↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/55

第8話 導き

ちょっと髪が派手になった翼さんをよろしくお願いします!


「……!……!」


 一実は目の前の人物が、焦がれに焦がれた人であることが確定し、鳥肌が立つのを感じた。星原翼、星原翼……彼女はその名前を脳内で何度も反芻する。イメージ通りの、とても素敵な名前だと思う。その名前を自分が知っているというだけで、人生の幸福度が引き上がる気すらしてくる。

 広報で見るときよりいささかクールな感じが強かったが、果てしなく素敵であることに間違いはない、というのが彼女の見立てであった。


「あ、他の人には言わないでね」


 翼は人差し指を唇に当て、静かに、というジェスチャーをしながら、思い出したように付け加える。一実は顔を上下に大きく動かして、心の奥底にその名前を封印しておこうと決めた。


「あっ、ああっ……わ、私、碧乃一実っていいます。……あの!こんなときに言うことじゃないかもしれませんけど、大ファンです!ずっと応援してます!」


 会話のボールが自分に託されたことに気づき、一実は必死に自分の情報を羅列する。どれも重要なことだったが、最後の言葉こそ一番伝えたいことだった。


「ふふ、そうらしいね。応援ありがとう……普段ファンの人と交流することってないから、とっても嬉しい!」


「は、ああっ!」


 翼が笑ってくれたのを見て、一実の全身を危機感が包んだ。顔が蕩けて、ひどい顔になってしまう。心臓がバクバクいって、また傷口が開いてしまいそうだった。


「お礼といえば、もう1つ言うことがあったね。私とエクスマインの穴埋めをしてくれてありがとう。私たちだけだったら、たくさんの人が死んじゃったかもしれないから、本当に助かったって思ってる」


「そ、そんな……私は夢中だっただけで……あ、いえ、お役に立ててうれしいです!」


 一実は、頭がフワフワして正しい受け答えができているか、分からなくなっていた。


「もう、緊張しすぎ。私は別に神様とかじゃないし、今は普通の女の子だよ?」


「……!すみません……でも……私、シンセリーがみんなのために頑張ってるのを見て、すごく元気をもらえてるっていうか、生きるエネルギーになっていたんです。だから、あなたがいてくれてよかったって伝えたいって、ずっと思ってて……だから……」


 一実は、翼に言われて彼女を人間扱いしていなかったのだと反省した。しかし、溢れる感謝の言葉が止められなかった。鬱屈した自分の周り以外に、大きな善意のようなものが世界にあると思えることが、まさに一実の光になっていたのだ。


「そっか……そんなふうに思ってくれる人がいるんだ。……うん。確かに、そう思ってくれる人がいるなら、私も命を張ってきた甲斐があるって思えるかも……ホント、会いに来てよかった……」


 翼は一瞬遠い目をしてから、かみしめるように言った。自分の感謝が欠片でも伝わったならこんなに嬉しいことはない、と一実は思った。


「ふーっ……そろそろ、本題に入らないとね……」


 翼が息を吐いたとき、彼女の表情が一気に暗くなる。一実もこれから何の話をするかは察することができたので、気構えをする。


「司令からスカウトされたと思うんだけど、実際どう?……」


「……はい、魔法少女の仕事はとっても意義があって、大事だって思います……でもだからこそ、怖かったり、自信がなかったりしちゃって……だから正直迷ってるというか……」


 一実もそこは素直に白状する。魔法少女という存在を尊く思っているからこそ、軽々しく引き受けることはできない。それは一実にとって信念にも近いことだった。


「そりゃ、そうだ。死ぬかもしれないし、そうでなくても他の人の命の責任を背負うこともあるからね。怖いと思うのは当然だし、あなたにはスカウトを断る権利がある」


 死という言葉を聞いて、一実は胸がきゅーっと苦しくなる。自分は死んでもいいなんて覚悟は持てないだろうなと思った。そして同時に、目の前の女の子はそんな危険な場所で立派に戦ってきたのだと再認識する。


「でも、ごめんね。本当は覚悟がないなら、戦場に来るな!とか、かっこいいこと言いたいけど、ぶっちゃけ私たちだけじゃきつくなってるんだ。正直、あなたに仲間になってほしいって思いはかなりあるの」


「私が……」


 司令からも似たようなことを言われたが、憧れの人から言われるとまた違ったものがある。


「穴埋めをしてもらって助かったって言ったけど、全然お世辞とかじゃないんだよね……」


 表情を険しくした翼は、改めて状況の厳しさを語り出す。


「これから、鋼魔の数も質も増していくって言われてるんだ。今回だって、あなたがいてくれなかったらどうなってたことか」


 数が増えていくということ。それはシンセリーとエクスマインがどれだけ強くなろうと、カバーしきれない状況が出てくるかもしれないということだと、一実は理解した。背筋が凍るような脅威が日常の裏側で迫っている。そんな事実はとても恐ろしい。


