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④ 月の化身 -3-

 裸の私に目のやり場が困るというので、アランのジャンバーを羽織らされた。

 そして何処に行く当ても無かった私は、アランに誘われるがままに夜道を歩きながら話し合っていた。


「……そうだ。ルナは、何しに地球にやってきたの? もしかして、月の女神様も今日の流星群を観にきたの?」


「りゅうせいぐん?」


「沢山の流れ星が降ることだよ。で、今日はジャコビニ流星群が出現する日なんだよ。ジャコビニ流星群は十三年に一度出現する流星群なんだよ」


 十三年……人間にとってはその年月は長く感じるのだろう。


「中でも、今年は大出現の年とも言われてね。きっと、雨のように降り注ぐと思うよ」


「……降り注ぐというのは、隕石のこと?」


「うん。そうだよ」


「月にも、隕石が落ちてきたことがあった。けど、それほど面白くない……」


「そう? まぁ、隕石が大気圏を突き抜けて落ちてきたら、大変だろうけど……」


 アランが息を吐くと、白い蒸気となり立ち昇る。

 それは気温が低いという事を示していた。

 その寒さのお陰で、空気は澄んでおり、夜空に雲一つ無く、星が良く見え、キラキラと瞬いていた。


「地球は不思議な所……」


「不思議?」


「月から見る、あの星々は、あんなに揺らめいて、輝いてはいない……」

 アランも顔を見上げる。


「ああ。それは、地球に大気があるからだよ」


「たいき?」


「まぁ……簡単に言えば空気のことだけど。地球には、酸素とか二酸化炭素などの目に見えない空気が地球をフィルターのように覆っているんだよ。その空気の所為で、ああやって星が揺らいで見えるんだ」


「……?」

 アランの言葉に理解が出来なかったその時だった。夜空に一筋の光の線が走った。


「あれは……」


 また、一筋の光の線が走ったと思えば、次々と無数の光の線が走る。


「ルナ、あれが流星群だよ!」


 キラキラと煌く満天の星空に、光の雨が降り注ぐ。

 月では決して見ることが出来ない光景に、私は目を奪われてしまった。そして、次々と降り注ぐ流れ星に、ある疑念が浮かぶ。


「あれが隕石……。どうしてアレは、この地まで落ちない? 月は沢山の隕石が落ちたのに……」


「それは、さっき言った大気のお陰なんだよ。大気が地球を覆っているから、流れ星は大気と衝突してしまう。その大気の摩擦で隕石は燃えるんだ。あの光は、隕石が燃えているときに発しているものなんだよ。だから、この地球に落ちてくる前に、大抵は燃え尽きてしまうんだよ。この光景は、まさしく宇宙と地球の贈り物なんだよ!」


 アランの説明に耳を傾けつつ、降り注ぐ流星群を眺めていると、ある場所でキランと光ったのが見えた。

 そして、こちらへ何かが近づいているのに気が付くと、私は咄嗟にアランを突き飛ばした。


「なっ?」


 アランが驚きの声をあげる間も無く、手の平に収まるほどの小さな隕石が私に直撃した。


――ズッドン――


 爆発したような大きな衝突音と共に土煙が舞い上がる爆風が発生し、アランは吹き飛ばされた。


 暫しの時間を置き、


「ルナーーーー!」


 砂煙が落ち着く中、アランは叫んだ。


 先ほど自分たちがいた場所に、ぽっかりと浅いクレーターが出来ており、その穴の中央に私は倒れていた。


 しかし、何事も無かったかのように立ち上がり、地面に伏せたままのアランの元へと歩み寄った。


 アランは声をあげることは出来ず、ただ口をポカーンと開けたまま驚きの表情を浮かべている。


 あの表情は、今でも忘れられない。


 そして、どうやら腰が抜けたらしく、起き上がれないみたいだ。尻餅をついたままで、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


 かすり傷一つも負っていない私を見て、


「流石は……月の女神さまだけはあるね……」


 私が人ならざる者だということに再確認をしたのだった。


「でも、あなたの服が……」


 着ていたジャンバーはボロボロになり、胸部が露になっていた。その為かアランはまた顔を真っ赤にして、そっぽを向き、


「ルナが無事なら、そんなのいくら破けても平気だよ」


 そう言いつつ、アランは着ていたセーターを脱ぎ、おもむろに手渡してきた。


「しかし……この一夜で、僕の目の前に月の女神様と隕石が落ちてくるなんて。確率的に天文学的な数字が並ぶんだろうな。宝くじでも買っていれば良かったかも……」


 アランは、そんな自分の身に降りかかった、にわか信じられない出来事に対して、無邪気に笑った。


「だけど、ルナ。この出来事は、僕にとって決して忘れることはない夜になったよ」


     ***


 それから、私はアランと時間が過ぎ去るのも忘れて語り合った。


 流れ星のことや星座のこと、アランのことも。


 そして夜明けが近づき、辺りが明るくなってくると共に、私の身体は薄れ透け始めた。


「ル、ルナ! 身体が」


「別れの時間……。私は月が陰る時に、私は地球に、来ることができる。そして夜の間でしか、地球に居ること、出来ない。夜が明けたら、私は月に戻る……」


「そんな……まるでシンデレラみたいだ……。いやいや、今はそんな事を言って場合じゃない! それじゃ新月の日に、ここに来れば。また君に……ルナに逢えるかな?」


「もし……次の陰りが訪れた時、貴方のことを覚えていたら、逢えるかも知れない」


「本当! 忘れないでくれよ。僕は絶対にルナのことを忘れないし、ずっと想い続ける。そして星に……じゃなくて、月に願い続けているよ。ルナに逢えることを……約束だよ」


 アランが言葉をかけたと同時に、私は姿を消した。


 そして、私は月の大地に立っていた。

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