雨
最近の私のお決まりの枕詞は、「付き合いたいわけじゃないんだけどさ」だ。
友達に、好きな人のことを話すとき、その言葉は好きという言葉にセットで私の口から出て行く。
付き合いたいわけじゃない
わけじゃない。
付き合えないとわかっているから。
釣り合わないとわかっているから。
好きという気持ちを伝える勇気がないから。
だから、私は
「付き合いたいわけじゃないんだけどさ」
その言葉を使って、自分の気持ちが羽目を外さないようにする。
付き合いたいわけじゃない
わけじゃない
私の好きな人は、羽田 遥。
中学の同級生。
そんなこんなで、10数年の付き合いになる。
今日の夜、暇してるよね?
明らかに人を小馬鹿にしたこんなメールが来ても、私は嬉しくなってしまう。
素直に表には出さないけれど。
外は憂鬱な雨だけれど、足取りは軽い。
私が一人暮らしをしている駅まで電車に乗って15分ほどの彼の実家から会いに来てくれる。私のために少しでも時間を割いてくれる。そのことが嬉しかった。
会うと他愛のない話ばかり。
でも、必ず私が話題にしたくなってしまう言葉を出すと、いつも明るい彼が言葉を濁す。
「どうなの?最近は彼女と」
「んー。」
「なんでそんな顔すんの」
「…最近、好きかどうかわかんねえし。」
だったら、さっさと別れればいいのに。涙腺が緩みそうになるけど、こんなところで泣いてらんない。
「複雑な野郎心だね〜」
と、からかうような声で言うと、ジョッキに残っていたビールをすごい勢いで飲み干して一言。
「君に馬鹿にされたくないんだけど」
と、ムスッとする。
そんな子どものような表情が可愛くて、胸がジーンとする。
付き合いたいわけじゃない
その言葉が頭をめぐる。
こんな風に、ハルのいろいろな表情を独り占めできたら。どんなに幸せだろう。
なんでハルは、私と2人であってくれるんだろう。
届かない想いと、素直な願望と、素朴な疑問が頭の中を埋め尽くす。
空きっ腹にハイボールをぐいっと飲み込んだ。