「だから、一般人を戦闘に巻き込むのは、道徳とか倫理とか、そういうところから見るといけないことなんだろうけど、それでもあなたがいてくれると嬉しい。私にとっては、人が死ぬってことの方がずっと嫌だから」


「…………!」


 翼の表情がひどく歪んでいる。他人が死ぬことを心の底から嫌だと思っていることが、一実にもよく分かった。

 

(この人は、心の底から他人を想える人なんだ……)


  一実は、翼という人間への憧れを強くすると同時に、自分もそれに応えたいという思いを大きくする。それだけで踏ん切りがつくわけではないのだが……。


「私も、魔法少女をやってみたい気持ちがあります。でも、何かとうまくいかない人生だったので、うまくできる想像がつかなくて」

 

  一実もここまで色々言われれば、魔法少女になるのが運命なのでは? などと考えるようになる。

 しかし、『普通以下』な自分のことは身にしみている。周りの声に気をよくして調子に乗れば、ひどい失敗をしてしまうのは目に見えている。そしてその被害を被るのは周りの人だろう。時には命に関わるかもしれない。一実にはそれがひどく恐ろしかった。

 

「そっか……あなたがこれまでどんなふうに生きてきたのかは分からないから、そのことについては何も言えないけど……あなたの戦ってるときの映像を見て、この子が仲間になってくれたら頼もしいなって思った。あなたには間違いなく魔法少女の才能がある……だって、あの状況で踏ん張るなんて普通できることじゃないよ……私は……ったから……」


 翼から褒め殺しにされた一実は頭がくらくらした。ただ、最後の方の声が小さくて聞こえなかったのは気になったが。


「そう、でしょうか……」


 司令にも似たようなことを言われたが、相手が翼なので、一実への刺さり方がえげつなかった。ただ、それでも自分への不信感は拭いきれないので、彼女の抱えているものの根は深いと言える。


「それにね?魔法少女なんて言っても、いい加減な子も多いよ?私も含めて、ね……」


 翼は畳みかけるように言った。


「そうなんですか?」


 一実は、ほかならぬ翼が言うのだからそうなのだろうとは思ったが、自分の無能さとは次元が違うのではないかと考えてしまう。


「そうそう……ちやほやされたいから魔法少女やってるって子とかもいるし……私も、自分のために戦ってるところはあるしね……」


 一実も、アイドルのような活動をしている魔法少女のことは知っていた。翼がその人のことを言っているかは分からないが、一実の中に、自分の中に抱えている欲望も肯定していいのかもしれない、という考えが浮かんでくる。

 彼女は翼個人の戦う理由も気になったが、そこに踏み込むほどには図々しくなれなかった。


「そんな私たちが表面上ヒーローみたいなことがやれてるのは、なんでだと思う?」


 突然一実に投げかけられた問いだったが、大ファンを自認する彼女だ。さすがに思い至ることがあった。


「勇者、ですか?」


「正解!……あの子たちがいるから、私たちは戦士っぽいことができてる。精神的にも、技術的にも……」


 おそらくパートナーのことを考えているであろう翼の表情が、一実にはとても優しげに見えた。


「ノクストス……悠夜とはそこそこ長い付き合いになる。気難しいところもあるけど……とってもいい子だよ」


「それは……なんとなく分かります」


 一実が繋がって触れた彼の心は、人のそれと同じ多彩さを見せていて、それでいて優しさからくる温かさに満ちていた。


「んふ、そうだよね。えっと……私が言いたいのはね? 魔法少女は1人で完璧になる必要はないってこと。勇者と2人で一人前になればいいんだから」


「覚えておきます……」


 一実は翼の伝えたいことを、ことさら自分の欠点を気にする必要はなく、パートナーと一緒に高め合えばいいということだと受け取った。


「……これぐらいかな……私の伝えたいことは……」


 そう言った翼は静かに立ち上がった。一実は別れの時間が来たのだと察する。


「無理やりあなたを引き入れることはしないように、組織には働きかけておく。決めるのは、あなた……ただ、私はあなたを待ってるから……」


 まっすぐ目を見て翼が放ってきた言葉は、深く深く一実の心に突き刺さった。


「…………」


 ただ、何を言っていいか分からず、頷くことしかできなかった。


「それじゃ、さようなら。お大事にね」


「は、はい!会いに来てくれてありがとうございます!」


 翼は手を振って病室を後にする。一実は行ってほしくないという気持ちを抑えて、せめてその後ろ姿を目に焼き付けようとした。



評価・感想が作者の1番の燃料です!あたたかい感想をお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。