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召喚された料理人はフライパン一本で世界を救う  作者: 遠野イナバ
番外編

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6/6

不眠症は悪である。

 睡眠。

 それは心と身体の健康をになう存在。

 ゆえに不眠症とは悪である。



 ◇ ◇ ◇



「眠れん……」


 俺──米斗こめと理人りとは、ある日女神に召喚され、壁石を集めたり、魔王を倒したり、なんやかんやでこの異世界で暮らすことになった。


 それで俺はこれから始まりの村で飯屋を出すことになったのだが、店の名前をなにするか考えていたら、悩みに悩んで昼夜ちゅうや逆転し、夜が眠れなくなった。

 そんなわけで俺はいま、ひどい不眠症に悩まされていた。


「眠れないの?」


 役立たずの女神ことフーディが言った。


「あぁ、もう半月近く睡眠時間が四時間だ。しかも朝方にしか寝つけんし」


「十分じゃない。私なんか毎日オールよ」


「お前は女神だからな」


 人間の身体と、神様的な身体を同じにしないでほしい。

 フーディが丸太に座りながら話を続けた。


「じゃあ、魔物でも狩ってきたら? 身体を動かして、いっぱいご飯食べたらぐっすり眠れるわよ」


「それは毎日やってんだろ。それでも眠れないんだよ。マジもう限界。お前、眠りの魔法とか使えないの?」


「使えるわ。でも、一生眠りつづけることになるけど、それでもいい?」


「よくないです」


 永眠魔法かよ。

 不吉な魔法を発動しようとしていたフーディを止めると、ふいに彼女はポンと両手を合わせて言った。


「よし! それなら、幻のスーピーを狩りに行きましょう!」


 女神は大きく頷くと、なにやら移動魔法を発動させた。

 いや、スーピーってなに?



 ◇ ◇ ◇



 そびえる山。その中腹くらいか。

 俺はいま、女神の鶴のひと声ならぬ、女神の世迷言よまいごとで山を登らされていた。


「おい、フーディ! けっきょくスーピーってなんだ!」


「山の頂上! そこにっ、スーピーの巣があるわ!」


「だからっ、スーピーってなに!?」


 叫ぶ俺とフィーディー。

 さきほどからなぜ声を張り上げているかというと、山の断壁を、ロッククライミングしている最中だからである。

 もう、下からびゅうびゅう風が吹くわ、手がプルプルするわで最悪の状況だ。

 離したら最後、暗い谷底までまっしぐら。

 本当に勘弁してほしい。


「スーピーはっ、鳥の魔物よ! その歌声を聴けば、どんな不眠にも効果てきめん! 一発解消間違いなし! 税込み十万フーディで取引される幻の睡魔すいまなの!」


「睡魔って! そういう意味で使うのかっ!?」


 確かに魔物なんだろうけどさ。

 だいたいその胡散臭いうたい文句は何なんだ。

 変な通販CM見た気分なんだが。

 なによりその十万フーディって……。

 この世界、お前の名前が通貨なの? 

 とはいえ、しかしまぁ……。


「つまり、そいつを捕まえて飼えばいいってことだな! そうすれば俺も! 不眠とおさらばってことか!」


 思わず岩を掴む手に力が入る。

 ふっ、これで俺は毎日すやすやライフだ!


