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01

 高校時代の仲良し六人で久しぶりにご飯を食べに行った日、友人の妊娠を知った。

 そして、結婚するらしいとも。


「まさか、ナルが一番に結婚するとは思わなかった~」


 誰かがそう言って、みんな賛同するように頷く。


 妊娠した、ナルこと、愛海なるみはこのメンバーの中で一番ぼんやりしていた子だから、確かに驚きはあったが、でも、大分雰囲気が変わっていた。


 私達はみんな、順調に大学に進学して言って、今は大学三年生だ。


 三年しか経っていない、なのに、みんな着実に変わっていっていた。

 いや、むしろ三年も、と言った方がいいのだろうか。


 ナルのお腹はもう大分大きくなっていて、ふとあの可愛らしい天使のような男の子を思い出した。


 ナルにお願いして、お腹を触らせて貰った。


 お腹の中の子が動くことは無かったが、そこには確かに命があった。


 それからみんなで近況報告をし、ナルの結婚式のことを色々聞いたりして、時間は過ぎて行った。


 高校時代の気の置けない友人と過ごすのは凄く楽しかったが、はっちゃけ過ぎたらしい、帰り道で降ってきた雨に濡れて、家に帰る頃には体調が悪く、玄関に倒れ込んだ。


 このまま寝たら、風邪ひくだろうな、とは思うが指一本動かす気にはならない。


 次の瞬間、頭が真っ白になった。


 眠くて、怠くて仕方なかった筈の身体が一瞬で覚めるような…。


 それに妙な既視感を覚えた。

 またも、ぎるあの男の子ー、ルイの顔。



 次に目を覚ました時に、私はあの・・宮殿のベッドに寝かされていた。


 私はこの場所を知っている。

 私は以前ここに住んでいた。









 私、難波新奈なんばにいなは、高校の時、ここに来たことがあるのだ。

 その日は、朝から雨が降っていて、せっかく緩く巻いた髪はストレートに戻ってしまった。

 駅に着けば人身事故の影響で、電車は遅れているし、いつにもまして、車内は混雑していた。


 学校に着いた頃には湿気と電車の中で揉みくちゃにされたせいで、髪はボサホザ。

 制服のスカートのひだもぐちゃぐちゃだった。

 気持ちの問題なのか、なんだか腹痛までしてきた。


 兎にも角にも、気分は最低だった。


 雨のせいなのだからみんな、同じようなものだろう。


 ただ、帰り道はもっと最低だった。

 放課後、外は朝より強く雨が降っていた。


 これ以上酷くなって、電車が止まってしまう前に帰ろうと、私は家路を急いでいた。


 最寄り駅に着いて、家に向かって歩き始めたあたりで、雷までなり始めた。

 雷の光と音が、大きくなるにつれて、どんどん怖くなる。

 一刻も早く家に帰りたくて、私は走り出した。

 空が光って、すぐに大きな音がした。


 どこか近くに落ちたのだろうか。


 頭ではそう冷静に思うのだが、怖くて仕方なかった。


 もう一度空が光った瞬間、頭が真っ白になった。


 ただ、なんとなく、雷が自分に落ちたのかもしれないと、思った。






 次に目を覚ましたのは病院のベッドではなく、どこかの高級ホテルのような造りの部屋のベッドの上だった。


「お目覚めですか?」


 そう声をかけられ、見上げると、そこには燕尾服のようなものを着た、従業員らしき人がいる。

 風格からして、明らかに下っ端などではなさそうだ。



「今すぐ、医者をお呼びします!」


 反応のない私に焦ったように、燕尾服の男性は部屋から出て行った。

 一瞬止めようかとも思ったが、凄いスピードで出て行ってしまったから、それどころじゃなかった。

 それに明らかに日本人とは異なる造り、しかも凄く整った顔立ちのナイスミドルだったため、というのも少しはあるかもしれない。


 それにしても、よく出来たホテルだ。

 世界史の資料集に載っている中世ヨーロッパの宮殿のようだ。


 私はベッドから降り、周囲を見回した。


 降りた瞬間に私の素足を包んだ絨毯はとても柔らかく、高級なものなのだろう。

 そこで自分の着ているものが見覚えのないものだということに気がついた。

 学校の帰りだったのだから当然のように私は制服を着て、ローファーを履いていたはずなのに…。



 戸惑いながらも、次に、窓の外を覗いてみる。

 私がいる部屋の下はお庭のようで、丁寧にお世話された花が咲いていた。

 しかし周りは右手側に森があり、左には大きな城門が見える。

 そして、街並みもかなり遠くに見えた。


 そこでやっと思った。


 ここはどこなのか、と。


 こんなホテルは知らない。

 ホテルにしても立派過ぎるし、もし存在しても私が入れるような場所ではない。


 もしかして、外国に拉致された?

