スライムはクソまず…いや、夢の味でした
「やってきました! 始まりの村」
女神が両手を広げて「ようこそ」と言ってくれた。
全然ようこそじゃない。
出来れば来たくなかったです。
「……あの、ここ村というより廃村に見えますけど」
まわりに立つ家屋はぼろぼろ。
そもそも戸というものが存在しない。
確実に誰も住んでいなさそうな家が数軒、それだけ。
村人の気配? ナイナイ一切ない。
お世辞にも村と呼べる景観ではないし、うらびれた感がすさまじい。
女神はパチリとウインク付きで言った。
「見かけだけよ☆」
そうかぁ。見かけだけかぁ。
もうどうでもよくなってきた。
俺がひどい頭痛にこめかみあたりを指で押していると、崩れた家から老人が出てきた。
人、住んでたんかい。
「おや、女神様。なにか御用ですかな?」
「こんにちは、村長。今日は魔王を復活しに来たの」
「それはそれは、大変なお役目で」
「じいさんの感想それでいいのか?」
世界滅ぶ案件ですよ。
村長とよばれた老人と若干ずれた会話を交わすと女神は本題に入った。
「今からちょっと封印の様子を見せてもらえるかしら?」
「もちろんですじゃ。ささこちらへ」
村長に案内され、村外れの祠なる場所へと向かう。
「あ! スライムよ!」
唐突に女神が叫んだ。
草かげからスライムがあらわれた。
二匹。
期待を裏切らない水色だ。
「戦闘態勢!」
女神の合図に俺たちはスライムから距離をとる。
すごい。
まんまRPGで見るやつだ。
あれだな、きっと某ゲーム作った人は異世界出身なのかもしれない。
「俺、いまフライパンしか持ってませんけど」
現在の装備
コックコート
アルミのフライパン
くつした
これでどう戦えと?
初期装備、激ヨワすぎて民家のタンスとか漁りたくなっちゃうよ。
せめて包丁ください。
スライム刻んで「ふ……つまらなぬものを斬ってしまった……」とかやるから。
あと靴も。
歩くたびに足の裏に石が刺さって痛いから。
「大丈夫。それで思いきり叩いてみて!」
「え、じゃあ……せや!」
リトのこうげき!
スライムに1のダメージ!
スライムをやっつけた!
ててててっててー。
リトはレベル2にあがった!
「くっそ弱いなスライム! あとごめんね」
完全にお伸びになっているスライムさんがとてもかわいそうでした。
「やった! 今夜の夕飯げぇぇぇぇっと!」
女神がもろ手を上げる。
興奮気味にスライムを回収しているが、それ食材扱いなの?
「スライムって食べられるんですか?」
「もちろんよ! 新鮮なスライムは刺身にして食べるとおいしいの!」
スライムの刺身……。
あれかな、ゼリーみたいな食感なのかな。
勇者リトはちょっと食べたくないです。
「おぉ、フライパンの人、お強いですなぁ」
「そうですか?」
俺がスライムの味についてあれこれ考えていると、村長が話しかけてきた。
「もしや勇者様で?」
「違います」
「ふむ、ではその服装、料理人さんですかな。なるほど。昨今の料理人は戦闘がお得意とは……時代も変わりましたなぁ」
灰色の、もさもさなお髭をゆらしながら笑う村長さん。
いろいろツッコミどころはあるが、とりあえずフライパンの人はやめてほしい。
リトです、と名乗ると、ワイズじゃ、と返ってきた。
賢そうなお名前で。
あと勇者なら魔王復活には手を貸さないと思います。
「こっちよ」
俺が村長と雑談していると、洞窟らしき入り口から女神が手招きした。
中に入るとひんやりとした空気が俺の鼻先をくすぐった。
はっくしょい!
ずず……。鼻水すすりながら女神のあとをついていくと、そこそこ広い空間に出た。
ぴちょんぴちょんと天井から落ちてくる紫色の水滴(毒?)をかわしながら女神の隣に立つと、訝しげな表情で女神がつぶやいた。
「石が……ないわ」
石? なんのことだろうか。
女神が見つめる先を目で追えば、うっすらとだが、岩壁に何かの絵が描いてあった。
女神のつぶやきに村長が難しい顔で答える。
「実は、壁石の一部が逃走してしまいましてな。見ての通り、封印も弱まっておりますのじゃ」
石の逃走……?
