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大坂は二日間会社を休んで、木曜日には嫌味を言われるほど元気になって出社してきた。

コーヒーをわざわざ私の机にまで持ってきて、「サンキューな」と小さい声で笑って去っていった。


周りには誰もいなくてホッとしたけど、妙な元気さが逆に少し心配になる。

そんな、木金を過ごして週末を迎える。


いつもより入念にメイクをし、冬に負けじと少し足首なんかを出してしまうファッションで街へと繰り出す。



その日は、地元のツレ3人で会うはずだったのに、急遽デートが抜けられないというなんともあっぱれな理由で私とハルは強制的に2人で飲むこととなった。






「なんか雰囲気変わった?」



急に2人になったからなのか、なんともギクシャクとした空気が流れてることに耐えられず、一杯目のビールが届く前にハルにツッコミを入れてしまった。




「どゆこと?」



鼻にかけたように、バカにしたように、ふっと笑いながらハルは答えたけれど、やっぱりなにか「いつもと違う感じ」が漂っている。


とりあえずのビールが運ばれてきて、乾杯をし、もう1人が来ないことを愚痴ったり、何気ない会話で1時間ほど飲み進める。




そんなにお酒が弱いわけではないけれど、何週間かぶりのハルを目の前にして、顔がだんだん火照っていくのが自分でもわかる。




「はーあ。なんか、いいね。」


何と比較するわけでもないけれど、あなたの隣がとても心地いい。

そう思い、口に出してしまった抽象的な言葉。



「どした?酔っぱらいか?」


「へへへ。まあ、そんなところ?」


「おまえってほんとずっと能天気な笑顔だよな〜。」



わたしの好きな笑顔を見せるハル。

だけど、なんだかどこか泣きそうで。



触れたい


と、そう思ったけれども、それを実行に移す力も権利もわたしにはない。






「言わなきゃいけないことがあるんだ。」



「ん?」


あまりにも神妙な顔に、自分が告白してしまったか?なんて勘違いをしそうになる。けどそこまでわたしはまだ酔っ払っていない。





「俺、転勤することになった」



「え」









転、勤、、?



「どこへ?」


転勤といっても、東京から離れるだけで選択肢なんかいくらでも、




「九州。鹿児島。」



いくらでも、あるはずなのに。





あまりにも、遠い。





「ええぇ。」





自分でも驚くほど、力ない声が漏れ出てしまった。







「今回の人事で、なにかあるって覚悟はしてたんだけど。驚きだよな、まったく。」



平然と、何事もないように話すそぶりは、逆にどうしようもなくわざとらしくて。




「そっかぁ。うーん。そっかぁ。」




だからといって、それに対してうまく返せるほど、わたしの脳みその理解力も、心の整理をつける力も作動できなくて。





「トイレ行ってくる!」




どうしようもなく、目頭が熱くなってきて休憩時間を申し出た。

トイレの個室に入るなり、目からは涙が止まらなくて。


切なくて。



痛くて。



悲しくて。





どうしようも、なくて。











今まで、


ハルに彼女ができた



と報告されるときの何倍も、苦しくなった。


あなたの人生そのものから、



大好きな人の人生そのものから、







物理的に


遠くなる




何となくしか想像できないけれど、「会いたい」と伝えたとき、その言葉はとてつもない重さを持って私たちの遠さを痛感させることはわかる。




「九州って、、ふっ」





自嘲気味な笑いともため息とも取れる言葉が自分から出たけれど、どうしようもない気持ちなのはきっと、ハルも同じなのだ。ということはわかった。



だけど私たちの間で徹底的に違うのは、


相手を恋愛対象として、好きかどうか。




友達としてならば、悲しくても寂しくても笑顔で送り出してあげられるはずなのに。

わたしは、切なさで胸が押しつぶされそうで。


座席に戻って、君の笑顔を見ることさえ、涙の源になりそうで。


一体、どうしたらいいんだろう。






この悲しさと切なさをどう、気付かれずに会話を進めたらいいのだろう。



そんなことを考えながら、目頭の涙と少し落ちてしまったアイラインの跡を消し、洗面台の鏡で笑顔の練習をした。







いってらっしゃい、


と、笑顔で言ってあげる練習を、した。

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