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第22話 OIDO


 魔法少女たちが心の交流を果たしているところを、ノクストスとエクスマインは、高架下にいる人々をすぐに救急隊へ引き渡せるよう引き上げながら、ほほえましく眺めていた。


「よかったな」


「うん。いろんな意味で……」


 エクスマインもノクストスも、2人が見せている大きな感情の動きの裏が大体分かっている。


「自分が倒れたらだめなんだーって、だいぶプレッシャーに思ってたみたいだからな……1組が2組になるのはデカいからな……いろいろ頼むぞ、ノクストス……」


「なんだよ、その言い方? 言っとくけど、僕たちはそっち2人の代わりじゃないよ。一緒に戦う、それだけだよ……」


「分かってる。ただ気分の問題だよ。だいぶ楽にはなるだろうよ」


 エクスマインの言葉には、マーシーとノクストスが自分たちのスペアになるというニュアンスが含まれていて、ノクストスはそこに抗議した。自分たちは誰の代わりになるつもりも、シンセリーたちを代替可能な捨て駒のように扱わせる気もないのだと。


「……ありがとうな」


「……!? きゅ、急になんだよ!?」


 エクスマインは声こそ小さかったが、はっきりと聞こえるようにスピーカーを震わせた。ノクストスは、距離が近いからこそなかなか聞くことのない感謝の言葉に動揺してしまう。


「なんだよって……お前はロボットとしても、勇者としてもかなり危ない橋を渡ったと思うが、それはきっと俺たちにとってもいいことだったと思う……」


「僕は、僕のために行動しただけだ……お礼を言われるようなことはしてないよ」


 ノクストスのそんな返答は半分照れ隠しだったが、実際に思っていることだった。


「素直に喜べよ。自分のために生きながら、他人も助ける……それが俺たちの目指してるヒーローだ。お前らにそれを押し付ける気はないがな」


「…………」


 エクスマインの語るヒーロー像は、ノクストス自身はともかく、マーシーが理想とするものには近かった。人を助ける存在。それが彼女の理想とするヒーローなのだから。


「ははっ、まぁ、今のお前に言うべきことは、おめでとうの方か……本当にいい娘と出会えたな……それこそ、俺のシンセリーに負けないくらいの」


「まあ、そうだね……それには礼を言うよ。ありがとう……」


 ノクストス……前園悠夜にとって、碧乃一実という女の子が最高のパートナーであることは間違いない。そう彼自身が確信しているからこそ、ノクストスは祝いの言葉には素直に礼を言った。


 ちなみに、勇者たちが行った心の交流も逆に魔法少女2人へ共有されており、彼らがそう思ったのと同じように、2人もほほえましい気持ちになっていた。


 ※


「す、すごい……地下にこんなところが……」


  戦いを終え、マーシーを含めた4人はOIDO日本支部の地下施設に案内された。巡航形態で飛んでいったあと、いかにも秘密の通路というふうにせり上がってきた入り口から降りていくと、そこにあったのはとても広い格納庫のような場所だった。その広さもそうだが、高そうな機材や設備がそろっている、まさに秘密基地のような場所だった。

  変身を解除した一実は、周りの景色に圧倒されていた。科学の結晶である勇者のサポートをする組織でもあるのだから、こういう施設があるんだろうな、と想像してはいた。しかし、それをはるかに凌駕する広大な施設を目の当たりにして、ただただ圧倒されていた。

 

「ここもこの施設のほんの一部だ。ここには、まだまだすごい場所がいろいろある。例えば……」


「おいおい、こういうのは探検したりするのが楽しいんじゃないか!? それにお前、“アレ”について話そうとしてるだろ? ダメだぜ~、ありゃ最高機密なんだから、もっともったいぶった方が楽しいだろ?」


「だ、誰ぇ!?」


 同じく変身を解除……というより人間形態に戻った悠夜が施設を紹介しようとしていたところに、一実の知らない赤髪の青年が割って入ってきた。悠夜と同じぐらいの背丈で、どことなく似た精悍な顔つきをしているように思えたが、悠夜よりも線が太い印象だ。

 そんな人物が急にそばに現れたので、一実はひどくうろたえてしまう。


「ああ、一実さん。朝陽のそっちの姿は知らなかったね。安心して、その人がエクスマインだよ。ちょうど、ノクストスにとっての悠夜の姿だね」


 そんな助け舟を出したのは、灰銀色の髪に戻った翼だった。彼女は赤髪の青年の肩を抱いて、それこそ恋人を紹介するように自慢げに言った。


「驚かせて悪かったな。この姿のときは前園朝陽だ。気軽に朝陽って呼んでくれ!」


「朝陽さん、ですか……」


 人間らしい形態を持つのは、悠夜だけの特徴だと思っていた一実は少しの間呆けてしまった。考えてみれば、人のようになれるのがノクストスだけの機能だとは誰も言っていなかった。


