フルコンプ勢、強くてニューゲームで魔王をRTA(リアルタイムアタック)したら、不審者扱いされて魔王の座に就職した件
国産A RPG「ソードダンサー」が発売されてから、一年。やり込み系と称されるだけあって大ボリュームのゲームを遂にフルコンプしてクリアした。
「く〜っ、長かった〜。攻略サイトも使わずにフルコンプするのは流石に骨が折れたぜ〜。」
文字通り、俺の背中がバキバキと音を立てる。社会人に、なって以来、久しぶりにどハマりしたゲームだ。
ありとあらゆる魔剣を駆使して、戦うゲームの中で細剣に大剣、双剣とヌンチャクまで様々な種類がある中で俺は全種類の武器をマックスまで鍛えあげていた。
「ん?エンディング終わったのに何か出てきたな?強くてニューゲーム?」
俺はガタンっと大きな大きな音を立てて画面に食い入る様に近づいた。
「なんだよ?まだ遊ばせてくれるのかよ?」
嬉々としてコントローラーを握りしめた。
「あ。ポチッとな。」
そして、強くてニューゲームを選ぶと、強い光に包みこまれた。
そして、目が覚めると......。
「ん?なんだこりゃ!ここは俺の部屋じゃね〜ぞ?」
俺が目を覚ました其処は、ソードダンサーの始まりの部屋だった。
妙な神殿跡みたいな所、不思議な声に導かれて物語が始まるんだよな。
「って、ゲームの中に入ってんじゃねーか!なんだ?ラノベか!?」
俺は反射的に、自分の身体を調べ始める。
全身を覆う真っ黒い鎧。腰には1番使用頻度が高かった片手剣とワンド。
「うおっ?もしかして、マジで強くてニューゲームってやつか?」
ゲームクリア時の最強装備。
「ってこたぁ〜。お約束だよな?」
「ステータスオープン」
目の前に青いコンソールが出る。ステータスもマックス。装備にアイテムに所持金もクリア時のままだ。
「マジかよ!これなら、やりたい放題じゃんか?」
「もしかして、これってリアルRTA出来んじゃねぇ?」
ソードダンサーには、ショートカットアイテムが存在する。神秘のオーブと言う。
俺はコンソールを弄るとショートカット候補が、ずらっと現れる。
「お?あったあった。ってか、きちんと全部行ける様になってんな?んじゃ、第二戦いきますか!」
オーブを割ると俺を中心に魔法陣が発生する。
身体が青い光に包まれて、目を開けると視界の周りはすでに別の場所に、なっていた。
とても広く全体が黒い石で出来た部屋の真ん中に立っていた。黒い石を覆う様に、よく分からない肉片が脈動している。何故か灯も無いのに、うっすら明るい。
「くっっっさ!生臭っ!」
俺は鼻と口を塞いだ。
いや、臭い!
生臭い!
確かにラスボス付近に、よく分からない肉片とかグニョグニョとか、よく考えたら匂いしないはずないよな!
俺は襲いくる強烈な吐き気を抑えながら何とか歩き始める。
目の前には、やたらと重厚な扉。
実際に目の前にすると、こんなデカい扉にしたら開ける時に大変じゃね?って思う。
手をかけてみると、簡単に動いた。
流石はステータスマックス。
そして開けた先には玉座に座った魔王の姿が。
ほんの数十分前に倒したばかりの相手だ。
「何者だ?」
ゲームだと、「よく辿りつけたものだ。」とか言うんだけど、直接来ちゃったから魔王もよく分かってないようだ。
「えっっと〜。あなたの前任者を倒した者なんだけど、悪いんだけど、もう一回よろしくね?」
「前任者?意味が分からんが、殺しておくか。」
魔王が戦闘モードになる。
「んじゃ、やりますか。」
まずは魔王がダークボールを放ってくる。数は3つ。
距離を保ちながらワンドで弾速の早いマジックレイを放っていく。
ダークボールは弾速は遅いが追尾性能が高い。
引きつけておいてからダッシュで避ける。
ゲームの時の感覚で動く。というか動けてしまう。
元々、社会人ゲーマーの俺が機敏に動けるはずが無かったんだが......。
魔王は真後ろにワープしてから剣で切り付ける。
ゲーム通りだ。
俺は振り向かずに前方ダッシュで避ける。
