冷蔵庫を開けたら異世界だった
誰か教えてほしい。
こんなときの正しい対応を。
「私は女神一の美食家フーディよ。さぁ、料理人米斗理人。この私に極上の料理を振舞いなさい!」
「はぁ……極上の料理、ですか」
目の前のよく分からん女が、よく分からんことを言っている。
それ以上によく分からんのがこの空間だ。
いったいここはどこなんだろうか。
真っ暗な空間に、光り輝くように浮いている謎の女。
俺はいましがた自宅でメシを作ろうとしていたはずだ。
その証拠にほら。
まっしろなコック服を着用した俺の手に握られている年季の入ったフライパン。
バイト前にささっとなんか食っとくかと冷蔵庫を開けたらここにいた。
え? なになにほんとここどこですか?
冷蔵庫開けたら異次元空間とかそれどこのラノベな設定だよ。
あと、俺が帰らないと最近入った新人くんが困っちゃうよ?
あの子、平気でレジフリーズさせてくるからね?
店長が泣くよ。コンビニの。
だからどうか早く帰らせて。
しかし俺の願いは虚しく女神は両手を組んでキラキラとした目で言った。
「ええ。先日ふらりとあなたの世界に行ったとき、あまりのご飯のおいしさに思わず感涙しました。ぜひその食を! 私の箱庭に取り入れたいっ!」
「……いや、取り入れたいとかそんな笑顔で言われてましても」
「それでまあ、腕のいい料理人を探していたらちょうどあなたを見つけてね。私のもとに連れてきたってわけ。ここまではオーケー?」
全然オーケーじゃない。
人の話きいてないし、女神を自称するとかアタマ沸いてんのかあんた。
──と、本来ならばそう言っている。
だが、そう言えなかったのはひとえにこの女が美しかったから。
腰までのびた金髪。
知性をたたえた顔立ち。
サファイアを散らした青銀の瞳。
白いワンピースから伸びるすらりとした手足は絹のような光沢さえ見せていて、その容姿はさながら神のごとき美しさ。
さすがは女神を自称するだけあって、その女はとんでもない美人だった。
「単刀直入に言うわ、米斗理人! 私に魔王の肉を使った料理を献上しなさい!」
「魔王の肉……? つまりそれは魔王をさばいてメシを作れってことですか?」
「え……やだ、あなた頭大丈夫?」
おまえがな。あと引くな。
「いや、魔王の肉を使ったと言うから……」
「あー、それね。そうじゃなくて魔王が持っている武器のことよ。あいつ、S級ランクの骨つき肉を振り回してくるのよね」
「それ、どういう状況なんだ」
食事中? そうじゃなかったらその魔王とはやらは相当な変わり者に違いない。
「ちなみにドラゴン肉よ」
誰も聞いてない。
しかし女神はなにを思ったのか、異世界のドラゴン事情を俺に語りだした。
「前はいっぱいいたんだけどねー、ちょっと狩りすぎちゃってドラゴン絶滅しちゃったのよ。だから魔王が持ってるやつがこの世界で最後のドラゴン肉ってわけ。あなたには、私が昔勇者と一緒に封印した魔王を復活させる手伝いをして欲しいのよ」
「ええ!? 魔王を復活させるって……それ、いいんですか?」
まずくない?
あと、どこの世界に魔王を復活させる女神がいるんだよ。
女神は切なげな表情で嘆息した。
「仕方がないわね。ごはんのためだもの。──というわけで、あなたには魔王を復活させてドラゴン肉を回収したのち、それでおいしいごはんを作ってもらうから。さっそく始まりの村へレッツゴー!」
「──は? ちょっ、ちょっと待て! 俺やるって言ってな──」
ああ、どこまでも強引な女神様。
そんなわけで俺はいまから異世界に行くらしい。
異世界ものの主人公よ。先人たちよ。
俺に女神に拉致られた時の心得を教えてください。──いや、マジで!




