あ、怪しい者じゃなくて…
「えっと……、何部がいいかな?」
放課後の校舎をウロウロとしながら一心は独りごちる。担任に貰った、担任のお手製らしい手書きの部活一覧を手に、廊下をゆっくりと歩いてゆく。
まず候補として、運動部はパスだ。大会に向けて頑張っているところに突然新入部員でーすは気まずい。すごく気まずい。だから同様に吹奏楽もパス。……音楽は苦手だし。
そんなことを思いながら、なんとなく文化部に目星をつけて特別棟をウロウロといていた。文化部で、今から入っても大丈夫そうなのにしよう。将棋部か、英語部か、文芸部か、書道部か……。
そんな時、一心はある教室に突き当たった。それを見上げると、一心は呟く。
「生物部……?」
その教室は、生物室だった。紙にも生物部の文字が他とは少し離れて、思い出したように書かれていた。
「し、失礼しまーす……?」
なんとなくその部活が気になった一心は、生物室の扉を開けた。担任の紙によると、生物部の拠点はここらしい。
恐る恐る中へと入ると、そこには二人の人影が見えた。不思議そうにこちらをぽかんと見ている。
それを見ると、一心は慌てて事情を告げた。
「あ、あの、怪しいものじゃなくて……。部活見学させてもらいたいんですけど……」
一心がそう告げると、二人の顔がぱぁっと嬉しそうに輝いた。そして二人のうち一人がニコニコしながら近づいてくる。
「なになに入部希望者っ?何年?何年?」
そう言いながら寄ってきたのは、元気で明るそうな少年だった。自分ではバレてないと思っているんだろうか、他人からはバレバレな茶髪が印象的だ。
「い……一年です」
「そうかそうかーっ!俺は二年!真田玉吉っ!よろしくーっ!」
「も……森山一心です」
「へぇー変わった名前……。あっ!もしかして君あれっ?転校初日に自己紹介でスベって孤立した森山くんっ!」
「え……なんで知ってるんですか」
「あははーっ。だって君有名だもーん」
「……知らないほうがいい事実を知ったような……」
なんだろうこのテンション。辛い。
一心は少しこの教室に足を踏み入れたことを後悔しながら目線を逸らした。
するとその時、別の人物が一心に近づいてきて話しかけた。
「すまないな、君。いっしん……だったか?コイツ馬鹿なんだよ」
困り果てた様子の一心に近づいてきたのは、一見頭の良さそうな顔立ちの少年だった。黒髪にメガネであるせいもあるだろうが、しかし女子のファンがいそうなイケメンだ。
その少年は少し困ったような顔つきで一心に話しかけてきた。それを聞いて、玉吉が不服そうに口を尖らせる。
「おい成正っ!バカっていうなよバカってっ!お前が頭良すぎるからだろーっ」
「いや、お前は馬鹿だ。すっごく馬鹿だ。オレは未だにbとdを間違えるような奴を頭いいとは思わない」
「あ、あれはたまたまなんだってーっ。……まぁ、いっつもやってるけど」
「それが馬鹿って言うんだよ。お前、この前数学のテスト漢字でバツ食らったんだろ?」
「……それは気のせいだと信じてる」
そんな会話が続いたあと、玉吉は床に視線を落とし、成正と呼ばれた少年は呆れたように溜息を吐いた。
一心はそれを見て、どうしていいのか分からずに呆けていた。すると、それを見た成正が少し微笑んで言った。
「オレは神木成正。この馬鹿と同じ二年だ。よろしくな」
「あ、よ……よろしくお願いしますっ」
一心は頭を下げた。
「……で、一心は入部希望なのか?」
ひとまず適当な場所に座ると、成正がそう尋ねてきた。それを聞いて、一心は正直に口を開く。
「この部は、なんとなく気になって見学に来てみたんですけど……。どこか、部活に入ってみたら、と、……友達できるかな……なんて」
一心が少し恥ずかしそうに赤くなりながらそう答えた。すると、それを見ていた成正と玉吉が笑った。それを見ると、ますます恥ずかしい。
「なるほどな。オレも玉吉に聞いたよ。酷かったんだって?」
「……はい。もう思い出したくないほどに」
「うんうん。なるほどっ。友達欲しいもんなっ。部活に入れば出来るもんな、普通っ」
「……普通はクラスにも友達出来るものだったんですけどね」
そんな会話をしていると、その時成正が提案した。
「じゃあ、試しにこの部活に入ってみないかっ?この学校は入部届けは一切なし。入部すると言ったその日が入部日だ」
「え、そんな軽いものなんですかっ!?何この学校、適当だな……」
「高校の部活なんてそんなもんでしょっ?たぶん」
「……オレは吃驚したけどな、最初」
そんなことを口々にしながら、その時また成正が尋ねる。
「部活の掛け持ちも出来るし、取り敢えず試しにでも入ってみないか?嫌だったらすぐに抜けても構わない。どうだ?」
成正がそう少し微笑みながら尋ねてきた。一心はその成正の顔を見て少し戸惑いながらも頷いた。
「じゃ、じゃあ、入部してみます……っ。よろしくお願いします、先輩」
「ああ。よろしく頼むよ、一心」
「よろしくーっ!一心っ!」
一心はそう言って、微笑みながら二人と握手を交わした。
いい人たちみたいだし、入部も悪くないかな。
そう思って、一心は安心した。