息
憂鬱な火曜日を通り越し、水、木と仕事が立て込み処理が終わる頃には金曜の14時を回っていた。
一旦、取引先へのファイルの納品が終わりホッとする。あとは内容を向こうにチェックしてもらって、こちらが修正を加えるくらいでいいだろう。
「お昼行って来ます。」
先ほど取り損ねた昼休憩を上司に口頭で伝え、社外へと出る。
時間をずらしてもなんの文句も言われないのが今の会社のいいところ、だと友達の話を聞いていると思う。
ビル群の風は、凍てつくほどの寒さであっという間に顔の前が自分の白い息だらけになる。ランチタイムも終わりに近づいているけれど、少し寂れた多国籍料理屋さんへ足を向ける。
680円でボリュームたっぷりのランチメニューが食べられる。パッタイ、グリーンカレー、ナン、謎のスパイスが効いた煮物、サラダ、スープ。
私のお気に入りのメニュー。
ココナッツ好きなんだよな〜。
と、この間飲んだ時に話していたあいつの声と横顔が脳内で再生される。
甘いものが全く得意でない私と対照的な嗜好のハル。甘ったるいものが大好きで、そのくせ、スイーツ男子って言われるのは嫌だ。というしょうもないプライドをもつ男。
嗜好が合うものといえば、某コンビニの飲むヨーグルトが好きなことと、大酒飲みなことくらいだろうか。
ダメだ。
少しでも心に余裕ができると結局ふつふつと姿をあらわす恋心。あいつはもう【誰かのもの】なのに。どうしたら諦めがつくのだろう。
1人黙々とお気に入りのランチメニューを食べ終え、白い息を吐きながら会社へ戻る道。仕事がまた山のように入って来て、気持ちを紛らわせてくれることを願ってしまった。
終業時刻から1時間が経って、週末ということもありポツポツと人が社内から減っていく。
仲のいい同僚に「今夜飲みに行くー?」と言われたが「先約ありです。」と申し訳なさそうな顔を取り繕って断りを入れた。私は職場での飲みニケーションがあまり得意ではない、と思う。
同期に言わせれば、たくさん飲めるからいいじゃーん!らしいが、でもやっぱり気兼ねなく友達と飲んでいるのとはわけが違うわけで。お酒はどうせならなんの気も使わず、力を抜いた状態で味わいたい。
ほどほどに仕事を切り上げ、会社を後にする。先約があることは嘘ではないけれど、先約の相手とは会社の近くで飲むことはしない。
「おっつかれい」
先に出て来たつもりだったけれど、お店の暖簾をくぐればそこにもう大きなジョッキ半分を飲み干している大坂が左手をあげて迎え入れてくれた。
「おつー。大坂、早いね。」
「うちの部署ほぼ残業デイとか言って、ただあいつが飲みに行きたいだけなんだよな。」
と、同期と飲めば必ず出てくる名物上司の口からスタート。生中を1つ頼もうと思うと、「へい!お待ち!」と卒なくビールが運ばれて来た。天才なのか、このお店。
大坂が店員さんにサンキュー!と軽く手を振る。
「「おつかれーー」」
はぁ。週末とビール。
気を使わない同僚。
いい金曜だ。