“ザワザワ……”


  そんなやり取りをしていると、にわかに人が集まってきていた。皆、作業着のようなものを着ており、一実には整備員のように見えた。皆、彼女のことを物珍しそうに観察して、ひそひそと何か話していた。


「え、え~と……」


 一実はそんなふうに注目された経験がないうえに、相手は見知らぬ大人たちだったため、全身の血液がカーッと熱くなり、筋肉が強く緊張する。


「みんな、あなたを歓迎してるよ」


 翼は笑って、ここが一実にとってのよりどころになる場所だと示す。


「ほんと、ろくに訓練もせずに鋼魔と戦えるなんてスゲー!」


「ノクストスはすごい子を捕まえたな!」


「変身を解くとわりと地味だな」


 集まった職員たちは、皆口々に一実に関する所感を述べている。中にはなかなかに棘のある言葉もあったが、大体は一実に対して好意的だった。


「ちょっとごめんなさい! 通して!……あなたが新しい魔法少女ね! 少し地味だけど、愛嬌があるかわいい子じゃない!」


「……!?」


 男性が多い作業員たちの声に埋もれない、よく通るきれいで高い声が聞こえてくる。その声の主は、人だかりをかき分けて一実たちの前に現れる。


「あ、ママ!」


「ママ……?」


 現れた女性を悠夜はママと呼んだ。勇者という勇ましい肩書を持つものと、ママという言葉。その2つは奇妙なギャップを生んでおかしさがあった。ただ、一実自身も現れた女性に見覚えがあった。


「前園博士?」


「おお! 私のこと知ってるの! 嬉しい! 魔法少女は私にとって義理の娘みたいなものだし、仲良くしようね」


 そう言いながら、その白衣を着こなす長髪の女性は、ずいと一実に歩み寄ってその両手を握ってくる。一実にしてみれば大人っぽい美女に急に触れられて、余計にドキドキしてしまった。

 一実はその女性についてOIDOのホームページで見たことがあった。OIDOの誇るロボット工学の権威にして、勇者開発の第一人者である若き才女、前園真理。


「義理の娘なんて、いきなりなれなれしいんじゃない? 一実もびっくりしてるよ……」


 真理の過剰ともいえるフレンドリーさに困惑する一実に、悠夜は助け舟を出す。


「何言ってるの悠夜! ずっと見つからなかったあなたのパートナーが見つかったのよ! ママだって仲良くしたいわよ!」


「ママ……」


 なるほど、と一実は点と点がつながった気分だった。目の前の美女が勇者の開発者であるなら、そんな彼女が勇者の母を名乗り、勇者自身も母と呼ぶのは自然なことと言えるだろう。悠夜も、先ほど名を聞いた朝陽も前園の姓を名乗っている。そのことも、彼女とのつながりが由来なのだろう。


「碧乃一実と言います! よ、よろしくお願いします。前園博士……」


 一実は基本的に、あまりグイグイ距離を詰められることに慣れておらず、真理自身が一実と正反対の才色兼備の美女であることもあって、苦手なタイプと言えるかもしれなかった。しかし、それを乗り越えてでも仲良くしたいと思えた。心を持つロボットである勇者と母と子という関係を築いているのは、彼らの尊厳にもつながっているようで、他人のことなのにとても嬉しく感じたからだ。


(それにしても“ずっと見つかってなかった”んだ)


 勇者がどのように生まれて、どうやってパートナーを探すのかというプロセスを一実は知らない。ただそれは、悠夜にとって一実自身がどんな存在なのか考えるヒントになるような気がした。だから彼女は、そのことを心の片隅にとどめておこうと思った。


「よろしくね! 一実ちゃん! 分からないことがあったら何でも聞いて! 悠夜のアニメの趣味から、恥ずかしい秘密まで何でも教えちゃうよ!」


「ちょ、ちょっとママ!」


 悠夜は前園博士の悪戯っぽい言葉に慌ててしまう。そんなやり取りが本当の親子のようで、一実には素敵に見えた。


“シーーーンッ……”


 一実たちが和気あいあいと交流しているとき、急に野次馬が静かになる。


「司令……」


 人だかりを割るようにして現れたのは、岩崎司令だった。翼が彼女を呼んだとき、場にピリピリとした緊張感が走った。


「最初に言わなければいけませんね。碧乃一実さん。無理な要請だったにもかかわらず、協力していただきありがとうございました」


 司令は、かつて病室でしたのと同じように、あるいはそれ以上の敬意を持って、頭を下げて礼を述べた。そして頭を上げた後、司令は続けた。


「ようこそ、OIDOへ。新たな魔法少女……我々はあなたを心から歓迎します」



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