「あ! 料理人、うえ!」


 下から女神の声が響く。


「は? うえ」


 その瞬間、俺の頭上に影が落ちた。

 上を見ると、ばさりと羽ばたくデカイ鳥がいる。


「なっ……まさか……」


 黄色い口ばしに、赤い羽毛。

 鳥の額には、まるでトサカのようにつんっと緑の毛が風に流れている。大きさは、


「でか! 鳳凰ほうおうサイズ!」


 まぁ鳳凰なんか見たことないんだけどさ。

 イメージとしてはそんな感じだろうか。


「あれがスーピーよ! 攻撃される前に早く逃げて!」


「どこへ!?」


 断崖絶壁だんがいぜっぺきなのだ。

 逃げる余地などない。

 俺はスーピーの羽ばたきひとつで宙へと放り出された。


「うわぁぁぁぁぁ!」


「リトー!」


 落ちる俺。

 叫ぶフーディ。

 おい、お前魔法か何かで助けろよ、とか思う暇もなく、俺は深い谷底へと落ちて行った。



 ◇ ◇ ◇



「た、助かった……」


 木にぶら下がりながら俺は安堵あんどの息を吐いた。

 どうやら運よく助かったらしい。

 谷底にい茂る草木がクッション代わりになったようだ。


「いや……むしろこれのおかげか」


 木から降り、服についた木の葉を落とす。

 この自前のコックコートはオルハリコンの金糸かないとで編まれている。

 ある程度の衝撃など問題ではない。


「さて、上に行くか」


 高い岩壁を見上げる。

 こうも高いと雲がかかってよく見えない。

 ため息ひとつに下を向くと、ふと空洞くうどうを見つけた。


「洞窟か?」


 壁に手をはわせ、奥へと歩いていく。

 中は螺旋らせん階段のような作りになっていた。


「ん? よくわからんが、これを登っていけば頂上ちょうじょうにつく……?」


 あの駄女神め。

 最初からここを使えばよかったものを。

 ぶちぶちと文句を口にしながら、俺は頂上まで続くであろう階段を登った。



 ◇ ◇ ◇



「すぴーーーーー」


 あ、馬鹿が眠ってる。

 頂上についた俺の目に入ったのはうたうスーピーと、すやすやと眠るフーディだ。

 しかし寝相悪いなアイツ。

 さっきからごろごろと激しく転がっている。


「ぐぇぇぇぇえ!」


 スーピーが俺を見て鋭いいななきをあげた。

 なんか目が血走ってる。怖っ……。


「んん? あら、リト」


 フーディが目をこすりながら起き上がった。

 盛大にあくびをしてやがる。


「おい、なんかあの鳥、えらく怒っているんだが」


「あぁ、スーピーはね。起きている人を見ると、怒り狂うのよ。なんで眠らないんだって」


「なにその理不尽」


「眠りの魔物だもの。そういうものよ」


 ふわーっと、もうひとあくびをしてからフーディは立ち上がり、何かの構えをした。

 戦闘始まりますって感じか?


「さぁ、リト! 狩りなさい! スーピーの香草焼きはぐぅ絶品なのよ!」


「はいはい、ぐぅ頑張りますよ」


 フーディの謎のかけ声に、俺は毎度お馴染みのフライパンを取り出す。

 そう、オルハリコン製のフライパンだ!


「これで終わりだ、スーピー」


「ぐぇぇぇぇえ!」


 前方から襲いくるスーピーに、俺は剣士のごとくフライパンをキンと鳴らす。


「必殺──」


 目を閉じ、集中する。

 迫る爪の気配。

 ここだ!



「ハービィロストォ!!」 (訳:香草焼き(ハーブロースト)



 瞬間、フライパンから炎がほとばしり、スーピーを包みこんだ。

 紅蓮ぐれん火龍ひりゅうがスーピーを喰らう。

 耳をつんざくひときのあと、一瞬でその身をローストチキンへと変えた。


「やったー! 昼食ゲットォォォ!」


 フーディが歓喜の雄たけびをあげる──


「って! 駄目じゃん! 焼いちまったら!」


 しまった。

 つい勢いでローストチキンにしてしまった。どうしよう。

 これでは俺の不眠が解消しない。


「おい、フーディ。もしかしてそれ食ったら、俺の不眠治るとか?」


「治らないわよ。食べても美味しいだけね」


「あ、そう……」


 さっそくむさぼり食うフーディをよそに俺はため息をついた。


「無駄足だったな」


 なんかもう疲れた。でも眠くない。

 いや違うな。

 眠気はあるのに眠れなくて、頭の奥がしびれているこの感じ。

 きっとこのまま行けば『不眠を極めし者』なんていうウルトラかっこいい称号が手に入るかもしれない。

 俺は厨二病か?

