恋
彼女と初めて出会ったのは、今の会社の最終選考の面接だった。
社長を目の前にしても、淡々と話すその姿に凛々しさを感じた。ただ、それだけ。
入社してから3ヶ月の研修期間では、ほとんど話す隙を与えずといった感じで、みんなとそれなりに距離を置いている。そんなイメージをもった。
研修も終わり、それぞれの部署に配属になるとたまにお茶室で顔を合わせた。
このフロアには他に同期がいなかったこともあり、顔を合わせるとお互いに少しホッとした空気が流れた。
仕事どう?と、研修時よりも明るい声色で蓮田から話しかけてきた時には、なんだ普通なやつじゃん。と妙に安心したのを覚えている。
急激に仲良くなったのは、七月の後半。
高校の同級生たちと海に出かけたとき、なんとその海で蓮田を見かけた。
会社の顔とは真逆というくらいはしゃぐ彼女の周りには同世代の男女が数名。
あんな顔できるんだ。なんて親近感が湧いた。
声をかけにいくと、「ぎょっ」という言葉がお似合いなほどたじろいでいたが、お互いお酒が入っていたこともあり会社とは違うテンションで2,3言交わした。
男子校出身の俺らの仲間内では、いつもならただ鬱陶しく感じられる男女の集いもなんとなくほのぼのとした気持ちでその後も何度か眺めてしまった。
休みが開け、会社で会った蓮田は「こっちのキャラ作るの大変なんだよね。」と海で見た笑顔と同じ無邪気な様子で話しかけてきた。
なんだよ。それ。
と、社内の人が知らない顔を知れた優越感とこれまでの蓮田はなんだったんだ?というモヤモヤとを残しながら、「今度飲みにでもいこう。」という言葉が口から滑り落ちる。
そこからは、あっという間に月に1,2度サシで飲みにいくほど仲良くなったけど、アイツには彼氏がいて。
俺の方にも彼女がいたりいなかったり。
そんなただ他よりも少しだけ仲がいい同期だと思っていたのに。
「どうしても、消せない 好きな人がいるんだ。」
ちょうど一年ほど前、だいぶ酔っ払った彼女は悲しげに呟いた。
その言葉に、なぜかどうしようもなく心が痛む自分がいた。
その言葉に、いつからか同僚以上の思いを蓮田にもっていることに気づかざるを得なくなった。
それでもいたって平静に、いつでもそばにいるけどってなスタンスで隣に居続けたけど、それももう限界で。
でもよりによって、なんでこんなカッコ悪いところ見せながら告白なんかしたんだろう。
むしろ面と向かって、「好き」なんて。
青いなぁ。
もっと勝率上げてから。
せめて、こいつが振られたから、優しく優しく話しでも聞いて落としてやろうと思ってたのに。
金曜日の夜、俺の部屋でお酒に飲まれながらに「ハルのこと、どうしたら諦められるかわかんないんだよ。」なんてバカなこと抜かしている彼女に我慢ができなくなった。
そんなアホみたいな恋捨てて、俺のところに来いよって言いたくなった。
潰れかけの彼女をベッドに横たわらせ、ぎゅーっと抱きしめる。
俺はまってるから。
そう呟いたけど、酔っ払い女はすでに寝息を立てていた。




