第三章。
一限目。英語の授業。
カグヤはまだ教科書をもらっておらず、必然的に泪に教科書を見せて貰う形となる。
「ごめんね?」
伏し目がちに、カグヤはそう言った。
「いいよ。転校生だし、しょうがないよ」
先刻の、言い知れぬ不安の正体はわからないまま。
「では、夜神さん。45ページから読んで」
「はい」
あれは。
不安と言うよりも。
「I am afraid of …」
予感。
カグヤは立って教科書を読んだ。それも、外国人のように綺麗な発音で。
英語教師よりも澱み無く。
読み終わり、席に着く。
それと同時に拍手が湧き起こった。
泪も、知らず知らずの内に拍手をしていた。
カグヤは頬を赤く染め、照れたように微笑んだ。
「すごーい」
「留学とかしてたの?」
「帰国子女?」
休み時間。容姿端麗、頭脳明晰という完璧な転校生
「カグヤ」
。ホームルーム後の休み時間では、カグヤの整い過ぎている容姿に畏縮し話し掛けることができなかったクラスメート達も、好奇心に負けてカグヤに近付くに至ったようだ。
「うん。海外に住んでたよ」
カグヤが答える。
(…海外?へぇそうなんだ)
ならば、あの発音の美しさも納得できる。
「えーすごーい!」
「うらやましー!!」
「どこに住んでたの?」
再び歓声をあげるクラスメート達。それらを一切遮断して。
「沖田さん」
「はっ!?え!?何!?」
突然名前を呼ばれて、泪はあわてふためいた。
クスリと笑い、カグヤは泪に尋ねた。
「なにか聞きたいことでもあるの?」
「え?なんで?」
「ずっとこっち見てるから」
「…あ。」
なるほど。
(…って納得してる場合じゃねぇよ)
心の中でノリツッコミ。
(そんなにずっと見てたのか)
気がつかなかった。
「…なんでさっきあんなこと聞いたの?」
さっき。
聞かれたこと。
『どうしてカグヤ姫は月に帰れたの?』
ずっと疑問だったこと。
『なんのためにそれを聞いたの?』