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就職して4年目の冬だ。


いつの間にやら、土日に風邪をひくことを有難いタイミングと思うようになっている。

大坂のおかげなのか、月曜日には体力は少し落ちてしまったけれど、ケロッと何事もなかったように出社することができた。


特に部署の人にも気付かれず、至って平常に業務をこなす。少し遅めのお昼休みにコンビニへ行こうと部長に許可を取りエレベーターへ向かう。一階へ降り立つと、この週末大変にお世話になった人影が見えた。



同じ部署の女の後輩が、とても楽しそうに大坂の顔を見上げている。

こりゃあ同期たちが見たらまた囃し立てるな。と目も合わせず会釈だけしてすれ違う。




「先言ってて」



よく通る声が後ろから聞こえて自然と社外への自動ドアに早歩きをしてしまう。くるなくるなくるな。



「蓮田!」



本当によく通る声だことで。

社外へはあと数歩のところでゲームオーバー。仕方なく振り向くと、とてつもなく嫌な顔をして後輩女子はこちらを眺めている。

消えたい。




「ごめん。ちょっとお昼急いでる。」


強引に後輩の視界から消え去ろうと大坂の顔をろくに見ずに踵を返そうとしたけれど、



「体調大丈夫かよ?」


という真剣な声と、その顔色の悪さに立ちすくんでしまった。




「あんたがだめじゃん。何してんの、はぁ。」


確実にうつした犯人は私でしょうけども。冷や汗かいてますよ。お兄さん。




「いや、俺は別に。」


「無理すると後が辛いよ。今からコンビニ行くから、風邪薬後で届ける。なにが効く?」


「え、あ、おう。サンキュ。」



今、この場で呼び止められなかったらコイツはどうしていたんだろうか。もしくはわたしにSOSを出したかったのか?

どんどんと悪くなっていく顔色に焦りながらも

「まだ昼休み時間あるならそこのベンチにいて!」

とだけ言い残して、久々にヒールでダッシュをかます。


栄養ドリンクに、簡易な風邪薬に、スポドリにのど飴に、、、

思いつくものは全て買い込み社内のロビーへ戻るがそこに大坂の姿はなかった。




「はぁ。」


無駄足ですか。てか自分のお昼ご飯買い忘れた、、。ぐぐぅ、となり始めた自分のお腹と腕時計を見比べる。

机の中に常備させているエネルギー系お菓子でどうにかしのぐしかないか。



フロアへ戻るとお茶室に大坂の姿が見えた。ガチャ、と勢いに任せて入ると先ほどの後輩女子が大坂にコーヒーを差し出したところだった。



「ごめん、これ。」


コンビニ袋だけ、まるでジブリ映画の傘を手渡す少年のように無造作に大坂に渡し、もとい押し付け、自分の座席までズカズカと戻り、着席する。




大坂があの子のこと好きだったとしたら大分、余計なことしたなぁ。

あー、むしゃくしゃするー。恩は恩で返したかっただけですって言ったところでややこしさは増すばかりだし。お腹すいたし。そうか、お腹すいてるからこんなネガティブなのね。


引き出しから、黄色い箱のエネルギー系お菓子を取り出しモグモグと食べ始めると、妙に鋭い同僚に「あれ?コンビニ行ったんじゃないすか?」

なんて突っ込まれたけど、「まあね」と無表情で塩対応。


月曜から、20時を過ぎる残業になり、イライラのピーク時にピローンとまぬけな着信音が鳴った。



差し入れサンキュー。

めちゃめちゃ助かった!

こないだ買った体温計で何年かぶりに熱計ったら、38.7℃でした〜(笑)

蓮田も風邪ぶり返すなよ!





誰もいなくなったオフィスで発信ボタンを押す。相手はすぐに電話に出た。



「必要なものを述べよ。」


一 解熱剤。


「それは明日病院行きな。」


一 リアルなところ、スポドリ欲しい、、来てくれんの?



予想以上に弱々しい声に電話したことをほんの少しだけ後悔したけれど、お世話になった二日間を思うと大坂の存在を無下にはできなくて。




会社帰りに閉店ギリギリのドラッグストアに寄り、買い出しを行う。

どうしようもなく鳴っていた腹の虫には、駅から歩きながらコンビニのおにぎりを作業のように与えていく。




家の前に着き、再度電話をかけると「鍵あけっぱだからそのまま侵入してオッケー。」と元気0パーセントの声がする。


「おじゃましまーす」と呟き、室内に入ると辛うじてスウェットに着替えて、そのままベッドへ倒れ込んだであろう痕跡が残っていた。



「ごめん、さんきゅー。」


ほぼ、突っ伏したままの状態の大坂に苦笑いを向けながら、買ってきたものを机に並べる。



「いやごめん。うつしちゃって。とりあえず、スポドリ飲みな。」



「うーん。」


ほんとうに気だるそうで、いつもの明朗快活さは何処へやら。

冷蔵庫を勝手に開けさせてもらい、このあいだの残りの冷えピタを取り出す。


仰向けになった大坂のおでこにぺたり、と貼ってあげると文字通り熱っぽい視線で見つめてくる。



「蓮田、あのさ。」


「うん。どした?」


まるで小さい子に相槌を打つかのように昼間の自分とは打って変わった優しい声が出てきて驚く。




「手、にぎって。」


「どしたの。」


ほんとうに小さい子どもになってしまったような懇願に、吹き出してしまう。



「今だけでいいから。」


「う、うん、?」



週末の大坂とは180度違うキャラに困惑しながらも、熱い熱い手を握る。



「さんきゅ。」


相変わらず、熱のせいでうるんだ目をこちらに向けてくる。

子犬みたいで少しかわいい。




「蓮田、俺さ、お前に感謝してる。


蓮田のこと、すげー好きだよ。」



「ん。ありがとう。」



明日死ぬわけでもなかろうに。弟がいたらこんな感じなのかな、なんて。



熱い熱い大坂の手にギュッと力がこもり、より一層強く私の手が握られる。





「ちがう。女として好きっつってんの。」



「うん。ん?!、、は?!」






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