3連撃で追ってくるが、振り終わりを狙って一撃入れる。
剣で切ったのに傷そのものは付かない。
「まじでゲームだな〜。」
魔王は小癪な!とか言いながら、またダークボールを放ってくる。
それを繰り返していく。
10分ぐらい経つと魔王は赤黒いオーラを放ち赤いビームとダークボールを5つ放つ。
俺はビームだけ避けると、ワンドでマジックバリアを張ってダークボールを防ぐ。
「甘いぜ魔王!その攻撃パターンも知ってるぜ!」
次は剣を大鎌に変化させて、広範囲攻撃をしながら迫ってくる。
下段。中段。上段。
ステータスマックスでもHPの三分の一は持ってかれる。
俺は回避に専念する。
ソードダンサーはストレスゲーだ。
怒りモードの時は隙が少なくひたすら回避を求められる。つい攻撃終わりに欲張ると、手痛い反撃を喰らう。
HPを削るなら通常モードの時と、ソードダンサーは決まっている。
その点で俺は今の構成を気に入ってる。
ワンドでシールドと遠距離攻撃をしつつ、片手剣で近距離は削る。
DPSそのものは大剣や双剣に劣るものの回復に回す時間が少なくなる分、安定して周回しやすい。
魔剣とワンドの属性も光で揃えているから属性相性が影響し難い形にしている。
俺は魔王の動きを常に気にしながら、怒りモードと通常モードを繰り返しながらダメージを重ねていく。
!!!
唐突に魔王の動きが変わる。
ビームを四方に放ちながら同時に大鎌を振り回す。
「やばい。暴走モードだ。」
ソードダンサーに実装されている暴走モード。
通常は怒りモードでも、動き方は10数パターンしかないが、暴走モードはランダムかつ攻撃回数が多くなるレアパターンだ。
「一度でも喰らえば、追撃で死ぬな。」
生身の状況なのに一切、恐怖心が湧かない。
紙一重の攻防が続くが、不意に魔王の暴走モードが終わる。
「長かったな。もう終わりだ!」
俺の攻撃が次々にヒットして、遂に魔王は倒れる。
ちょうど45針だな。
「ぐあああああ!」
断末魔を上げて魔王は光の粒子として消える。
そこには魔王が持っていた魔剣が一振り残されている。
世界を恐怖に陥れた魔王の象徴。
世界最強の魔剣。
そして俺は魔剣を手にした。
2本目だけどね。
魔王の最後だけど2回目だし、なんか感動もしないな〜。
「んじゃ、王様に報告して、後は贅沢三昧でもするかな〜。金もあるし、ハーレムでも築いちゃおうかな〜。」
俺は取らぬ狸の皮算用しながらオーブを使用する。
もちろん目的地は王城前だ。
俺が王城前に登場すると、ざわめきが広がる。
全身を彩る鎧は伝説級のエンシェントドラゴンの鱗。
腰には2本の魔剣。
それも魔王剣。
勇者の帰還に街は喝采に沸く事だろう。
「おい何者だ!門から離れろ!」
ピーーっと笛の音が響く。
「敵襲だ!敵襲だ、」
あっという間に囲まれてしまった。
周囲の人が、わーっと離れていく。
「ちょっと待って!俺、怪しい者じゃ無いから!勇者!勇者!魔王倒してきたから!」
突然、武器を突きつけられて、動揺する俺!
めっちゃ早口の俺!
「何を言ってる!魔王の出現の報告なぞ聞いておらんぞ!」
衛兵を掻き分けて女騎士がやってきた。
あ!あのNPCめっちゃキャラデザ好みなんだよね。
「むっ!その腰に付けた魔剣の紋章は伝説の魔王の物ではないか!いかん!魔王の襲撃だ!全軍に招集をかけろ!」
「ち、違う!誤解だ!」
「黙れ!魔王め!生きて帰れると思うなよ!」
やばい!殺される!
俺は咄嗟にオーブを使い転移した。
「は〜。どうしよう。もう戻れないよな〜。」
そこに声が響いた。
「ま、魔王様!遂に封印が解かれていたのですね!」
そこには本来ゲームでは倒すはずだった魔王軍・四天王の1人のサキュバスが居た。
「違う!俺は魔王では......。」
あれから三年が経った。
「魔王様、お茶が入りました。」
「うむ。くるしゅうない。」
俺は今では立派な魔王として、美しいサキュバスに囲まれていた。
めでたし。めでたし。
って違〜〜〜〜う!なんで俺が魔王になってんだよ!
おしまい




