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⑥ 天駆ける棺桶 -2-

 少し時間は戻り、ライトの部屋―――


「うわっ!」


 ビクッと身体が痙攣するとバランスを崩す。身体が机から落ちる前に目を覚まし、ライトは起き上がった。谷底から落ちる夢を見ていたようで、額に浮かんだ冷や汗を拭った。


「な、なんだ、夢か……あれ?」


 寝惚け眼で、ふと部屋を見渡すと、ルナの姿が無いことに気付く。


「何処に行ったんだ?」


 お手洗いに行ったと考えたが、ルナにとってここは慣れない場所。その道中で迷子になっているのではと案じた。捜しに行こうかと立ち上がったが、寝起きだった為に足元がおぼつかず、


「痛っ!」


 机に右足をぶつけてしまった。

 その衝撃で、ルナが唯一所持していた小袋が床に落ち、中身が散らばってしまった。


「あーあー、しまったな……」


 ライトは、腰を落としその散らばった物々を拾い集める。

 綺麗な石、ひどく汚れた指輪、ネジ。

 ガラクタばかりだったが、ある一つの物にライトの目が留まった。


「これは……」


 それを手に取り、じっくり眺めると、床に無造作に放置されていた本から一冊を取り出し、ページを捲った。開いたページと手に取った物を見比べ、ある確証を得た。


「間違い無い……これだ、これが有れば直せる!」


 そしてライトは、その部品を優しくしっかりと握り締めて、勢い良く部屋を飛び出した。


 戻ってくるのが待ってはいられないと、この所有者であるルナを捜しに行ったのだった。


 薄暗く低い天井で幅が狭く細長い廊下を駆け抜けていく。

 途中にある部屋の中を覗きながら、ルナの姿を確認したが、どこにも居なかった。


「もしかして、外に出ているのかな?」


 そう見当をつけると、大切に握り締めていた物をポケットに仕舞い込み、艦上へと出る梯子を駆け上った。


     ***


 穴から艦上を見回すと、手作りの柵の所で背中を向けているルナが居るのが目に入った。


「あ……!」


 声をかけようとした瞬間――ルナは柵からなだれ落ちた。


 突然の出来事に状況を掴めず、ライトは呆然としてしまった。

 その二秒後だった。


――ドスンッ


 鈍い音が響いた。


 その音で我を取り戻したライトは、慌ててルナが立っていた場所に駆け寄る。

 そして、柵から上半身を乗り出して、下の様子を覗う。すると朝陽で照らされた大地に、ルナがうつ伏せになって倒れていた。


 ピクリとも動く気配はしない。


 サァーと血の気が引く音が聞こえるほどで、顔面蒼白になったライトの脳裏に、バイクでルナと衝突したシーンが思い浮かんだ。


 この後どうするかと考えると、あの時と同様にルナの元にいち早く駆け寄るしかなかった。


 動揺していたために、ライトはここから飛び降りようとして、柵に足をかけたが、その判断が間違いであると気付いた。


 そして、柵に括り付けていたロープの存在を思い出し、そのロープを伝って降り始めた。


 一秒でも速く降りようとしていると、半分の所でロープは切れてしまい、思いがけない

ショートカットをしてしまった。


 腰を強打したものの打ち所が良かったらしく大怪我にならずに済んだ。

 それでも痛みが身体を走る。

 それを我慢しつつ、ライトはルナの元へと駆け寄った。


「お、おい。大丈夫……」


 ライトが声をかけると否やルナは何事も無く上半身を起こし、そのまま何事も無く起き上がった。


 そして最初に逢った時と同じく、ライトの存在に気付く素振りもせず、何処かへと行こうと歩き出す。


 ライトは、去り行くルナを何も言わず目で追いかける。


 タダじゃ済まない不慮の出来事を、二度も身に受けているのにも関わらず、ルナは何とも無い。


 流石に、今も不思議な雰囲気を漂わせる少女――ルナが只者ではないと感じ取っていた。


 だからこそ、彼女が何者かであるか知りたかった。


「ま、待った! 君は一体、何者なんだ?」


 ルナは足を止め、そっと振り返る。

 涙ぐんだ瞳に、ライトの姿にアランの姿が重なった。


 自分の目の前にいるのが、アランでは無いと解かっている。


 しかしルナは、かつてアランが訊ねてきた問い―言葉―に心を揺さぶられ、アランと過ごした日々が脳裏に過ぎった。


 自然と口が開く。


 アランと語り合った時と同じように、ルナはライトに自分の正体を……地球がこうなっていった経緯を包み隠さずに話した。


 言葉を吐き出すことによって、自分を締め付けている気持ちが、少しずつ軽くなっている気がした。


 そして、黙ったまま話しを聞くライトが、アランと同じような表情をしていたのがルナは妙に懐かしく思えた。


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