願
大坂の力ない声のお願いに了承したわたしは、その熱すぎる額と手から一度身を引き、寝支度を整えた。
電気を消す前にもう一度大坂のおでこを触り、冷えピタを張り替える。
熱が下がる気配はまだなくて、相変わらず熱い体。
少しだけ体を起こしてやり、水分を取らせる。
「なぁ、この看病した記憶明日には全部忘れてて?」
力ない声で何を言い出すのかと思えば。
「ばっちり覚えとく。むしろ同期女子に言いふらしてやる。」
どうだ、という感じで大坂を見れば、
「おまえはそういうことしないでしょ。」
と、まっすぐに目を見て言葉を伝えてくる。
「あ、あと今日もソファで寝ちゃだめだから。隣で寝ろ。」
さりげなく隣で寝ることを強制するなんてぬかりないやつ。
「いや風邪うつるから。」
「そしたらまた俺が看病するから。」
「永遠ループじゃん、それ。」
「それもいいかも。」
帰宅した頃よりは少し元気が出たのか、いつも通りの口が達者な大坂に戻ってきたようだ。
そしてまんまと、一つのベッドをシェアして眠ることになった。
電気を消すと、熱い熱い体にぎゅーっと抱きしめられ、「おやすみ」と、いう言葉が降ってきた。
人肌って心地いいな、なんてのんきに考えてしまったけど、さっき告白されたことをふと思い出し、顔まで一気に熱くなる。
朝起きると、相変わらず隣の同僚は苦しそうな顔で。
覚悟はしていたが致し方なく、上司に電話し、半休とった。
そして、この男にも。
「一旦起きて。電話して。はい。1日休みね。」
「あー。仕事溜まってる、、」
「ダメ。あんたを休ませるためにわたしはここにいるんだからね。」
あーだこうだ、辛そうな顔でいまだに言い訳を続けるので、携帯を取り上げ、有給申請の内容のメールを大坂の上司宛に送信した。
「あーーー!」
「ほら。あと一時間後に病院いくからね。」
「なんか、、無理やりがすごい、。」
「早く治したいなら従ってください。」
「へーーい。」
一時間後、まだうだうだと言い訳をしている男を病院の前まで連れて行き、中に連れそう。
「子どもできたらこんな心境なのかな。」
「どんなだよー。」
明らかにまだ熱でしんどそうな彼は、ほんの少し体の重さをわたしに預けていて、油断すれば、「かわいいな。」「頼られてるな。」という感情で、君の「好き」を受け入れてしまいそうになった。
待合室で彼の名前が呼ばれたところで、サヨナラを告げ、会社へ向かう。
時間の関係というよりも、これ以上近くにいてはいけないと、感覚的に恐れを感じた。
この心地いい関係に甘えるのは、彼を傷つけてしまうことになるから。
わたしは、彼を解放しなくてならない日が来るから。
それができるだけ早くないと、彼をより一層、深く深く傷つけてしまうことになるから。
今はただ、早く熱が下がって欲しい、
そして、君の幸せがいつかいつか。
いつかいつか、君の大大大好きになった人によって、作られていって欲しいと
優しく優しくと願う。
冬の寒空でも、さっきまで寄りかかられていた右腕あたりだけが、ふんわりと温かさを保っていた。