 それにしては待遇が良すぎる。


 唸りながら考えてみても、答えは出そうになかった。


 そのまま、ベッドに座りながら、考えていると、ドアがノックされた。


 多分あの男性が帰ってきたのだろう。


 どう返事をしていいのか分からず、黙ってしまう。


「失礼します。聖母様?扉をお開けしても宜しいですか?」


 そう丁寧に聞かれ、「聖母様」と呼ばれたことに驚いたが、


「はい、どうぞ」


 と答えた。

 燕尾服の男性と共に白衣を着た男性の医者が入ってきた。


 医者は私の手と頭に触れると、一つ頷いて、


「もう大丈夫そうだね」


 と言った。


「もう少しお休みになられて下さい。国王がおいでになられたら、お話をさせて頂くので」


 燕尾服の男性はそう言ったが寝てなんかいられる訳がない。

 何が起きているのか全く分からないが、とにかく異常事態なのだ。


「ここはどこですか?それにあなたは誰?」


 私は燕尾服の男性の言葉を無視する形でそう言った。

 状況を把握したい。


「申し遅れました、私はこの城の使用人頭をしています、ナティウス・ナーナルと申します。ナティウスとお呼び下さい。そして、ここは、クリエント国の王城でございます」


 燕尾服の男性こと、ナティウスさんはそう言った。


 クリエント国?王城?


 さらに訳が分からなくなってきた。


「大丈夫ですか?聖母様?続きは国王がいらっしゃってから、詳しく説明いたします」


 ナティウスさんはもう一度「おやすみください」と私に言った。


 私も、次こそは頷いた。

 そして、現実逃避するように瞳を閉じた。



 何時間眠ったのか、目を覚ますとあたりはもう暗くなっていた。

 そして、私の制服が畳まれて置かれていた。

 洗濯してくれたようで、きれいになっている。


 ふと、隣に小さな温もりを感じて、そちらに目を向ける。


 可愛らしい、天使のような赤ちゃんが眠っていた。

 思わずそっと、抱き寄せてしまう。


 それから突然ドアが開いて、誰かが入ってきた。

 ノックをしなかったということは、ナティウスさんではないようだ。


「国王!?何をっ!」


 焦ったようなナティウスさんの声が後ろから聞こえて来た。

 しかし、部屋には入らず、扉の一歩手前で止まる。


「お前が聖母様か?」


 少しだけ馬鹿にしたような響きを含んだ声。

 国王と呼ばれた人は傲慢そうな男だった。


 変な問いかけに、私が答えずにいると、


「はい、この方が聖母様でございます」


 と、ナティウスさんがかわりに答える。


「そうか、ならその赤子をよろしく頼む」


 と、国王は私の隣にいる赤ちゃんを見て、そう言い、部屋を出て行こうとした。


「意味が分かりません」


 私は少し語気を強くして言った。


「ナティウス、説明をしていないのか?」


 国王はナティウスさんを見て、冷たくそう言った。


「申し訳ございません。国王がいらっしゃってからの方がよいかと思いまして…」


 ナティウスさんが男に頭を下げた。


「まあ、いい。俺が説明しよう」


 そう男は言って、説明を始めた。


 さっきナティウスさんが言った通り、ここは王城で、この男が国王らしい。

 そして、この私の隣で寝ている赤ちゃんが、この国のただ一人の王子ールイ・オルタナシスらしい。 

 問題はこの王子が母親を失ったことにあった。


 この王子の母、王妃は王子を産んですぐに亡くなってしまった。

 この国では例え王妃はであろうとも、子の世話は母親が見るものだとされていたため、王子の世話役をたてなければならなくなった。


 しかしながら、王子は産まれながらの魔力が強かったために、国王以外に彼の面倒を見ることが出来る者は少なく、高位のメイドや、使用人頭のナティウスさんでさえ、王子の魔力にあてられ、立っていることが出来なくなってしまう。


 王子の世話を出来る者は国王と魔力の高い魔術師だけであり、両者も多忙の身だ。

 実質上、王子の世話の出来る者が居なかったのだ。


 そこで発案されたのが、異世界の、魔力のない者を呼び寄せること。

 現に赤ちゃんの隣にいるが、身体が不調を訴えることはない。



 今までも、迷い込んできた異世界人がおり、すぐに可決され、王子の魔力を使い、魔術師がそれを操ることによって私はこの世界に呼び出された。

 それは、王子が召還する者を選ぶという意味合いがあるのだそうだ。


 王子は神に愛された者ではなければならない。

 そのために得体の知れない異世界人に殺されるような者ならば、それはこの国の王位継承権を有する者ではなかったのだということになる。

 四六時中、二人きりに王子と異世人をさせざるをえなくなり、王子が殺されるという可能性も格段に上がる。

 そのため、そうして、王子がその異世界人に殺されてしまったときの責任が王子にいくようにされている。


 そして、召還された私は「聖母」という地位が与えられ、王子が成人する、十八歳まで世話係し、役目を終えたならば、元の場所に、同じ時間軸に、戻す、と国王は言った。

 つまり、私のここで年齢を重ねても、元の世界に戻れば、ここに来た時の年齢で帰されるということだ。


 一通り話し終えると、部屋には沈黙が流れた。


 こんな知らない場所に連れて来られて、私に拒否権はない。

 だから私は黙っていた。


 今すぐ、元の世界に戻してと言う気にはならなかった。

 私がいなくなったら、隣で眠っているこの子の世話を出来る人が居なくなってしまう、と思ったからだ。


「これからよろしくね」


 私は小さく、赤ちゃんに話しかけると、それを聞き、私が承諾したと理解した様子の国王が立ち上がり、


「よろしく頼む」


 と短く言い、部屋から出て言った。

 ナティウスさんも、


「最大限の協力はいたします」


 と言い、去って行った。


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