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04

 それから昼はお茶会で、夜は夕食で、と国王と過ごす時間が増えた。


 そんな日々が一年続き、大分打ち解けてきたが、ルイと国王の関係は変わっていないようだった。


「国王様、ルイと交流を深めましょうよー」

「善処しているが、ルイが俺を避けるんだよ」


 最近、口調も大分砕けてきた。

 偉そうでムカつくと最初の頃は思っていたが、国王といえども、この人も普通の人のようだ。

 それにルイと似ていて可愛いところもあるし、顔はルイと似て、整っている。

 知性的で、話していて楽しい。


 と、いうのは誉めすぎかもしれないが、私は国王が嫌いじゃない。

 ルイの次くらいに好きだ。


「ルイが国王を?反抗期ですかね?」

「馬鹿か。反抗期なら何故未だにお前にはべったりなのだ?毎晩同じベッドで寝ていると聞いているが」


 国王は夕食以外で私達が住む離宮には来ないから、多分ナティウスさん辺りから聞いたのだろう。


「まだ七歳ですよ。まだまだ甘えたがりの時期じゃないんですか?」

「そうなのか?では、俺にだけ反抗期というのはおかしな話だろう」

「まあそうですよね…」


 と私は苦笑いを浮かべた。


 その日、離宮に戻ってから国王の話をルイに聞いてみた。

 直球すぎるかもしれないと思いながらも、


「ルイは国王が嫌いなの?」


 と。

 ルイは首を横に振った。

 安心して溜め息を吐く。


「嫌いじゃないよ。でもね、僕のニイナをとるから、嫌い」


 ルイはとてもかわいらしく言った。

 矛盾しているが、なんとなく、母親をとられた気分になったのか、ということは理解した。


「とられてないよ。私はずっとルイの母親だよ。だから、国王様とも仲良くしてくれる?」


 というと、ルイは複雑そうな顔で頷いた。

 ルイは少しずつだが、大人になってきている。

 最近では学校に行きたくないと言わなくなったし、魔力も安定してきたらしい。


 ルイの成長に嬉しく思いながら、ルイの頭を撫でた。



 次の日、ルイが私をとられたというのでしばらくの間、お茶会の頻度を少なくしたいと、国王に言ったところ一瞬で却下された。


「お前は、俺の息子をマザコンにする気か!?」


 と国王に怒られた。


 確かに私は過保護かもしれない。

 しかし、今国王がルイのことを「俺の息子」と言ったのが嬉しかった。

 ルイも成長したが、国王も成長したのかもしれない。



 ちなみにこの国にはマザコンという言葉はない。

 勿論国王にこの言葉を教えたのは私だ。


 ちゃんと意味を理解していたらしい。

 流石国王。


「あのな、えっと」


 私が黙っていたので、怒ったのかと思ったらしく、国王は気まずそうに言葉を発する。


「怒ってないですよ」


 と言うと、


「いや、あの、な。聖母がお前で良かった。お前を選んだルイに感謝する。そしてお前にも。ありがとう、ニイナ」


 と、国王は少し顔を赤くしていた。

 初めて国王に名前を呼ばれた。

 初めてお礼を言われた。


 心臓がきゅうっと締め付けられて、思わず涙が浮かんできた。

 流すまいと思い、上を向いたが、それでもだめで、涙が頬を伝った。

 国王の方を見なくても彼が戸惑っているのが分かった。

 でも涙は止まらなくて、私は沈黙の中しばらくの間ここに来て初めての涙を流していた。


「こちらこそ、私にルイを託してくれてありがとうございます」


 やっとのことで私は言った。


 いきなり異世界に連れてこられて、初めての子育てを一人でして、妊娠もしたことないのに、勝手に身体から母乳が出るしで、驚いて不安で、心細かったけど、私は何度もルイの笑顔に助けられた。


 そして、それを誰かに認めて欲しかったんだと思う。


「これからは俺もルイの父として、ルイの傍にいようと思う。だからニイナも一緒にいよう」


 国王があまりにも真剣な瞳で言うので、愛の告白をされている気分になってきた。

 いや、分かってるよ、そんな意味じゃないことなんて。


「勿論。ルイが十八歳になるまで」


 と私は答えた。

 国王は頷いた。

 表情はあまり読み取れなかったが、悲しげに見えた。




 それから、国王は夕食以外の時間も離宮に来て、ルイや私と過ごすようになった。

 ルイは戸惑いながらも国王と仲良くなっていった。

 それと同時にさらに私にもべったりになった。


 ルイが大きくなるにつれて、学校の友達が遊びに来るようになった。

 友達と仲良く出来ているようで安心したが、男の子の友達の話をしても、女の子の話が出てこない。

 ましてや、ルイは好きな女の子の話もしてこない。


 ルイは男の子だから恥ずかしいのかなとか思っていたが、十二歳で魔術学校を卒業する年になってもそんな話が出なかったので、心配になってきた。


 国王にお願いし、ルイに同年代の女の子を紹介してもらうことにした。

 こんなことをするのは大きな間違いだとは思ったが、将来の国王として、女の子に興味がなどまずいと思ったからだ。


 しかし、ルイはその女の子を拒んだ。

 私は困って、ルイに、


「女の子が苦手なの?」


 と聞くと、ルイは、


「苦手じゃない。でも、ニイナにしか興味がない」


 と言った。


 ひとまず苦手じゃないと聞いて安心したが、恐ろしい事態が起きているかもしれない。

 ルイはマザコンになりつつある。


 ここは、様子見だと放置し、ルイは魔術中等学校に入学した。

 中学校のようなところだ。


 そこからは、女の子にモテモテで、お付き合いもあったらしい(ナティウスさん情報)ので、安心していたが、家に帰れば私に甘えてくる。


 抱きついてきたり、膝枕を要求してきたり…。

 やばい、立派なマザコンかも…と思ったので、


「そういうのは恋人にしてもらいなさい」


 と言ったことがあるが、無表情で、


「ニイナにしか興味ない」


 というのだ。


 これは後戻りが出来ないと、頭を抱えた。


 三年で、魔術中等学校を卒業、魔術高等学校に入学し、十六歳になったルイ。

 ここに来た時の私と同い年になったと思うと、時が流れるのは随分と早い。

 私はというと三十二歳になった。

 不思議な気持ちだ。


 身長がぐんと伸び、大変大人びた、カッコイい顔立ちになった。

 だが、その大きくなった身体を生かし、昔、私がルイにしたように、今度はルイが私の身体を膝に乗せられ、髪を撫でられたときに気付いた。


 このままじゃだめ、なんだと。

 これは立派なマザコンだ。

 いや、もうやばい。


 魔術学校を卒業した時点で別々に寝るようになったし、女の子とのお付き合いもあったみたいだし、と安心していたが、母親(代理)を膝に乗せて頭を撫で撫でとかしているのは異常だと思う。


 国王に相談すると、国王が暮らしている本邸の方に移ればいいと言われた。


 まぁ、同じ敷地内だし、少しの間距離を、開ければ何か変わるか、と思って移ってみたが、現実はそうは行かなかった。


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