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結果あの後、エリナが大坂から小谷の恋愛について話を切り替えた。

後輩の女の子主催でコンパをしただの、元カノがどうのこうのだの、どうでもいいことを面白おかしく話していたけれどまったく耳には残らなかった。





途中、トイレを済ませて扉を出ると男子トイレから大坂が出てきた。



「わ、」


動揺して声が漏れる。

大坂も少しビクッとしてから口を開いてくれて。



「なんかちゃんと顔合わせるの久々だな。」


「確かに。最近忙しかった?」



「まあ、そこそこ。

さっきは散々だったな。」




「いや私は別に。」



「小谷座った瞬間、露骨に嫌な顔してたけど?」



からかうように言う大坂もまた、小谷と同じようにいたずらに笑うのにまったく嫌悪感を感じない。




「出てたかぁ。嘘は苦手です。」



「そろそろ同期にも素を出しゃいいのに。」



「クールな蓮田さんだから。ふふっ」




「最初は俺も騙されたけどなぁ。

さ、噂される前に席戻るか。」



「うん。あのさ、」




「ん?」


「今日、帰り話そ。」






トイレ前で立ち止まって話していたけれど、前へ足を進めようとする大坂に言ってしまった。

この、優しい瞳をこれ以上利用できないと強く感じながらも、いつまでもこの生ぬるい関係に収まっていたいと弱い私は甘えてしまいたくなる。






「どした?急に。」




振り返り、大坂の片手が頭を撫でようとした瞬間、座敷から小谷が歩いてくるのが見えて、不意にその手を避けてしまった。





「ううん。じゃ、戻ろ。」








その手を避けた瞬間、とてもさみしい目をした君には気づいていたけれど、これからもっともっと寂しい目をさせることになる覚悟をもたなくては。







「お、ラブラブな2人ジャーン!密会〜?」



小谷のほろ酔いの陽気な声はスルーして席へ足を進める。

後ろからは、小谷の茶化しに律儀に対応する大坂の声が聞こえて、息が苦しくなるほど切なくなった。



二次会で2時間ほどカラオケに行き、終電間際での解散。

今、残っているメンバーの中で同じ方面は私と大坂だけで。いつも通りのことなのに、これから告げなくてはならない言葉を意識してか、電車を待つホームでもうまく話が紡がない。




「混んでそうだね。」


「終電だもんな。」


「うん。」






電車は案の定混んでいて、いつのまにか当たり前のように大坂は私を守るように立っていて。


ほんの少しの優しさが、心に刺さって、痛くて痛くてたまらない。

この人のことを好きになれたら、なんて幸せなんだろうとほろ酔いの頭で考えたくなるのに。

どうしても、どうしようもなくチラつく、いや、チラつくなんてものじゃない。私の心を占める面影が脳裏をよぎる。





「じゃあま


「今日、送る。

話しもできてないしな?」




私の最寄駅に着く少し前、さよならの挨拶にかぶせて大坂の声が降ってくる。

話をしようと言ったのは確かに私だったのに。このままなにも伝えず帰ってしまいたいと思ったのもまた事実で。





「でもこれ終電。」


「近いだろ。」




言い訳にするには隣の駅に住んでいるこの距離には無理があった。

満員電車の人混みの流れに乗り、最終電車から降りる。

なんの会話もないままに改札を通り抜け、小慣れていると言った様子でうちまでの帰り道をスイスイと歩いていく。





「家、ついちゃうよ?」



「だね。」



「送り狼しちゃうよ?」



「しないでしょ。」



いつも以上におちゃらけたようなトーンで私を振り返る君は、ほんとうに優しい顔をしていて。









「俺、待ってるから。お前がふられんの。」




きっと、世界で1番優しい悪魔のような取引を持ちかけてくる。






「だめだよ。」



「いや、そこはこっちが決めることだろ?てか俺の気持ちだから。」




「大坂を縛っておけるほど、いい女でもないし。あたし、なびかないから。」






出会った頃のように、なるべくクールに、あなたのことを全く微塵も好きではないというふうに。

優しい目を全て拒絶するように、伝えなければいけない。

それがわたしにできる精一杯の優しさだから。






「大坂のこと、一生友達以上には思えないよ。





だから、困る。」







なるべく感情を込めずに言えたのに、右目からは涙が一筋流れてしまった。









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