある。幽霊やそういった類いのものが見えるわけではないが、いわゆる心霊スポットや墓地などに行くと感じるのだ。人ではない『なにか』を。

 そういうものを感じた日には必ず悪夢にうなされる。毎回夢の内容は覚えていないのだが、とてつもなく怖くて、目覚めが最悪なのだ。寝汗もひどい。


 しかし真鵬の負けず嫌いな性格上、ここで断るという選択肢はなかった。事実、勝手に口から出た言葉が「行くよ、行く行く」なのだ。


 真鵬は自分自身を恨んだ。恨むのはこれで何回目だろうか。


 この負けず嫌いが災いして今まで何回も痛い目にあってきた。


 ある時は苦手な教科のテストの点を争って負け、またある時は運動会や体育祭で足の速さを競って負けた。

 小学生の時には木登りできないことをクラスメイトに馬鹿にされ、登れもしないのに無理やり登って木から落ちたこともあった。案の定大けがをした真鵬は右腕を骨折してしまい、大騒ぎになった。


 負けることなんて一目瞭然の勝負、いわゆる負け戦でも真鵬は引き受けてしまう性格だった。大の負けず嫌い。得をしたことはあまりない。


 夜中の零時に学校の正門前でみんなと待ち合わせることになった。真鵬を入れて五人で肝試しに行く。


 持ち物は必要最低限に抑えた。携帯、財布、懐中電灯。暗闇に包まれた墓地の中で落とすことだけは絶対に避けたい。


 十月も下旬、日が暮れると肌寒かった。まだまだ息が白いほどではないが、じっとしていると時折鳥肌が立つような冷たい風が吹く。


「……遅いな」


 零時ぴったりに来たにも関わらず、一番乗りは真鵬だった。携帯で時間を見ると来てから五分が経っている。


──まさかあいつらビビって尻尾巻いた、とかじゃないよな。


 もしそうなら明日学校でしばいてやる、などと考えていると数人の足音が近付いてきた。同時に談笑する声も聞こえる。


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