異世界で飯は食うなよ、絶対に!(完)
ときの流れは早いもので、最初の村を出てからはや数ヶ月。
動く壁石集めもやっと終わり、俺たちは最初の村まで戻ってきていた。
おかげで装備が結構すごい。
オルハリコンできた糸(意味不明)で編んだコック服に、やはりオルハリコン製のフライパン。
いまの俺は人類最強のシェフかも知れない。
「準備はいい?」
女神は神妙な面持ちで震える手をおさえながら、最後の石を壁にはめた。
いやそんな演出されても。
「うわっ」
ぴかーっと光る壁。
ゴゴゴと地面がゆれる。
「なんだ!」
「あっちですじゃ」
勇者の叫びに村長が祠を出て村のほうを指さした。
そこは俺と女神がこの世界に降りたった場所。村の中央エリアだった。
一本の光の柱が天まで伸びている。
「魔王が出るわ!」
「え、あっち? こっちの壁は?」
「こっちはスイッチよ。封印されてるのはあっちよ」
まぎらわしいな。
てっきり絵の中に入って魔王の世界に行くとか、そういうワクワクな展開を期待していたのに。スーパー●リオ的な。ロクヨン的な。
「最終決戦ね。みんな、ここまでよく頑張ってくれました。女神はみんなの協力を頼もしく思います。でもこれからの戦いはきっとさらに厳しくなる……無理にとはいわないわ、でも、お願い! 私についてきて!」
女神は締めに入った。
その言葉に俺以外の全員が頷く。
あの、急に最終決戦前の会話ぶっこまれても困ります。
そんなわけでレッツラ魔王戦。
村の中央、魔王の前にきた。
「我を目覚めせし者よ。礼を言おう、おかげで再びこの世界に君臨できようぞ」
「魔王! 覚悟」
勇者が斬りかかる。返り討ちにされた。
「ふぁいあーす……」
村長が呪文をとなえた、
途中で薙ぎ払われた。
「みゃー!」
チャトラーが疾風のごとき勢いで魔王にかみつく。
だが、魔王に頭を撫でられその場でゴロゴロと鳴いている。
「愚か者め、うぬらの攻撃など痛くもかゆくもないわ!」
「くっ、卑怯な、魔王。おとなしくそのドラゴンハンマーを私に渡しなさい!」
「ふははははっ! これが欲しくば全力で取りに来るがよい!」
魔王の攻撃。女神に黒炎の大蛇が襲い掛かる。
「きゃあああああ」
「めがみー」
女神の悲鳴に勇者が叫び、立ち上がる。
「オレの仲間は傷つけさせない……!」
……うん、なにやら盛り上がってるところ悪いが、バトルとかだるいからサクッと終わしたい。
俺はオルハリコンなフライパンを取り出した。
「必殺! ドラゴンゾーラァ‼」
「ぐわ————————っ」
放たれる竜炎。
青白い業火の渦は敵の動きを封じ、その身を灰燼へと変えた。
散りゆく灰は空高く舞い、天へと消えていく。
ひとときの静寂のあと、女神が涙を浮かべ感嘆の声をあげた。
「──やったわ!」
たちまち広間に響くいくつもの歓喜の声。
そんな中、俺はつぶやいた。
「そろそろ茶番いい?」
なんか最終戦ぽい感じでむせび泣いてるやつとかいるけど、心底どうでもいいのでさっさと魔王からドロップしたドラゴン肉食おうぜ。
「で、なににする?」
「ステーキ! ミディアムレアで!」
今日一番の笑顔で女神が言った。
こうして魔王は倒され、女神様にドラゴンステーキが献上され、世界は平和になりました。めでたしめでたし。
……にはならなかった。
「おい! 元の世界に帰らせてくれよ、女神!」
美味しそうにステーキを頬張る女神。
ほんとガッツリいってるな。
女神のくせに。
いつものようにたき火を囲ってみんなでわいわいとドラゴン肉を楽しむ。
戦いは終わった。
でも、なぜだろう。
戦いの余韻なのか俺の心は不思議と沸き立つものがあった。
なんか楽しい。
それと同時にもうすぐこの世界ともお別れかと思うと無性に寂しく感じた。
いや、そうじゃなくて。
感傷はさておき、女神を見るときょとんとした顔で俺を見上げていた。
「……?」
「いや、きょとんとするな。俺、明日もバイトがあるんだ」
まぁ、とうぜん明日という概念が向こうの世界でも通用するかは別である。
大抵は向こうの一日とこちらの一日は時間がずれているというのがお約束だろう。
行方不明扱いになっていたらどうしよう。
俺がそんなことを真剣に考えこんでいると、女神は間の抜けた顔で言った。
「無理よ。だってあなた、こっちのご飯食べちゃったでしょう?」
「は? メシ?」
「ええ、ほらよく言うじゃない」
そして女神はもっとも残酷な事実をのべた。
「異世界のものを口にすると元の世界に帰れなくなる──。だからあなた、もう帰れないわ」
「……」
え、うそうそ。
ここ、そういう世界なの?
黄泉の世界なの?
俺死んでるの? 違うよね?
ああ最悪だ。
なんてこった。
どうやら俺は悪い女神に誑かされて、いや、違うな。
コイツは女神様なんかじゃない……そう、
「悪魔だぁああああああああ!」
俺はその場に崩れ落ち、全力で泣いた。
最後の教訓。
『異世界で、飯は食うなよ、絶対に』
◇
「そうか……」
帰れないのか。そうかぁ、まじかぁ。
ドラゴンステーキを頬張る。
涙のせいか塩辛い。
でもうまい。
S級食材のドラゴン肉だからなのか、それともこちらの世界に身体がなじんできたのか。
いずれにせよそれを確かめるすべはもう無い。
「そうだ。どうせならこっちでお店でも出したら?」
落ち込む俺の肩を叩いて女神が言った。
「店?」
「ええ、あなたの料理すごくおいしいから。もっと多くの人に食べてもらいなさいよ。そもそもそういう予定で連れてきたわけだし」
「店か……」
それもいいかもしれないな。
どうせこれから職を探さないといけなくなるわけだし。
だったら思い切り好きなことをしてのんびり暮らそう。
なによりここにはうまいと言って俺の飯を食べてくれるやつらがいる。
向こうでは満たされなかった想い。
こんなにもおいしいと言って、客の笑顔が見られるのであれば。
それはきっと料理人として一番の幸せなのかもしれない。
「そうだな。店でも始めるか」
──END。
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