始まりは社会プリント2
宮瀬君は、陸上部だった。
『風邪大丈夫?数プリと理科プリントもらったよ☆心配しないでゆっくり休むんだよ~!紗枝☆』
『紗枝とかぶった!!もちづきの分のプリント、あたしもとっちゃったよ(笑)無理しちゃだめだよー^^望』
昨日の夜に送ってくれたらしいメールを、通学するためのバスに乗りながら確認した。
昨日の昼過ぎから寒気と頭痛がひどくなり、あまり意識もないまま早退した私を心配してメールをくれた二人は、私の中学で唯一の友達。
昨日はあんなにひどかったのに、一晩ぐっすり寝たらもう元気になった。
それで昨日の5限と6限の授業がどっちも中間テストがある科目だったから、昨日の分も勉強しようと少し焦って今朝は早めに学校へ向かった。
「佐倉さん」
「え」
今なにか自分の名前が聞こえた気がして、ふと顔を上げるといつの間にかとっくに学校に着いていた。
さっきまでバスに乗っていたのに、メールの返信を考えながら歩いていたら、もう靴箱の前。
ローファーから上履きに履き替えたときに、後ろで声がした。
あ、私の名前。
「佐倉さん、おはよ。風邪もう大丈夫?」
「あ。お、おはよう。もう、元気になったよ」
ものすごく反応するのが遅くなってしまって、急いで靴箱をぱたんとしめて振り返ると、宮瀬君の姿があった。びっくりした。
朝早いから、私以外の人はまだ朝練の人以外来てないだろうと思っていたから、すごくびっくりした。
「そっか。昨日顔真っ青になってたからどうかなと思って。あ、俺朝練しようと思って早く来たんだけど、そしたら部室の鍵無くて諦めてこっち来たんだ。」
同じクラスで陸上部の宮瀬君。え、あれ、部室に入らなくたって朝練できるんじゃないのかな。
「うん」
そんなこと言えるわけもなくて、うまく言葉を話せなくなって、頷くだけで、黙った。
でも宮瀬君は気にした風もなくさっと上履きに履き替えると、クラスが同じだからなのか気まぐれなのか、私を追い越した後、早く来なよっていってるみたいに振り返った。だからあわてて追いかけて、同じ廊下を同じペースで歩いた。
ぱた、ぱた、ぱた、
すた、すた、すた、
男の子と廊下並んで歩くの、初めて、だ、私。
私より頭が一つ半くらい背の高い宮瀬君は、コンパスに物言わせることもなく、ゆっくり綺麗に歩いてる。
並んでるっていっても、宮瀬君の上履きのかかと、踏まないできちんと履くんだなって思いながら歩いていたくらいだから、多分斜め後ろをくっついて歩いただけなんだろうけど。
宮瀬君の、かかとの、小学生だったら名前を書くところがピンと立ってて、綺麗だなって思った。