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娘が誘拐されかけたので城をへし折った

作者: リーシャ
掲載日:2026/08/14

 娘とおでかけをするために立ち上がった。アイスクリームを食べたいと言われて、家で作ったものを食べればいいのにと思ったが外で外のアイスクリームが食べたいのだそうだ。


 可愛いわがままというか、可愛いおねだりなのだから頷いて手を繋ぎ共に出かけた。夫は今この国の王という人たちのそばで色々話し合うために集まっている。仕事中なので自分達は仕事についてきただけのお気楽な立場なのだ。


 アイスクリームを食べれる店に向かう最中、よい布を見つけて見つめていると店主に話しかけられて立ち止まる娘がアイスクリームの看板を見つけて早く行きたいと腕を振るので、ごめんごめんと足を動かした。

 カラフルな出店があちこちあって、見ているだけで楽しげだ。ウィンドウショッピングもただ歩いているだけなのに目移りして、娘と綺麗だと笑う。


「早く行こう」


 ノロノロ歩いているのが焦ったいらしい。そこそこ列がある店の後ろに並ぶと、段々娘の集中力が切れていく。まだかなまだかなと呟くので「まだだね」と答えた。


 途中、息子から魔法電話がかかってきて問答をしているとうっかり手を離していたらしく、娘が五步先にいる。少しだけ前に足を出して手を伸ばせば、すぐに届く距離だがそこで予想外のことが起きた。


「この子凄く可愛いぞっ」


「え?ま、まじだ。可愛い」


 男の子の集団が娘を囲む。ぽかんと唖然としているとチヤホヤしている分には大丈夫だろうかと見ていると、娘のきょとんとした顔が相手を見上げる。


「服は上等だけど使用人はいないぞ。平民か?」


「え、ならおれこの子欲しい」


「……は」


 貴族っぽいなとは思ったが出会って十秒で誘拐のようなセリフを吐くなんて世の中って広いなぁ。現実逃避をコンマしてみたが、男の子たちが娘の髪や手に触れようとしてバチっと防御魔法が発動して、その瞬間娘をギュッと抱きしめた。


「いたっ、な、なんだ?」


 守護魔法を初めて浴びたのか男の子たちは騒ぐ。しかし、一通り騒ぐとこちらに目を向けて娘とメルリナの方に視線を寄せる。


「お前、平民のくせにっ」


「何様だ!?僕たちが誰か知らないのか!?奴隷にしてやる!」


「奴隷にって……何百年前のことを持ち出してるの」


 人間や多種族を奴隷奴隷にしていた時代はあるにはあるが凄く昔だ。彼らのいう奴隷は本物の奴隷という比喩ではなく隷属させて、好き勝手にしてやるという意味だろう。

 意味を把握した瞬間、彼らの娘を見る欲を見つけて目の瞳孔が開いた。彼らは真正面から瞳の変化を見たようで、喉から音が出ない状態の悲鳴が上がる。


 周りが気付く前にヒュッと親子の姿が消えた。それさえも消えたことにも気付かない者たちが殆どだ。


「上に何かあるわ」


 女性が太陽の真ん中に見える黒い点を指差すと徐々に大きくなり、シルエットが完成した瞬間には誰かの悲鳴と共に生物であったその名が周知される。


「竜だ!?」


 ドラゴン、竜、竜族、色んな呼び名が囁かれては畏怖を集める生物。この世界で決して怒らせてはいけない最強生物。竜人族と呼ばれるその者は、太陽の真ん中から少しずつ大きくなった巨大生物が男の子達の集団に向けて突進する。


「うわ!」


「ひぃ!」


「うわっ、な、ぐっ!?」


「なんでえええ!」


 すわ、喰われるかと思っていた周りだが魔法で作られた網に男の子たちをまとめて捕獲し、空にまた飛ぶ。泣き声や叫び声をそのままに竜は滑空していき、ここからでも一番高い建物へ進む。


