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ネフィリム・ヒストリー  作者: 机上森
狭間の街
1/13

境界

鈍い音が大気を震わせていた。

それは地響きであった。

とてつもなく巨大で重いものが一歩一歩近づいて来ているのである。

今は闇夜。

星々の隙間を縫って流星が通り過ぎていた。

夜空に煌びやかな筋が出来たのだが、その軌跡を気に留める者はいない。

それ所ではなかったのだ。そういう状況ではなかったのだ。

地表には砂塵が舞っていた。

砂粒のカーテンが視界を殺してしまって、一寸先すら見えない。空など見る余裕はない。

だが分かる。とてつもない地響きで、“アレ”が近づいているのだと、理解できる。

「なんなんだ? わが軍のNFでも歯が立たないのか!」

キョウカイシティ警護騎士団の団長は悲鳴に近い声を上げた。

瞳孔は次第に開いていき、顔は驚愕のためか、歪んでいく。

「団長! 我が軍残りNFは一機だけです。有効戦闘距離、自分が出ます。逃げてください!」

若い兵士がNFを駆り、飛び出す。

決死の覚悟であろう、すでに仲間のNFは大破していた。

力の差は圧倒的に見える。だが彼は若さを武器に戦いに出たのだ。

「やめろ!」団長はそう叫んだが、遅かった。

若い兵士の乗る“NF”は砂塵を吹き飛ばして前に出る。視界が晴れて、飛び出したNFの全貌が露わになる。NFと呼称されるそれは“人型”をしていた。そして見上げるほどに巨大だった。

全長八メートル。鋼鉄の身体を持つNFが、今は背中を向けている。

NFは顔だけ振り向いて、団長に視線を送った。

NFの双眸には「早く逃げてください」そんな悲痛な願いが感じられた。

あのNFに若い兵士が乗っているのである。

「ノア王国から譲渡された傑作NFであるピジョンがこんなにも弱々しく見えるとは……」

団長は逃げることが出来なかった。

無念だった。ピジョンと言えば他国にもその名を轟かす質実剛健のNFである。

この時代の最強兵器であるNFの中でもピジョンの強靭さは他を圧倒していた。

それがたやすく破壊されてしまっている。悔しさと絶望で立っていられなかった。

ピジョンの背面と前腕の装甲は特徴的であり、鳥の羽のような外装が取り付けてある。兜頭飾りはくちばしのようになっており、ピジョン、つまり鳩を連想させるシルエットになっていた。

その鳥の羽もボロボロにかけてしまっている。無残にも引きちぎられているのだ。

そのピジョンの視線の先にも巨人がいる。当然NFである。

百戦錬磨の団長をして初めて見るタイプのNFだった。

その敵のNFが既に一機のピジョンを屠ったのだ。

敵のNFは灰色の鋭い装甲をして、まるで全身が刃物といったいでたちだった。

「なんなんだあの見たこともないNFは、急に襲ってきて……」

団長は岩石の陰に隠れながら静観する。

このまま逃げるくらいならここで成り行きを見守ろうと決めたのだ。

そもそも瞬間移動とも言える、超高速機動を行えるNFに対して逃げるすべなど存在しない。

ただの人間に抗うすべなどない、究極の殺戮兵器。悪魔のような強さを持つのがNFなのだ。

砂塵がまたも吹き荒れ始める。

「団長、行きます! 走れピジョン!」

NFピジョンが走り出す。膝を屈伸させて大地を蹴りだすのだ。その挙動は人そのもの。鋼鉄のフレームでありながら、筋肉のような柔軟性で可動し、矢のように飛び出した。

「ピジョンの突撃攻撃は、速度と重量で決まる! あの打ち込みは適格だ、行けたか?」

団長も思わず岩けがから飛び出した。これ以上ない満点の攻撃に、一縷の希望がさした。

これは勝てるのか!

