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第32話 希望のピース 前編

少し忙しくて間が空いてしまいました。申し訳ない。


「暗い話ばかりをしてしまいましたね。確かに現状は深刻な状況だと言えます」


 一実は世界で目に見える犠牲者以外にも、死者が出ているという事実……言い換えれば、今後魔法少女や勇者が努力して、鋼魔を犠牲者なしで撃退できたとしても、救いの手から零れ落ちた人がいるかもしれないということに、絶望に近い不安を感じていた。


「ですが、私個人の意見としては、絶望する必要はないと考えています。鋼魔に抗しうる力がOIDOを中心として集まりつつあることに、強い光と言いますか……希望を感じているんです」


 一実の憂いを感じ取ったのかそうでないのか、レミアはフォローするようなことを言い始めた。組織の講師としてではなく、1人の人間――妖精ではあるが――としての意志を示して。


「鋼魔が鋼魔獣の種をこの世界へ本格的に撒き始めたとき、監視していた有志の妖精たちは、交流を持っていたこの世界の魔法使いたちに警告を伝えました。そこから楽な道ではありませんが、後手の対応だとしても、戦うことができる戦力を整えることができています。それは、なんというか人と妖精たちの知恵と努力の結晶のように感じています」


 レミアの眼鏡の奥には光があり、その声には熱が宿っていた。それは現状への具体的な方策を示したものではなかったが、そこに希望があるのだという確信は一実にも伝わってきた。


「私とあなたが出会えたこともそうですね」


 レミアは一実を見て優しく微笑んで言った。


「私は妖精界と人間の世界をつなぐ存在として、ここにいます。私とあなたは鋼魔と戦うという1つの目標のもとに手をつないで立ち向かおうとしている。それはある意味で奇跡みたいなことです。……今日会ったばかりの相手にこんなことを言われても困るかもしれませんが」


 本人の言う通り、励まされているということは伝わってきたが、一実にはレミアの言いたいことが理解しきれていなかった。


「えっとですね……私が言いたいのはですね……世界の壁を越えて別の種族の私たちが一緒になって組織を作って、勇者たちを生み出して、不完全ながらも鋼魔に立ち向かう力を蓄えている。それってとってもすごいことだと思うんです。それは、誰かに与えられた結果じゃなくて、ヒトが知恵と意志で引き寄せたものです。そんな奇跡があるんだから、鋼魔がなんぼのもんじゃい!……って思うってことです」


「ふふっ……そうですね!」


 砕けた口調でガッツポーズを決めるレミアを見て、一実は思わず笑みをこぼす。それは彼女にも共感できる感覚だった。世の中には暗い現実もあるが、それを振り払ってくれるような人という光も確かにある。そう感じていたからこそ一実は今日まで前を向いて生きてこれた。

 レミアが言いたいことは、その規模が大きい版ということだろう。シンセリーが一実のそばにいて、悠夜と出会えて、今日、別の世界から来た妖精さんと出会えた。暗い現実が目の前にあるのと同じように、それを切り開いていく希望もすぐそばにあるのだと。


「随分ポエミーな講義だな」


 少々冷や水を掛けるような台詞を、後ろで腕を組んでいたミサト教官が言った。確かにレミアがいま言ったことは、根拠とか具体性とかいうものとは対極にあるような感覚でしかない。理論と根拠を持って勝利への道筋を組み立てられるような戦士を育てたい教官にとっては、あまり当てにしてほしくない話だった。


「精神論は時代遅れだと斬り捨てたいところだが、魔法少女の力はその精神論と直結しているところが悩ましいところだな」


 気持ちというものが戦力に占める割合が多い魔法少女においては、レミアの言うような気持ちの話を完全に切り捨てることができず、ミサトは苦々しそうに笑った。


「じゃあ教官!目に見える希望を見に行きましょうよ!どうせ当面の目標って、アレを使えるようになることですよね」


 後ろから身を乗り出すようにして悠夜が発言する。


「お前な……ただ単にアレを早く見せびらかしたいだけだろ……」


「それにアレはお前らのじゃないだろ」


 ミサトはあきれ気味にため息をつき、朝陽が何やら指摘する。アレなるものが話題の中心のようだが、一実には何のことやら分からなかった。


「だからだよ。早く僕たち2人で使えるようになりたいんだ」


 悠夜はキラキラした目でアレについて話している。希望扱いされているが、そんなにすごいものなのだろうか?一実の中の期待も膨らんでくる。


「まぁ、アレを具体的な目標にするのは間違いじゃないが……レミア、講義はここまでということでいいか?」


「そうですね、もう大体伝えたいことは伝えたので大丈夫なんですけど……よかったら私も見に行ってもいいですか?あんなの神殿に行っても見られませんから」


 ミサトの確認に対して、レミアは逆に同行を願い出る。


(神殿にあるようなものなの?希望……何か祈るものとか?)


 一実はアレの正体が想像できなくなり、余計に気になった。


 ※


 (暗いな……相当下に降りたし何があるんだろう?)


 一同はエレベーターで下に降りて、いくつかの厳重そうな扉を抜けて通路を進んでいく。


「ねえ、悠夜、何があるの?」


「それは見てのお楽しみ!」


 アレの正体について一実が訊いても、先を歩く悠夜ははぐらかすことしかしない。


(悠夜、めっちゃ楽しそう……そんなにワクワクするタイプのものなのか……)


 悠夜の声はとてもはずんでいて、新しく買ってもらったおもちゃを自慢したくてしょうがない、そんなシチュエーションが一実の脳裏に浮かぶほどの浮かれようだった。


(ん、足音?)


 一実はふと、床と足のぶつかる音が反響し出したのに気づく。最後の扉をミサト教官が開けたところで、大きな空間に出たようだった。

 そこは辛うじて通路にある照明が足元を照らしているだけの暗い空間だった。


「ねえ、ここに何があるの?」


 通路をしばらく進んだところで一実はたまらなくなって、悠夜の肩に手を伸ばしながら声をかける。


“パァンッ!!”


 瞬間、何かが弾けるような音が鳴って周囲が明るくなる。


「うわぁっ!?」


 一実のそばに現れたのは、赤い鬼のような顔。そして一同は広い空間にかけられた橋状の足場にいるようだった。とりあえず手すりがあるので落ちる心配などはないが、20mほどの高さがある。ちょうど鬼の身体がそのまま入る空間になっていた。


「って、これエクスマイン……朝陽さん!?……はここにいるし……」


 一実が朝陽に視線を送ると、イタズラ成功とばかりに彼は微笑んでいた。

 急に赤い大きな顔が現れたことで、一実は一瞬、恐ろしいものが現れたと感じた。しかし、よく見るとその顔はかすかな微笑みをたたえていて、よく見慣れているヒーローの顔そのものだった。


「でかい、エクスマイン……」


 細かいディテールは異なっていて、若干マッシブな体型になっているという違いはあるが、そこにいる30mほどの巨人は間違いなくエクスマインであった。


「ど、どどど、どういうことですか!?」


 一実は答えを求めて翼に視線を送るも、彼女の方もただ微笑むだけだった。


「驚いた?それが私たちの切り札にして希望、魔法少女および勇者専用の搭乗型決戦装備……名付けてインテグレーション・ボディ!」


 近づいてくるヒールの音といっしょに、誇らしげな声が聞こえてくる。進行方向から近づいてきたのは前園博士であった。



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