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生物部の人々  作者: 小野宮 夢遊
一話 一心の入部
6/15

え、えっと、ごめんなさい…。

 「じゃ」

 「いってくる」

 「いってらっしゃーいっ!」

 「気をつけてねっ。みたらしのことは僕がみてるからー」

 「おい、ちゃんと日焼け止め塗ったか?あとタオルと水筒持ってるかっ?気分悪くなったらすぐに帰ってくるんだぞ」

 「お前はお母さんかって」

 それから少しして、艾と豆打の二人は何処からか取り出した麦わら帽子を被り、お揃いの肩掛け鞄を掛けると、虫取り網と虫籠を持って外へと通じる裏口の扉の前に立っていた。

 成正の心配ぶりに、思わず玉吉が苦笑いを浮かべる。一心が抱きかかえているみたらしがニャーと鳴いた。

 二人は昆虫採集にこれから行くらしい。と言っても、校内の草むらに出掛けるだけらしいが。

 「はーい」

 「倒れたら戻る」

 「いや、それじゃもう遅いだろう」

 「ご臨終」

 「ご臨終」

 「不謹慎だろっ!ちゃんと倒れる前に戻ってこいよ」

 「らじゃー」

 「らじゃー」

 二人はそう言うと、無表情のまま手を挙げた。

 「じゃあ、みたらしのこと、よろしく」

 「よろーくー」

 「うん。気をつけてねっ」

 そして二人は元気よく外へと繰り出した。

 パタンと、扉の閉まる音が響き渡る。

 「さて、じゃあ俺たちも活動しますかー」

 「そうだな」

 二人がそう言って踵を返すと、その後すぐ、今度は準備室の扉が開く音が響いた。

 三人は驚いてその扉の方を振り返る。

 「……あ゛ぁーっ、このやろーっ。校長の奴私を虚仮にしやがって……っ」

 するとそこから出てきたのは、スラリとした長身の女の人だった。モデルのようなスタイルと美貌であるが、しかしその顔はとても不機嫌そうに歪んでおり、そして何故か手には枕が抱えられている。

 「あ……」

 「やばいな、今日は……」

 その姿を見ると、玉吉と成正の二人はばつが悪そうに顔を引きつらせた。

 一心はそんな二人の様子と、不機嫌そうな女の人を見て首を傾げた。

 「……先輩、あの人は誰ですか?」

 一心が小声で成正にそう尋ねる。すると、成正も小声で答えた。

 「……あの人は、桜田さくらだ優子ゆうこ先生だ。生物の先生で、この部活の顧問でもある、んだが……」

 「……おい、お前っ」

 しかしその時、その女―――桜田がそう声を発した。見ると、桜田の視線の先には一心の姿が見える。一心はその瞬間ビクッと身体を震わせて、そして慌てて返事をした。

 「は、はいっ!」

 「誰だ」

 桜田がもの凄く不機嫌そうに一心に尋ねた。その問いに、また一心はビクッと震えた。そして、慌てながら答える。

 「え、えとっ、きょ、今日からこのせ、生物部に入部しましたっ!一年の、も、森山一心ですっ!」

 「勝手に入部すんな」

 「え、えぇーっ!あっ、ご、ごめんなさいっ!」

 一心がとても驚いたように狼狽して、そして意味も分からず頭を下げた。

 それに見かねた成正が口を挟んだ。

 「先生、こいつは今日部活動見学に来てくれて、入部を希望している一年生です。先ほど入部の意志を示しましたので、先生への報告が遅れました。申し訳ございません」

 「ふん、そうか」

 成正がそう説明すると、桜田はフンと鼻を鳴らしてそう返事をした。すると、暫くの間不機嫌そうに一心をじっと見つめる。一心が緊張したように息を飲んだ。

 「……寝る」

 「……はい?」

 しかしその沈黙の後に桜田が発した言葉は予想外の一言だった。一心が不思議そうに首を傾げる。すると桜田は眠そうに欠伸をして踵を返した。

 「……入部したいなら勝手にしろ。じゃ」

 桜田はそう投げやりに言い残すと、また準備室の奥に消えていった。

 「……何だったんだ、今の……」

 一心が呆気にとられてそう言うと、玉吉と成正の二人が溜息を吐いた。 

 「……結局何しに来たんだか」

 「相当機嫌悪かったね……」

 そう呆れたように二人が口々に言うと、キョトンとしていた一心が不意に心配そうに表情を曇らせた。

 「あ、あの……」

 そんな一心の様子に気付いて、成正が口を開く。

 「あぁ、あの人偶々機嫌が悪かっただけだから、さっきの言葉は気にしなくていいぞ。まぁ、いつも機嫌は良くないことが多いが……」

 「特に寝てるとき起こすと最悪に機嫌悪いから気をつけてね?」

 続いて玉吉も一心に忠告する。

 一心はそれを聞いて困ったように溜息を吐いた。

 「はぁ……。じゃあ、なんであの先生は教師になったんだろ?」

 一心は不思議そうに首を傾げた。




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