踏み抜いた大地を大きくえぐり、ピジョンが伸びる。

その速度は音速を超える。空気の壁を超えた証明としてピジョンの周囲に白い膜が出来た。

「無色の居城、今、我が盾となり、外敵を掻き消せ!」

音速の衝撃は凄まじい。

発生したソニックブームに団長は“防護魔法”を発動して耐える。

不可視のバリアは衝撃ごときなら無効にしてくれるのだ。

それにNFには自らが発生させる衝撃を減殺させる機能もある。

ソニックブームを緩和させることもできるのだ。

ピジョンは腰に下げた剣を抜刀、間合いに入ると敵に向かって振りかざす。巨人たるNFの扱う剣も当然巨大だ。振るわれる剣圧で砂塵はまたも拡散する。

「キョウカイシティの意地! 見せてやる!」

兵士の気合いとともにピジョンはその一刀を振り下ろす。

「当たったか!」

砂粒が邪魔になって団長からはよく見えない。口に入る砂利が酷く苦い。

ドスン! 硬質な、かつ凄まじく重量のある何かが落下した音がした。

と、同時にピジョンの突入した場所を中心に、ドーム状の爆発が起こる。

その風圧に押されて団長は岩に叩き付けられた。

背中が痛かった。頭を強く打ち付け、意識は朦朧とした。だがそれでも、

「どっちが勝った? 我らのピジョンは勝ったのか!」

薄れゆく意識の中で団長は答えを求めるように手を伸ばした。

地面が揺れ動く、何かが、巨大な何かが近づいてきているのだ。

だがその歩幅はピジョンのものとは違う。

「まさか、まさか」団長は必死に首を振って、最悪の現実を否定する。

これは夢だと懇願する。しかし現実である。砂塵の隙間からNFが顔を覗かせている。

それは灰色の巨人だった。敵のNFである。鋭い装甲をしていた。頭部は特徴的。鶏冠のような刃が取り付けられている。手に巨大な鉄の棍棒“メイス”を持っていた。

そして砂塵のカーテンの奥で佇んでいる。

ピジョンは負けたのだ。灰色のNFに敗北したのだ。

団長はかすむ意識の中、死を覚悟した。

「どうしてこんなことになった。国境付近に野盗が現れたと報告を受けて、なぜ野盗がこんなにも強力なNFを持っているのだ……。まさかっ! あの報告自体罠だったのか!」

団長が目を見開いた時、灰色のNFはメイスを振り落していた。

メイスは軽々と団長を押しつぶし、その下の大地も岩石も容易にえぐった。

その破壊力は凄まじく、えぐった大地は土砂となって吹き飛んでいく。まるで砂の津波であった。

これでは団長の亡骸などバラバラになってしまったことだろう。

「ヒャーハッハー! ノア王国のピジョンと言えど、この程度もの! 俺たちのNFグラス・ヒールの敵じゃねえ! これじゃあ俺たちの天下は決まったようなものだな! 試作運用は終了だ。フェイズ2に移行する」

灰色の悪魔から笑いが響いた。低い声であった。憎たらしく子供の用な笑い方だった。

NFの乗り手から漏れる声だった。

吹き飛んだ土砂がぱらぱらと雨のように落ちていた。大小の砂粒は様々な音響を奏でる。

砂の雨は敗北したNFにも降り注ぐ。今倒されたばかりのピジョンは五体バラバラになっていた。

今の一瞬の戦いでバラバラになってことも驚嘆すべきことだったが、その切断面は鋭利なナイフで切られたように平らだった。灰色のNFグラス・ヒールのメイスで出来たものとは到底思えない。

「兄貴、これから帰投する。準備は整っているよな? これから二人で、のし上がろう。ククク、分かっている。証拠は残しちゃいねえ……。キョウカイシティの騎士団は謎の野盗に敗北した。これがこの事件の結末さ」

男はどこかに連絡しているようだった。

それにどこか自分に酔っている風でもある。

NFグラス・ヒールは振り返り前傾姿勢を取ると、稲妻のような速さで走り出した。

最初の一歩こそ目に見えたが、それ以降は灰色の風のようにしか見えなかった。

凄まじい速度で走り去っていく。巨人の軌跡が分かるのは舞い上がる土砂のおかげである。

後に残るのは血の香りとバラバラになったNFだけ、巨人がバラバラになった様はその戦いの壮絶さを教えてくれている。ピジョンの手と足、頭はそこかしこに飛び散って砂に埋もれていた。

