び、びっくりしたー…。
「小さいって言えば、やっぱり両生類と爬虫類とかも可愛いよなーっ!ほら、コインの上に載るくらいの大きさのっ。あれも一回見てみたいなぁー」
先ほどの騒動があってから暫し後。三人はそれぞれ自分の活動を開始していた。成正は真剣そうに書物を眺めながら何かをノートに書き綴っており、玉吉はというと一太郎に餌をあげたり世話をしている。
一心はそんな真剣そうな成正を背に、みたらしを抱きかかえながら玉吉と話をしていた。
「へぇ!そんなのが居るんですかー。それは可愛いですねーっ」
一心が少し驚いたようにそう言うと、玉吉はそんな一心の様子を見て、爛々と目を輝かせた。どうやら興味を持って貰えたことが嬉しいらしい。顔が一瞬で嬉しそうに輝いたのが分かった。
「だろー!あとは日本にいるんだし、トウキョウトガリネズミも見に行きたいんだー。世界最小哺乳類の1つに数えられてるネズミなんだけど、まだ見たことなくてー……」
「え、東京にそんなネズミが居るんですか?」
そんな一心の言葉を聞いて、玉吉は苦笑いを浮かべる。
「違う違うっ、名前は東京だけど生息地は何故か北海道なんだー」
「え-?じゃあなんで東京なんですかね?」
一心が腑に落ちなそうにまた小首を傾ぐ。それを見て、玉吉も首を傾げた。
「さぁー?それは俺も知らないなー、なんでだろ……」
「謎ですねー……。千葉にあるのに東京が付くネズミの国みたいな感じでしょうか?」
「なのかなー……?……まぁ、それはさておき」
「はい」
一心が返事をすると、玉吉が今度は少し嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「なーんと、そのトウキョウトガリネズミが多摩動物公園にいるらしいんだよ!」
「え、そうなんですか!?」
玉吉の言葉を聞くと、一心が驚いて興味津々そうに玉吉の事を見る。
そんな一心を見て、玉吉は嬉しそうに頷いた。
「うん!だからいつかは見に行きたいんだけど、一緒に見に行くやつがいなくてねー。一人は流石に寂しいなーと」
しかしその後、玉吉は少し困ったように眉を顰めた。
そんな玉吉の姿を見て一心がしゅんと落ち込む。一人という言葉が特に響いたらしい。
「そうですよね、一人は寂しいですよね……」
「そうだ一心っ!じゃあ俺と一緒に動物園に行ってくれないかっ?」
その時、玉吉が思いついたようにそう一心に提案した。それを聞いて、一心の表情がぱぁーっと明るくなっていった。
「わぁ、いいんですかっ?行きたいですっ!部活の先輩と一緒にお出掛け……。うん、いいっ」
一心が誰にも見えないように小さくガッツポーズを取る。すると玉吉がそんな一心の言葉を聞いて、心底嬉しそうに喜んだ。
「ほんと?やった!一緒に行こう、一心!」
「はい!行きましょう先輩!」
二人はそう言うと、幸せそうに微笑みながらそれぞれ動物と戯れ会話し始めた。
そんな二人の様子を見て、成正が溜息を吐いた。
「はぁ……。おい、気持ち悪いぞっ。男二人で動物園とか、ないだろ普通」
「それを言うなよ、成正……」
それを指摘された玉吉が、それは考えないようにしていたのにと言わんばかりに、バツが悪そうに目線を逸らす。
しかし一心はそれを指摘されると、ハッとした後、悲しそうに俯いた。
「いいじゃないですかー。部活の先輩と動物園行ってもっ。……家族以外の人と遊びに行くの楽しそうじゃないですかぁ」
今にも泣き出しそうな一心の表情を見て、成正と玉吉の二人がしまったという風に顔を歪め慌てて始めた。
「あ、すまん一心っ!悪気は無かったんだっ!だからその……取り敢えず泣くな」
「うん、行こう一心っ!俺と一緒に動物園にっ!」
「絶対行きましょうね?先輩……」
そんな二人の言葉を聞いた一心は、辛うじて泣きそうになるのを踏みとどまりながらそう玉吉に告げた。
