ね、猫が好き…。
「……ところで、生物部って基本何をするんですか?」
一心は暫くしてから、肝心なことに気づいてそう尋ねた。なんだか口車に乗せられて入部させられた気がする。なんだか得体の知らない部活に入部しちゃったんだけど……。大丈夫かな、僕。将来幸せの壺とか買っちゃったらどうしよう。
一心がそう尋ねると、成正と玉吉がニヤニヤし始めた。待ってましたと言わんばかりの顔だ。……怖い。
すると、二人が嬉しそうに口を開いた。
「この生物部は、基本的に生物に関わる自分のやりたい研究や活動を行うんだっ!毎月学校支給の部費の範囲内か、超えるようなら自分で部費を出して研究活動をするっ!」
「なんでも好きなことをやっていい。実験をするのもよし。生き物を飼うのもよし。史書を漁るのも、勉強するのもよし。生物に関わることなら、なんでも大丈夫だ」
「え、そんなに自由なんですかっ?」
一心はそんな二人の言葉に驚いて尋ねた。どんな部活かと思ってビクビクしたが、そんなにフリーダムな部活なら少し安心だ。猫……はちょっと学校では飼うのは無理だとしても、授業でやらなかった実験や失敗した実験もやり直せるだろうし、勉強も教えてもらえるだろう。いいかもしれない。
一心がそう安堵していると、その時玉吉が尋ねてきた。
「ところで、一心は何が好きなのっ?好きな生き物でも、分野でも、なんでもいいよっ!」
「興味あるな。何が好きなんだ?」
成正も興味津々に尋ねてくる。一心はその状況に少し戸惑って口ごもった。
「え、えっと……」
するとその時、生物室に隣接した生物準備室のドアが少しギイと開いた。するとそこから可愛らしい声が聞こえてきた。
「ニャー」
「猫っ!?」
一心はその声に気づくと勢いよく立ち上がって、声のする方へと駆けていった。するとそこには、可愛らしい三毛猫の姿があった。それを見ると、一心は飛びつくようにその猫を抱きかかえて撫で始める。
「よーしよしよしっ!お前可愛いなーっ!どっから来たんだー?迷子かよー?」
一心は嬉しそうに笑みを浮かべて猫を撫でる。するとそれを見て、最初玉吉と成正は呆然としていたが、そのうち嬉しそうに笑みを浮かべて一心に近づいていった。
「何一心?猫が好きだったのっ?あっ、そういえば自己紹介でも猫が好きだって言ってたって聞いた気がするっ!」
「一心は猫が好きだったのか。可愛いとこあるじゃないか。ちなみにその猫はうちの部が飼ってる三毛猫のパラケルススだ」
成正がそう嬉しそうに微笑みながら答える。すると、その言葉を聞いて玉吉が顔を顰めた。
「何勝手に決めてるんだよっ。まだ決めてないだろっ?」
「じゃあ、テオフラストゥス・フィリップス・アウレオールス・ ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイムだ」
「長いだろっ!そんな長い名前誰も呼べないぞっ!第一、拾ってきたのは艾と豆打だろ?勝手に決めるなよーっ」
「……そこは同一人物だろっ、それっていうツッコミが正解なんだが……」
「知らないよ、そんなのっ!」
そんなコントのような会話が繰り広げられる中、一心はそんな二人のことは全く気にせずに猫を嬉しそうに構っている。そんな一心の姿を見て、二人も微笑むのだった。