あの独特の羽根飾りがまっすぐに大地に突き刺さっている。

その残骸はまるで何かの遺跡のようにも見えた。

砂塵は止んでいた。静寂の中に残骸となったNFが不揃いに並んでいた。

月がさみしげにそれらを照らすばかりである。

この戦いを見ていたのは星々の輝きだけだ。闇夜の、わずか数刻の出来事であった。


ここは惑星アルカディア。

剣と魔法、そして鋼鉄の巨人の支配する世界である。

巨人はネフィリム。通称NFと呼ばれ、戦争の主役として名をはせていた。

NFは実に優秀に人を虐殺し、国を蹂躙する。

他の兵器では太刀打ちできない強さ、NFとは無敵と同義なのである。

NFは何より美しい。輝く装甲、引き締まったシルエットはまさに芸術なのだ。

そしてNFに乗る騎士のことを“リッター”と呼び。優秀なリッターはその国の英雄でもあった。

この世界では多くの国家が各々の野望を持ち、己が覇権を争っている。

その中で栄華を極める者もいるだろうが、犠牲になる者もいるだろう。

流れる涙もあるだろう。

強くなければ生き残れない世界。それがアルカディア。

ネフィリムは何を思うのか? それは誰も知らないことである。


「ごめんなさい。ごめんなさい」

少女を震えていた。涙を流し、ベッドの上で体を丸めて、何度も虚空に謝っていた。

大切な人、愛する人、それを死地に追いやった。絶望が体を満たしていた。

「どうして、私はここに来てしまったの……」

過去を悔いる事しかできない自分の弱さ、ただ辛かった。そして……。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

また涙を流すのである。冷たく、凍るような悲しみをただただ流すのである。


夏の日差しが眩しく、陽炎が浮き立つほどの暑さとなった昼下がり、

草原の揺れる放牧地帯。筋のようにできた歩道を二人は歩いていた。

少年と少女の二人であったが、仲睦まじいというようにはいかないようであった。

少女は太陽に抗議するように口を開く、

「あっつーい! 何とこの暑さ、むしむしする。汗だらけよ! パンツの中までね!」

少女、アンナ・ウェイトリーの残念な第一声である。

それを聞いた少年、メイギ・ケニーヒはウンザリしながら空を見上げた。

『確かに熱いが、流石に下品すぎないか……いやいつもの冗談か……』

メイギは、端正な顔立ちをしていた。切れ長の目は剃刀のように鋭いが、童顔であったから、怖いという印象は受けない。むしろ伸びた前髪から覗く顔立ちは無邪気そのものだ。一見すると女のようでもあるが、骨格は男のそれだから、どこかアンバランス。妖艶さに磨きの掛った風体だった。

紺と灰色のゆったりとした服に、ドス黒いローブを羽織っている。ローブの裾はボロボロであった。

さらに服の隙間から腰に下げた剣が見える。刃は輝いていた。抜き身であった。

この少年が決して一般人ではないことは明白だった。

『アンナの奴。相当暇になったな、下ネタモード全開じゃないか……』

空を見上げてメイギはなんと返事したものか思案した。実に馬鹿馬鹿しいが面倒だと邪険にするのも可哀そうだ。だが変に煽って調子に乗られても困る。どうしよう……。

「あ~つ~い~。下着だっても~めちゃくちゃ~」

隣を歩くアンナは足をバタバタとさせて抗議と一緒にアピールしてくる。

別に誘惑しているわけではないのは分かる。下着ネタが面白いと思っているのである。

メイギはチラとアンナを見てみた。彼女は目を輝かせドヤ顔で反応を伺っていた。

下着ネタを二度もブッコンで、流石にツッコミが入るでしょうと、ワクワクしている顔である。

『根本的にセンスがズレているんだよな。アンナは……可愛いのに勿体ない』

メイギは視線を戻して、ため息をした。

アンナはこの残念な才覚を考慮しても美少女である。それは誰もが認めるところであろう。

ロングの金髪、氷のような瞳に漆黒のアイシャドウ。まるで氷の薔薇だ。実に気品に満ちて優雅。

雪のような白い肌は何時溶けてもおかしくないほど幻想的で、儚い美貌を演出している。

だが、か弱くは見えない。むしろ芯が強く見えるのは、その瞳の大きさのためだろう。大粒のダイヤのように煌めく双眸はしっかりと眼窩に収まり、そこからは強い意志を発しているのだ。

