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生物部の人々  作者: 小野宮 夢遊
一話 一心の入部
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む、虫…?

 「ねこ」

 「ねこー」

 一心が打ち拉がれていると、その時、教室の扉が開く音と共に、二人の少年少女の感情のあまりこもってない声が響き渡った。その声に成正は口を止め、三人は扉の方を振り向く。

 するとそこには、二人の少年少女がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。この学校の制服を着ているが何処か幼く見える。二人は、顔がとても似通っていた。

 「艾、豆打。おはよう」

 「はよー」

 「ござますー」

 成正がそんな二人の姿を見て声を掛ける。すると、二人は同時にペコリとお辞儀をして、一心の元に近づいてきた。

 一心はそんな二人を少し訝しそうに眺めていた。すると、二人は一心の前まで来て、一心をじっと無表情のまま見つめた。

 「え……?えっと……」

 一心が困って首を傾ぐと、二人が同時に両腕を伸ばした。

 「ねこ」

 「ねこー」

 「ねこ?……あ、あぁっ!」

 一心はそう言われると、抱いていた猫を二人に渡した。すると、二人はほんの少しだけ微笑んで、猫を撫でた。

 「ねこ。元気?」

 「ねこー。生きてたー」

 「いや、死んでたら困るでしょーっ?」

 「そーだね」

 「そーだよ」

 玉吉がそんな二人にそう声をかけると、二人はまた感情のこもってない様な声で同意した。一心は、そんな二人を見て、少し焦る。

 「え、えっと……」

 すると、そんな一心に気づいた玉吉が、二人の自己紹介を始めた。

 「あぁ、二人はね、一心と同じ一年生の、松前艾まつまえ よもぎ松前豆打まつまえ ずんだだよっ。二人は双子で、この生物部の部員なんだっ」

 「よろしく」

 「おねがーします」

 「よ、よろしくお願いします……っ」

 一心がそう言って、少し焦りながらもお辞儀をすると、二人も同時にお辞儀をした。

 そして顔を上げると、二人が一心のことを指差して尋ねた。

 「だれー」

 「だれー」

 それを聞いて、玉吉が焦ったように答えた。一心は突然現れた二人の同級生に驚き慌ててあわあわとしていた。

 「あぁ、一心は、今日から生物部に入部した、艾と豆打と同じ一年生だよっ!二人とも、仲良くしてくれよーっ」

 「も、森山一心ですっ。よ、よろしくお願いします……っ」

 玉吉がそう紹介すると、一心が慌てながらそう言ってお辞儀をした。すると、艾と豆打もそれを見て二人同時にお辞儀をした。

 「どーも」

 「はじましてー」

 二人がそう言うと、その時猫も挨拶をするように少しニャーと鳴いた。


 「そ、そうだっ。二人は、どんな活動しているんですか……?」

 一心が少ししてから思い出した風を装って、艾と豆打に話しかけた。同級生と話すことが久方ぶりなので、かなり緊張している。

 そんな一心の姿を見て、艾と豆打が首を傾げた。

 「一心……?敬語やだー」

 「ぎこちない……」

 そんな二人の発言を聞いて、一心が少しビクッと体を震わせた。それを見て、玉吉がポンポンと一心の頭を優しく叩き、頑張れーっと応援する。……なんだろこれ、すごく恥ずかしい。

 「え、えと……。艾ちゃんと豆打くんは……」

 「艾でいい」

 「豆打でいい」

 「じゃ、じゃあ、艾と豆打はどんなことしてるの?この部活で……」

 一心がやっとの思いでそう尋ねると、その時二人が答えた。

 「虫……」

 「虫……」

 「え……?虫?」

 一心が首を傾げてそう尋ねると、二人が同時に頷いた。

 「うん。虫。追いかけたり」

 「つかまーたり。逃がしたり」

 「虫と遊ぶ」

 「戯れてる」

 「へぇーっ、虫が好きなんだねっ!」

 一心がそんな二人の言葉に感心すると、二人が嬉しそうにほんの少しだけ微笑んだ。

 「虫好き……」

 「大好き……」

 そんな二人の様子を見て、一心も少しずつ緊張を解いていった。


 「ところで、その猫の名前はどうするのー?決めた?」

 一心が少しずつ打ち解けてきたところで、玉吉がそう尋ねた。すると、成正が口を開く。

 「じゃあ、ホーエンハイムだ」

 「お前には聞いてないっ」

 すると、猫を抱えた艾と豆打が首を振った。 

 「まだ」

 「まだ」

 すると、その言葉に一心が少し驚いたように尋ねた。

 「えっ、まだ決めてないの?」

 艾と豆打がコクンと頷く。

 「決めてない」

 「まだ、ただのねこ」

 それを聞いて、一心が唸った。

 「そっか……。でも名前がないと不便だな……」

 「なんか、候補に挙げてる名前とかないの?」

 玉吉がそう尋ねると、二人が少し小首を傾げて考え込んだ。そして、二人一緒に口を開く。

 「バッタ?」

 「バッタ?」

 「いや、それはややこしい。やめよう」

 「じゃあ、クワガタ?」

 「じゃあ、クワガタ?」

 「……それもやめようよ」

 玉吉が苦笑いを浮かべると、二人がそんな玉吉を見て、不思議そうに首を傾げる。

 するとその時、一心がポツリと独りごちた。

 「みたらし……」

 「みたらし……?」

 その言葉に、玉吉が首を傾げる。その後、二人も一緒に首を傾げた。

 「みたらし?」

 「食べたいの?」

 「あっ、いや、そういう意味じゃなくて……っ」

 そんな三人の様子に一心は慌てて手を振った。そして、猫をじっと見ながら口を開く。

 「いや、その子の名前、みたらしなんてどうかなーって思って……。ほら、その子白地に茶色い模様の三毛だから、みたらし団子みたいだなーって。それに、艾と豆打が拾ってきた猫だから、ちょうどいいかなって……」

 一心が少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう言った。すると、三人は顔を見合わせる。そして、うんと頷き合った。

 「一心、それいいよっ!みたらし……。いい名前じゃないかー!」

 「みたらし、いい」

 「いい名前」

 三人はそう言って一心に微笑みかけた。一心はそれを見て、驚き慌てた。

 「えっ、ほ、本当にですかっ?」

 そんな一心を見て、三人が嬉しそうに頷いた。

 「じゃあ、この子の名前はみたらしで決定っ!」

 「わー」

 「わー」

 玉吉がそう声を上げると、艾と豆打があまり感情の篭っていないような声で歓声をあげる。一心は、それを見ていて、なんだか嬉しくなって笑った。そして、二人に抱きかかえられた三毛猫―――みたらしの頭を優しく撫でる。

 「よろしくね、みたらしっ」

 そう言うと、みたらしが返事をするようにニャーと鳴いた。

 そんな会話の繰り広がる近くで、席に座って成正が本に顔を埋めていた。

 「オレの意見は無視か……」

 そう言って、不服そうにムッスリとしていた。



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