星
「泣くなよ。抱きしめたくなるだろ」
「、、、チャラっ」
「ふざけんな」
そう言う大坂の目を見ることはできないけど、きっと大真面目に怒っているんだろうな。なんてどこか他人事に考える。
それと同時に、この人を傷つけなければいけないのに、なぜこの腕の温もりに甘えたくなるのだろう。とも考えていて。
本当に自分の弱さと汚さが嫌になる。
「ありがとう。あたしなんかのこと、好きって言ってくれて。でも、ごめんね。」
笑って別れようと、上を向くとすぐそこに大坂の顔があって、
「わりぃ」
と、すっぽり私の身体は彼の腕の中に抱き寄せられた。
「ちょっと」
「ごめん。あと、3分」
「、、、だめだって」
「俺のが、だめ、」
胸がキューっと締め付けられるほどに、切ない声で、もしかしたら泣いているんじゃないかと思うくらいの声で、すごい力で私を抱きしめる大坂は、3分よりも多分長い時間、その両腕を離さなかった。
「うっし。」
私を強く抱きしめていた二つの腕と手はスルスルと私の身体から離れていく。
「じゃ、また会社ではただの同期な。サシ飲みも適度にしようぜ。家まで送る。」
くるっと私の家の方を向く大坂の後ろ姿は、少し遠くなったように思えたけれど、これでいいのだ。
彼は早く前を向いて、私から遠ざかっていってほしい。遠ざかって、私のことなど振り返らないように。ずっとずっと遠くへ。
けれど。
ハルも遠く離れていく。
心はもとより、実際の距離さえも。
ああ、ひとりぼっちなんだなぁ。
そう、しみじみと感じてしまう。
「送ってくれてありがとう。じゃ、おやすみ!」
家の前に着くと、元気にさよならを伝えようと決めていたのに、決めていたからか変なところで声が裏返ってしまった。
「マヌケなやつ。じゃあな。また来週。」
「うん。また来週!」
手を振って去っていく大坂の背中の上には、冬の空にキラキラと輝く星たちが無数に見えた。
このキラキラとともに、あなたはしっかりと幸せな恋愛を実らせてほしい。
そう強く強く、輝く星たちに願いを込めた。
部屋に入り、スマホを取り出すと何件かの連絡が入っていて。
その中の一つのメッセージに、胸の鼓動が早くなる。
ー いまひま?
たったそれだけの文章なのに。
たったの4文字なのに、
私の心を捉えて離さない。
大坂に抱きしめられた温かさで自分の気持ちから逃げようとしていたさっきまでの私はもうどこにもいなくて。
どうしようもなく、君に会いたい。
だけれど、
この連絡は3時間も前の連絡だった。
週末のこんな時間、終電も終わったような時間にはどうせ彼女と一緒にいるのだろう。
電話をかけて、声を聞きたい衝動にかられるけれど。
それでも頭にちらつくのは、少し年上の美人な彼女さんの顔で。
2人で飲みに行くことはあるくせに、こんなところではなぜかへっぴり腰になってしまう自分の性格に苦笑してしまう。
大坂はあんなにも直球に思いを伝えてくれたのに。
私はただただ、「付き合いたいわけじゃない」なんて言い訳を並べ立てて君が去っていくのを指をくわえて見ていることしかできなくて。
今夜もまた、どうしようもなく自分の思いを持て余しているのだ。