長いまつげが映え、アンナはアンティーク人形に例えられることもあった。

そんな少女は緑と黒のチェックの制服とミニスカートをはきこなし、モデルのようにも見える。胸のブローチの付いた黄色いリボンは何とも愛らしい。よく似合っていた。

雪の妖精と言ってもいいだろう。評すれば絶世の美少女。それはメイギも認めるところであった。

「パンツ、パンツ、ぬれぬれ!」

だがこの笑いのセンス……どうしたものか。

「こらっ! 無視すんな、メイギ! 聞こえているだろ。ノア王国で流行ってるんだぞ!」

アンナが急に顔を出して抗議してきた。この自身がどこかくるのか謎である。

「メイギには分かんないかもね? あんたにはセンスないから」

人類誕生以来最も笑いのセンスのないアンナから言われた一言である。カチンときた。

メイギは歯と殺気をむき出しにして、

「さっきから、パンツ、パンツ、うるさいんだよ! 痴女か変態のつもりか!」

「なっなによぉ、急に怒り出して、だって前の町で流行のパンツって広告が……」

「そりゃ、パンツが流行ってるんじゃなくて、流行ってるパンツを紹介しているだけだ。だいたいなんでパンツで笑いを取れると思ったんだ!」

「いやだって、それは……パンツって防寒か、笑いを取るものでしょ?」

「違うわ! 今までどんな教育受けてきたんだ、お前は!」

「じゃっじゃあ……パンツって他になんの役割があるの?」

本当に、本当に分からないといった風に、アンナは首を傾げながら質問してくる。

首筋から幾本か金髪が流れて、首筋が一層白く見えた。

『アンナの奴、意外と、何も知らないのか!』

なんて答えたものか、幼気な少女にパンツの真の価値を伝えたものか……。

「いや、パンツはそりゃあ……お前……防寒か笑いのためのものだよ」

メイギはバツが悪そうに答えた。現実は知らなくてもいいだろう、そう自分に言い聞かせた。顔は真っ赤である。変な妄想をした自分を恥もした。

「いや知っているけどね。お色気でしょ、パンツって」

アンナはニヤリと笑う。さらにからかう様に「ソチもまた若いよのぉ」と後に付け加えた。

「貴様、やっぱり魔女は嘘つきだっ! ここで斬る!」

メイギが怒りと気恥ずかしさのままに柄を握った時、アンナは指差して言った。

「そんなことは後にしなよ。なんだかんだで、着いたよ。 キョウカイシティってあそこでしょ?。ノア王国とグリム王朝の丁度国境にある狭間の街、どちらにも属さない孤高の街」

