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02

 その次の日から、私とルイのほぼ、二人の生活が始まった。

 オムツを換え、ミルクを飲ませる。

 私の乳から…。


 ナティウスさんから聞いた話だが、私の体を妊娠したときと同じような状態にして、この世界に転生させたらしい。

 ここに来る直前に感じていたお腹の痛みはこのせいかもしれない。

 もちろん私のお腹の中には子供はいないが、母乳は作られているらしい。


 高校生にして、自分の母乳を赤ちゃんに飲ませることになろうとは思いもしなかったが、それなりに良い経験をしているのだと、思うようにする。


 それから一年して、ルイは大分大きくなった。


「ニイナ!ニイナ!」


 と、ルイは私を呼ぶ。

 母親としての呼称は覚えさせなかった。

 ルイの母は死んだ王妃だけだから。


 物心がついたところで、ルイは高位の魔術師に魔力を制御する方法や、扱い方を教わることになった。


 その間の空き時間、私はこの世界についての本を読んだり、初めて来た時に見た庭を散策したりしていた。

 本の知識や、ナティウスさんの話から、私は少しずつこの世界について理解していった。

 そして、初めて会った時以来、王子に会いに来ない国王に不満を持つようになっていった。



 ルイが魔力の制御が出来るまでは、ご飯を作ったり、掃除をしたり、と一人でやらなければならないことが多くて大変だった。

 年の離れた妹がいたので、抱きかかえ方などは分かったが、一人が家事をしながら、子育てというのはつらかった。

 正直、何度も泣きたくなることがあった。

 

 特にルイが泣いているときだ。

 どうして泣いているのか分からないし、ルイは夜泣きがひどく、寝れないわ、どうしていいのやらで、一緒に泣きたかったくらいだ。


 でも泣こうとは思わなかった。

  

 それに、ルイの無邪気の笑顔を見れば頑張れた。

 とにかくルイは可愛い。

 可愛くて、可愛くて仕方ない。


 ルイが三歳になる頃には魔力の制御が出来るようになったので、高位のメイドが数人、少しの時間だが来てくれるようになり、私の負担は減ったが、ルイは私が離れると泣き出し、魔力の制御が出来なくなるので、私は殆どルイに付きっきりだった。

 

 困った私は


「男のこなら、自分が泣くんじゃなくて、泣いている女の子を笑わせられる強い男のこになりなさい」


 と、ルイにいうと、次の日から、ルイは泣いて私から離れないということはなくなった。


 そして、ようやく手が離れるようになったのは、ルイが六歳になり、私の国で言う、小学校である、魔術学校に入学してからだ。

 ちなみに、魔術学校は六年で卒業でき、中学校にあたる魔術中等学校は三年、高校にあたる魔術高等学校も三年で卒業できる。

 


 ルイは毎日

「学校に行きたくない」

 と言うのだ。

 理由を尋ねると、

「ニイナと離れたくない」

 だそうだ。


 これは困った。

 王子をいじめる大馬鹿者はいないだろうと思っていたが、そんな理由だとは思わなかった。


 毎日、渋々といった様子でルイは学校に行く。

 これは良くないと思い、なんとかしようと考えるが思いつかない。


 そして、父親から言って貰えば、ルイの気持ちも変わるのではないか、と思い付いた。


 魔術の制御を習うなどの時だけ、国王はルイに接していた。

 しかし、私とルイが住む離宮には一度として訪れたことがない。

 つまり、私は異世界に初めて来た時以来、一度も国王に会っていない。


 私は国王が、ルイと親子として接触していないのが不満だったのだ。


 ナティウスさんは一日に数度、私とルイの様子を見にきてくれるので、その時、国王に会えるように頼んでみた。

 ナティウスさんは快く引き受けてくれて、意外にも数日後、国王との面会が許可された。


 国王は広い部屋の一番奥まったところの玉座に座っていた。

 六年ぶりに会う国王はどこも変わったところがないように見えた。

 といっても、六年も前のことなんて曖昧で、あんまり覚えてないんだけど。


「ルイは学校が好きではないようです。渋々と学校に通っているのですが、国王様からなんとか言って頂けないでしょうか」


 私は挨拶もそこそこにそう切り出した。


「通っているのなら問題はない。俺から言う必要はないだろう」


 国王は冷たくそう言った。

 そんな言い方はないと思う。

 仮にも国王はルイの父親だ。


「その言葉は無責任です。どうして、ルイと家族としての時間を過ごされないのですか!ルイとあなたは国王と王子という関係の前に親子なんです!」


 つい、腹が立ってそう言ってしまった。

 が、言ってから後悔する。


 この国は今までみてきた限り、この国王の王政だ。

 だから、この人の言葉一つで頭が切り落とされてしまうかもしれない。


 怖くなって、座り込む。


 国王が玉座を降り、近づいて来る気配がする。


「分からない。親子というのがよく分からない。ただ、国王としてならルイと自然体で接触できる」


 国王は静かにそう言った。

 その言葉は酷く悲しげに聞こえた。


「それなら、晩御飯だけでもルイと摂るというのはどうですか?」


 そう提案して、


「考えておく」


 という国王の言葉を聞いてから、面会は終わった。


 そして、その日の晩、本当に国王は離宮にご飯を食べに来た。

 お手伝いに来てくれるメイドさんが大急ぎで作っているのを見て、人間必死になればなんでも出来るののか、と思った。


「学校は楽しいか?」


 国王はルイにそう話しかける。


「はい。とても楽しいです」


 ルイは外向けの顔でそう答えた。

 親子に見えない…。

 このままでは二人の関係は変わらないだろう。


 なんとかしなきゃと思うが、和むような話も出来ず、そもそも私だって、国王と話すことなんてないし、交流なんてほぼ皆無だったから、緊張している。


 どうしよう、どうしよう、と思っているうちに、食事会はお開きになった。


 その日の夜、ルイと同じベッドに入りながら、今日の食事の反省点を考えた。


 私が国王に緊張していては、ルイまで緊張してしまう。

 だからまずは私が国王と仲良くならなければならない。


 とりあえず目標は決まった。


 国王と仲良くなる!



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