「そっか、それだと封印が解除できないわね。困ったわ」
「本当ですなぁ」
ふたりがはあーとため息をつく。
あの、ここにひとり、話についていけてない異世界人がいるからちゃんと説明して?
あと、この世界の石って走んの?
なにそのとんでも設定。もしかして、動く石像とかあったりします?
俺が地球と異世界との生態系の違いに軽くカルチャーショックを受けていると、女神はむむむとうなった。
「前の封印から時間が経って封印の力は弱っていることだし、このまま壁画ごと吹き飛ばしてもいいのだけれど……。でも、正しい方法で解除しないとへたをすれば世界が滅ぶのよね」
「なにそのとんでもねぇ案件」
いいよ、もうふつうにその正しい方法とやらで封印解除しようぜ。
俺がそう言うと、意外にも女神は素直にそうねと頷いた。
「で、その正しい方法って?」
「逃げた壁石をつかまえて、絵を完成させ、そのうえで、私が封印解除の魔法を絵に打ち込むの。そうすれば、封印は解かれるわ」
「ふぅん。つまり石板集めってところか」
セブン的なね。
まあ今回のは壁石だけど。
ところであれ、町づくりのイベントが一番楽しいんだよな。
荒くれ者とかバニーさんとか集めてカジノの町作ったっけ。
懐かしいなぁと俺が思い出に浸っていると、女神がさっき捕まえたスライムを渡してきた。
「じゃ、方針は決まったことだし、今日はここでスライムでも食べて、もう寝ましょう」
なるほど。これでメシ作れってことか。
ほこらの前で火を囲む。
薄暗い空の下、女神がしゅびっと手をあげた。
「私ポン酢の気分~」
「ワシは塩がいいのぅ」
ポン酢ないし。
塩もないし。
あと村長も一緒に食べる気なのか。
しかたない。
とりあえず、スライムさばいてみるか。
「──って、包丁ないや」
「それならこれを使うといい」
村長がナイフをくれた。
装備がひとつ増えた。
リトの攻撃力が5あがった。
「うわ……ぶるんぶるん」
スライムにナイフを押し当てるとぼよよんっと謎のSEが鳴って刃がはじかれた。
すごい弾力だ。
村長が近くの大きな石を掴む。
「コツがあるんですじゃよ。こう──」
「うわっ!」
いきなりスライムを石で激しく叩きはじめた。
ぼよん、ぼよよん!
可哀想なくらい上下に揺れるスライム。
悪辣な笑顔を浮かべる老人。
なんかこう、罪悪感を感じる絵面の悪さだった。
村長、スライムになんか恨みでもあんの?
「こうやってふん! 強く叩いてふん! 表面の筋を柔らかくすると切りやすくなりますん、じゃ!」
「わ、わかった……」
ずしっと重い石を渡され、若干引く俺。
ところで表面のすじとはなに?
ゼリーだよね、それ。
悪戦苦闘しながらスライムを叩きまくると言い感じに平らになった。
それをナイフで薄く切り分ける。
スッと入る刃。
さっきとは打って変わってなめらかな切れ味だ。
「できたぞ」
スライムの刺身の完成。
いつのまにかポン酢とハシを用意していたらしい女神が手を合わせて「いただきます!」と元気よく告げる。
ぱくり。
女神、スライムをもぐもぐ。
「んん──っ! おいひぃ……」
うっとり。幸せそうな表情だ。
でもそうか、これうまいのか。
ぜんぜんそうは見えないけど。
「まあ、ものは試しだ」
料理人たるもの、未知の食材にも動じないものだ!
俺はスライムを勢いよく口に入れた。
結果、吐いた。
「まっずぅぅぅぅぅ……」
思ったより脂にまみれた味だった。
全然うまくない。
見た目さわやかブルーな色してるくせに味は脂身。
しかもね。もうね。ステーキとかサーロインとかそんな脂身レベルじゃない。
脂身を溶かして更に凝縮させたゼリーって感じの味だった。
にこごり?
いや、食感はもろこんにゃくだから、さしずめこれは『刺身こんにゃく』と言ったところだろうか。
それをもっと獣臭くした感じ。
野性味あふれる刺身こんにゃく。
それがスライムです。
「おいひー」
「うむ。この時期の旬ですな」
ちらっと横を見れば女神と村長がうまそうに食事談義を交わしている。
入れない俺。
だってこれ、マズいんだもの。
本日の教訓。
『スライムは夢の味』
これが異世界に来て初めての食事でした。
もっとうまいもん食べたかったよ。