「あっ本当だ」

メイギも柄を話して、眼下に広がる街を見やった。

目的地であるキョウカイシティはここから坂を下った場所にあって、鉱山に囲まれた街だった。

くだらない話をしている間にいつのまにか到着していたのだ。

「ねっ? 冗談もたまにはいいものでしょ? あっという間についた」

「それもそうだな、暑さで嘆くより、お前の冗談に憤っていた方がまだ刺激がある」

「そんな文句言うなら“あの子”に乗ればすぐだったのに、こうお空ビューっと」

アンナは両手を広げて飛行機のマネをしてくるりと回って見せた。

「それは無理だ。目立ちすぎるからな……。ただまあ旅も一興だろ?」

メイギはニヤリと笑って、駆け出した。「競争だ!」

「ワー、ズルーイ!」

アンナも慌てて後を追うが間に合うはずもない。男の足に女が、という話ではなく、鍛えられたリッターに、追いつけるものなどリッターしかいないのである。

そうメイギはNFを駆る騎士なのだ。


キョウカイシティ。

長い歴史を持つノア王国と新興国家であるグリム王朝との国境に位置する街である。

主な産業は鉱業で、人型巨大兵器NFを製造するのに必要な“エンジェルジェム”が採掘していた。

その鉱山は豊富な資源が埋没しているとされ、軍事的にも非常に重要視されていた。

そのことでノア王国、グリム王朝ともに、その権利独占を狙っているのだが、キョウカイシティは絶妙な立ち回りで、今日まで独立を保ってきたのである。

両国からしても、下手にキョウカイシティに逆らってエンジェルジェムの輸出を制限されれば、軍を維持できなくなるので、従うしかなかった。

キョウカイシティが他国から独立しながらも、一国の体制を取らないのは、国と呼ぶには小さすぎることと、ほとんどの産業を両国に依存しているという背景があるからだった。

またいくらか免除されているが、両国に税金も支払っている。

それでも軍需による産業はそこに住む人たちに富を与え、いつも潤っていた。

豊富な資源を背景にキョウカイしてティは独立を勝ち取っていたのである。


キョウカイシティの入り口には巨大な鉄の門があった。鉱山に囲まれているから、街の中に入るには、その門を潜るしかない。門は幅二メートルほどの厚みがあって、これを突破するのはNFであっても、ミサイル砲の直撃であっても不可能と言われている。

鉄壁。この門は今堅く閉ざされていた。周囲と鉱山と合わせて無敵の城砦と化している。

開いているのは人が出入りするための、小門だけである。

その小門の前に二人はいた。

「いやまて、それは反則だろう」

メイギはがっくりと肩を落とし、“いつの間にか先についていたアンナ”を睨んだ。

「反則はメイギでしょう? いきなり競争なんて、普通に走って、女の子がリッターに敵うはずないじゃない? いや勝っちゃったけどね、アンナちゃん大勝利だけどね」

「お前魔法使ったろ、いつの間にか消えたと思ったら、時空転移でも使ったのか、“マーギア”め!」

メイギは忌々しく吐いて捨てるように言った。

“マーギア”とは魔法を司る魔導師のことである。

マーギアとはこの世界アルカディアにおいて、NFとリッターと並ぶほど重要視される力を持つ者達。超常的な技を用い、魔性のものを召喚し、炎や水を出現させる魔法使いを指す言葉。

百の技を使う魔法使い達。だがマーギアが重要視されるのは何より情報戦に優れるからだ。

山々をも貫く目を持ち、遠くのものを見通し敵の現在位置を割り出す。その耳はどんな騒音でも、NFの振動音を聞き分け、敵の数を正確に割り出す。

優秀なマーギアを確保できれば、敵の戦力を把握し、より効率的に殲滅できるのである。

NFやリッターよりもマーギアこそが戦争の主役であると語る有識者もいる。

情報戦を握るものが勝利を得るのはどの世界でも同じことなのであろう。

「ふふふ、約束通り今日の昼ご飯はあんたのおごりよ」

アンナは優越感を抑えられない様子で、ニッヤと笑う。

「そんな約束はしとらん!」

とメイギはどなるが、こうなってはおしまいことは分かっていた。勝ち負けが着いてしまったら後は勝者の言うことを聞くだけ。それが二人のルール。ちらっと財布を見る。

二、三日分の食費はある。だが、「たっ足りるかな~」と深いため息が出た。

アンナは細い体に似合わず大食いだ。勝利の愉悦に浸って調子に乗っている状態なら、どれほど食べるか見当もつかない。いっそ逃げるか? 逃走経路が脳裏に走る。

「さっさ行こう! あそこの定食屋、美味しそうだよ!」

考えがまとまる瞬間にアンナが手を引っ張った。彼女の手は白い蝋のような肌だった。白すぎて生気を感じさせないのだ。だが握る力は異常に強い。「逃がさない」無言の圧力がそこにはあった。

「分かった、逃げる気なんてないから離せ」

「うっそだー。分かるよ、私。メイギの心臓音聞けば、今何考えるかなんてすぐ分かるんだから」

アンナは非常に恐ろしいことをウインクしながら平気で言う。

メイギは顔を引きつらせて、「そうですか」と頭を掻くしかなかった。

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