 直行していく竜に王城の兵士たちはぽかんと口を開けて、見送るしかなかった。


「んぎゃあ!」


 誰も声一つあげられないまま王の住まう部屋のテラスに網を乱暴に落とす。打撲は免れない程度の痛みに呻く面々。


「だずげでぇ!痛いよお!助けてえええっ」


 痛いとか助けてとか言う子供に怒りの視線を向けながら、テラスの前に飛んだまま静止する。


「な、な、何事だ」


「陛下!危ないですよっ」


 王城なのだから来てもおかしく無いメンバーが現れた。王や兵士たちだ。外につながる扉から豪快にやってきたものの、こちらにびびって引きに引いている。


「何事だと思う?」


 竜型形態の状態で問いかける。それだけで何人か気絶するが、気にせず待つ。


「……その者たちが、貴方様に粗相を、なにか、した、と」


 恐る恐る正解を導き出す王に大げさに頷いて「そうだ」と告げる。


「その子供が私の娘を所有物にしようとした」


 それだけ聞くと王が地面に頭を付ける勢いで伏せた。周りも習って素早くやる。謝って欲しいとかではないんだけれど。


「欲しいって言うだけじゃなかった。奴隷にするって。取り返したら怒ってしまって、私も娘も困ってしまったからここに連れてきた」


「ど、どれっ……!!!」


 王は発言しただけではなく、さらにその上をいく侮辱まで重ねていたことを知り絶句する。


「私の娘が美しい見た目をしているだけで、持ち物みたいに自分のものにしようとしたのだけど?あなたたちの国の国民性終わってるんじゃない?」


 心底軽蔑の感情がどっしりと乗った言葉に、言い訳の言葉が何も浮かばない面々。自分たちは違うと言いたいが王の責任として、目の前の男の子たちの責任が連帯としてのしかかっている以上は下手に何か言うよりも、謝り直すことを選ぶ。


 ずっと頭を下げさせても先に進まない。目の前に美しき女子がいたとしても、その子を囲んで持ち帰るだの、この子は自分のものにするといった塵芥確定の言葉を、公衆で言葉にする人間が一体この世に何人ほどいるのだろうか。


 己が人間なだけだったのなら呆気なく目の前で娘が誘拐されていたのはたしかなことだ。目の前で母親であり子供だと告げても、必ずしも返してくれるほど教育ができている小童たちではなさそうだったし。


 いかにも親の背中を見て成長しているようだ。スクスク育ったのは体だけではないみたいだが。親の責任に該当すると今回判断して、貴族ならば王家も責任を取らせようと見せしめも兼ねることにした。

 例え、被害者が人間だったとしても、今回のようなことは本来、起こることなど許されない人災だ。事故ではない故意的な行為に該当する。


 王たちにどう責任を取るのか問いかけると貴族の爵位を取り上げると冷や汗混じりに断言するので、腰に手を当てる。それだけでは足りない。奴隷扱いできる土壌ができることが、なにより許せない。倫理観もだが。


 娘を人型のまま立たせて、こちらも人間の姿になると王の後ろから男の子が走って来た。騎士や兵士たちが止めるのに父親のことが心配らしく、走り寄る。


「父上!」


「来てはならん!」


 止めるのも気にせず、父親の横にまで来てしまう。父親の視線を追ってこちらに目を向けると父親似の目が娘を捕らえた。


「えっ、可愛い」


 娘は本当に可愛いので許そう。なんなら、城を破壊しようとしたこともやめてあげてもいいかもしれない。


「ち、父上!あの子が欲しい!愛人にしていいですか!?いいですよね!」


「なっっっ!!!」


「ひぃっ」


 後ろから来た王妃が気絶して、そばにいる人間がさらに意識を失う。それを見ながらメルリナは娘に保護魔法をかけてから空に跳んだ。


「「ぎゃあああああ」」


 元の姿に戻ると尻尾で城をへし折った。娘はすごいすごいとはしゃいでいる。けれど、真似しちゃいけないと言いふくめておいた。うまく折れないと全壊させてしまうのでなかなか難しいのだ。


「アイスクリームは別のところで買いましょう」


「はぁい」


 夫は半壊した城から出て来て何食わぬ顔で隣に居て、娘に「お父さんだぁ」と抱きつかれている。次の日からその国は竜族を怒らせた国として非難轟々で、解体を余儀なくされている。娘とおやつを食べながら寛ぐ。


「お母さん……」


「ん?」


 息子が他国で王女に奴隷になれと言われてしまったのだけれど、なんて。困ったように笑ったのでおやつを飲み込みグッと伸びをしながら、音もなく立ち上がった。


「散歩に行ってくるからおやつは食べておいて」

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。夫は耳がいいので全て把握済み

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― 新着の感想 ―
そこらへんにいるちょっと金あるボンボンだけじゃなく、王女まで友達とか恋人とかじゃなく愛人と奴隷ってのが、本当にお里が知れるというか、日頃の教育がわかる態度ですよねぇ…。 そりゃもう王様がいくら土下座し…
確実に余罪が有る発言ですね
子どもが奴隷や愛人って言い出すということは親がしょっちゅう言ってるってことだしね。竜族が強いから謝罪してるだけで弱い相手には非道な行いしてそう。
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