「おっじゃまっしまーすよ!」
するとその時、生物室の扉が勢いよく開いた。扉は勢い余って、ものすごい衝撃音を響かせてまた閉まった。三人はその音に驚いて、肩をびくりと震わせる。
扉を見ると、閉じた扉がいそいそとまた開くのがみえた。
成正と玉吉の二人は、その後すぐため息を吐き、一心は相当驚いたらしく、いまだ鼓動の早いらしい心臓を押さえている。
「……御守。お前はもっと静かに入室できないのか?」
「心臓に悪いよー、もうー。ねぇ、一心?」
「え、うえ!?あ、は、はい……」
「え、一心!?大丈夫?」
予想以上の一心の驚きようを見て玉吉が驚いた。成正が呆れたようにまた溜息を吐く。
「はぁ。御守、お前のせいだぞ?一心が怖がってるじゃないか」
「そーだぞ?男の子を怖がらせるなんて、最低だー」
「うえ!?御守の方は女の子ですよ!?」
扉を開けて室内に入ってきた少女が、そう驚いて声を上げる。
「それにその人は誰なのですか?御守よりなんだか先輩たちに大切にされてそうで、御守妬いちゃいますよ-?」
少女はそう言うと、少し不服そうに頬を膨らませて、こちらに向かって歩いてきた。
「いや、大丈夫だ。お前を大切に扱ったことは一度も無いからな」
「うん、御守には俺も気を遣ってないからー」
「うえ!?先輩たち酷すぎですよ!?」
二人がそう告げると、少女は驚いて突っ込んだ。
「あははー、半分冗談だってー。御守からかうの面白くってー」
「なーんだ、冗談ですか……って、なんで半分なのですかー!?」
少女はおそらく天然で引っかかって突っ込む。少女の様子を見て、玉吉が笑った。
成正も少し顔を綻ばせる。
「そんなことはさておき」
「そんなことじゃないですよ!重大な問題ですよ!」
「新入部員が入ったから、そいつを紹介する」
「現部員もかわいがってください!」
「うるさいぞ、御守ー」
「なんで御守は蔑ろにするんですかー!?」
少女が不服そうに頬を膨らませた。しかし、空気を読んで口を噤む。
成正はそれを確認すると、また話し出した。
「今日から部員になった1年の森山一心だ。仲良くしてやれよ?ほら、一心、もうちょっと前に出てこい」
「は、はいっ」
そう言われると、一心は少女の前へと緊張しながら出てきた。
すると少女は、一心の顔を訝しそうに覗き込んだ。
「一心……?一心……」
「うえ!?え、えっと……」
「御守、近すぎだ」
一心が困ったように慌てていたので、成正が御守の頭を小突く。御守が小突かれた頭を抱えた。
「痛!痛いですよ先輩!女の子の頭小突くとか、暴力反対ですよ!」
「男の子の顔を近くで覗き込むお前が悪い」
「そーだぞ?一心はデリケートなんだから、気をつけてよね?」
「御守だってか弱い女の子ですよ!」
「「大丈夫だ、か弱くないから」」
「なんで先輩たち御守に厳しいんですかー!」
少女が痛そうに頭を抱えている。表情がまた不服そうだ。
「それはさておき」
「おかないでくださいよ!」
「こっちの元気が有り余っててうるさいのが、部員の1年、織凪御守だ。一心、仲良くしてもらうんだぞ?」
「よ、よろしく、えっと、織凪さん……」
「御守でいいよー」
「え、えっとじゃあ、み、御守……。よろしくね?」
「よろしくねー……って、あー!!」
突然、挨拶を交わしたところで御守が何かに気づいたように叫び声を上げた。一心は突然のその声にびっくりして肩を震わせる。
「森山一心って、あの猫ちょー好きすぎて一心不乱に猫撫でちゃう森山一心くん!」
「え!?何で知って……」
「だって、有名だもんねー。にゃははー」
「……もうやだ、噂って怖い」
一心はそれを聞いて落胆する。しかしそんな一心に御守が手を差し伸べた。
「まぁまぁ、自己紹介は残念だったけど、部員同士仲良くしよーよっ。よろしくね!」
「よろしく、御守……」
一心はその手を取って握手を交わした。