 うん、とにかくつらいです。


「あ、ほうほう」


 フーディが口に肉をつっこみながら言う。


「あひょこありゅ」


「飲みこんでから言えよ」


「ん……そふね」


 ごくんと喉を鳴らしたフーディが再び口を開いた。


「ほら、あそこにある卵」


「卵?」


 フーディが指差す場所を見ると、毒々しい色の卵があった。


「私、スクランブルエッグが食べたい」


「作れってか?」


 へいへい。リトくんは女神のしもべですよ。

 疲れた身体でのろのろと卵を回収する。

 ダチョウの卵くらいの大きさだ。

 ほんのり生温かくてちょっと気持ち悪い。


「ん?」


 よく見ると、表面に亀裂が走っている。

 その亀裂は瞬く間にピキピキと広がり――


「うわ!」


 ぴかーと光を発し、中から美しい赤い羽の鳥が出てきた。


かえった!」


 鳥は、ピルルゥと鳴くと俺の指に顔を擦り付けてきた。

 どうでもいいが、普通はヒヨコじゃないのか?

 思い切り成鳥……さっきのスーピーの1/30くらいのサイズだ。


「って、まさかこれスーピー?」


「あら、ほんとね! さっそく食べる?」


「やめて差し上げろ」


 可哀想だろ。

 かえったばかりなのに。


「ピルルゥピルルゥ♪」


「うん? どうした?」


 スーピー(1/30スケール)が、俺の手のひら、正確には手のひらに乗ったからの中で、身体を左右に揺らしながらうたった。


 そう。唄った、のだ。


「これはっ――」


「すぴー」


 強烈な眠気。

 つまるところ俺とフーディは深い眠りに落ちたのであった。



 ◇ ◇ ◇



「可愛いみゃー」


 チャトラーがスーピー(1/30スケール)を頭に乗せ、ご機嫌にスーピーの香草焼きを食べてている。


 俺とフーディは村に戻ってきた。

 土産みやげとしてみんなにスーピーの丸焼き(冷めていたので二度焼きしたやつ)を振る舞った。

 今日は村をあげてのうたげだ。


「さぁ! 食べるわよ!」


 フーディが豚肉にがっつく。

 帰り道で出くわしたイノシシ型の魔物。それを焼いたやつだ。


「リトも食べるみゃ」


 チャトラーにスーピーの肉を渡された。

 彼女の頭上からスーピー(1/30スケール)

が俺の肩に移動する。


「ピルルゥ」


 くそ可愛いな。

 頬ずりしてくるスーピー(以下略)に思わず笑みがこぼれる。

 肩に乗るコイツには悪いが、ひとまずチャトラーに渡されたスーピー肉を食うか。


「いただきます」


 山の恵みに感謝しながらひとくち。


「うまっ!!!」


 あふれる汁気。

 ホロホロと崩れる肉。

 てっきり、二度焼きしたから肉汁なんか吹き飛んでいるかと思っていたが……恐るべしフーディの保存空間。

 アイツ、いつも謎の空間に食料を保管しているんだよな。

 小腹が空いた時にそこから取り出して食うらしい。


「はぁ……複雑な気持ち」


 嬉しさと、この世界に馴染んでしまったという悲しさ。

 いろいろな想いを抱きながら俺は杯をあおった。ちなみにお酒じゃなくてジュースです。一応未成年なので。


「ピルルルゥ」


「ん? 楽しいか?」


「ピルルゥ♪」


 俺の問いかけにスーピー(以下略)が嬉しそうにパタパタと羽を動かし、空を舞った。

 その下には笑いながらうたげを楽しむみんながいる。

 それを見て、あっ、と思う。


「そうだ、名前」


 ずっと何にしようかと悩んでいた店の名前。

 ああでもない、こうでもないと書きなぐった紙のクズ。

 決まらなくて、なんど朝を迎えたことか。

 それがようやくひらいた。


「――Alivio(アリビオ)


 外国の言葉で「いこい」。

 どうか、みんなの憩いの場となりますように。

 そんな想いを込めて。



 ――アリビオ食堂、開店。

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