大移動
その後の行動はこうだ。戦闘スキルを持った男子が複数人で教会周辺の探索、食料の確保。生活スキルを持った人が家事をする。そして生存率を最大限にまで高めるために希望者が神倉から剣道を教わるという感じだ。もちろん最後のは女子が多すぎたため男子が不貞腐れたというオマケつきだったが……まぁ不貞腐れる余裕が取り戻されたと思えばいいことなんじゃないだろうか。
「しかし変だな……」
「お前の頭がか?」
「違うよ。教会なのに人がいないということ。つい最近まで誰かが住んでいた痕跡はあるのに誰一人いないんだ。まるで僕たちと入れ替わりで消えていったみたいに……」
「災害か何かで住民が集団避難したんじゃないのか?そのうち戻ってくるだろ。」
「僕はそろそろ頃合を見てこの町を出るべきだと思うんだ。幸い調査班の知らせによるとこのあたりに強い魔物はいなさそうだし。」
「……考えておく。俺は指示を出せる身分じゃないが。」
確かになにか違和感を感じていた、そろそろこの町を出なきゃならないということも考えていた。だが俺が今感じている違和感の原因はこの町じゃない。もっと危険なものだ。おそらく神倉もそのことを言っているのだろう。
「そうか、いい返事を期待しておくよ。」
そういい残し神倉は去っていった。
数日後、クラス会議で俺たちはこの町から南南西の方角の洞窟を抜けることに決まった。まぁ南南西といっても詳しい方角などわからないから太陽の昇り方から勝手に判断して勝手に定義させてもらった。
その翌日
「そういえば田中B、お前昨晩遅くにどこ行ってたんだよ?」
クラスメイトの田中A《仮》が田中B《仮》に尋ねる。
「どこって夜に行くとしたらトイレに決まってるだろ。」
「いやお前全然違う方向いってたぞ。」
「は?じゃあそれはお前の見間違いじゃないのか?トイレにしかいってねぇし。」
「ふぅん。そうかもしれないな……」
「しっかりしろよな。」
二人は笑いあいながら出発の準備をしにいった。
ついに出発の日が来た。戦闘スキル所持者と生活スキル所持者が2:1の割合でスリーマンセルを組み、それを最小の単位として全員で集まる。こうすることによって強者が分離し、均等に戦力を固めることができる。
「僕は横寺と景山くんと組むことにするよ。」
神倉は俺と景山を指名した。
「なるほど、最弱二人を最強さんがカバーするのか。考えたな。」
「よ、よろしくお願いします……」
調査班の調べによると、南南西のところへ数キロ行ったところにダンジョンらしきものを発見したらしい。試しに潜ってみたがモンスターが出てきそうな雰囲気はまったくなく、さらにそのダンジョンを抜けたところにある山の山頂に町らしきものを発見したとのことだ。
確かに数キロ歩いたところに洞窟の入り口のようなものが見つかった。
「よしみんな暗くなる前に抜けよう!念のため僕のチームが最後尾から遅れたものをカバーするが、できるだけ急いで抜けたいのでがんばってくれ!!」
ダンジョンの中は薄暗くジメジメしていて足場も悪い。非常に動きにくい場所だが、モンスターが全くいないのは幸いだ。こんなところでモンスターにあったら100%全滅だな。
紹介が遅くなったが、この世界にはモンスターと呼ばれる動物がいる。モンスターは大抵凶暴で人を見るなり即襲ってくる。今までに何度も確認されているが、不思議とこのダンジョンと教会の町周辺には寄ってこないらしい。モンスターがこのダンジョン付近を避けて行動するのが調査班によって何度も確認されている。
「痛いっ!!」
突然景山が叫んだ。
「どうした!!?」
「足を挫いちゃったんだ……」
「歩けそうか?」
「無理みたい……ごめん。」
「大丈夫だ。おいみんな、景山が怪我したみたいだ!とりあえず先にいっててくれ。出口で待ち合わせしよう。すぐに追いつくから!」
「おい神倉!別れるのは得策じゃない。背負ってでも連れて行くべきだ!」
「何言ってるんだ。ちょっと休めば歩けるようになる。それまで待てばいいじゃないか!」
「お前のそのくだらない優しさは緊急時に発揮するべきじゃない。時間がない。暗くなってからじゃ遅い!いいから肩を貸せ!」
「君は何を焦っているんだ?まだ昼じゃないか。そうすぐに暗くはならないだろう。」
「逆にお前は危機感を感じないのか?ここはダンジョンだぞ!」
「だがモンスターはこの場所を避けているじゃないか。」
「この場所にずっと強いモンスターがいてそれを避けているって可能性もある。」
「確かに……それに少し冷静になれば香織に治してもらうって方法もあったな……」
「その発想はなかった。でもあいつらもうすでにだいぶ先まで行ったぞ。とりあえず肩貸せ。」
「わかった。」
そうやって景山を担ごうとそちらを振り返ると、突如鼓膜を破るような爆音がダンジョンの奥底まで響き渡り、大きく揺れた。