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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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9: 選択

投げかけられた選択に、唇が震える。


声が出ない…。

(…え、選べない…どちらも私だから)


何かを言わなければと思っても、ハクハクと口が動くだけだった。


「あらぁ〜悩んじゃって。ちょっと意地悪だったかしらぁ〜」


口調が戻ったノスタルジアの変化に、呼吸を思い出す。


「選べないのも当然よねぇ〜。さっき思い出したばかりでしょぉ〜」


頬に手を置いて首を傾げる仕草は、人間らしいのに、規格外の美しさが違和感を与える。


「そうねぇ〜少し時間をあげましょうか」


こちらを一瞥して、提案する。


「そのままにしていると、記憶も感情も混乱して苦しむでしょうけど…。

今すぐに結論を出さなくてもいいわ」


能面のような表情のまま、唇だけ、にこりと笑って続けた。


「町でも散策しながら決めなさい」

 

ノスタルジアが手をかざすと、足元に白銀の光が注いだ。


その光はやや冷たさを感じるのに、全身に強い熱感が広がる。


「うん…上手くいったわ!もう歩けるわよぉ〜」


足の傷が完全に塞がり、何事もなかったかのように、きれいな肌になっている。


「痛くない…」


ぼーっと足を眺めていると、ノスタルジアがこちらを見つめた。


「傷は完全治癒しているけど、不安や魂に迷いがある時は、痛むでしょうね」


手をパタパタしながら、「私も完璧じゃないのよ〜」と続ける。


“おはなしおわったのー”

“いたいのなくなったのー”

“めがみさま、すごいのー”


妖精たちが戻ってきた。


「さて、もう一度湖面を見てみなさい」


ノスタルジアに言われた通り、湖面をのぞく。


そこには、濃紺の髪に深い青色の瞳。

鼻筋の通った小さめの鼻、薄く形のいい唇。

整った顔立ちの若い女性が映っていた。


「え…だれ?」


戸惑いながらも、ノスタルジアを見つめ返す。


「魂が安定していないからね。流美とルシナが混ざった姿なのよ〜」 


「で?名前はどうするの?どちらにするか、名前だけでも決めちゃいなさいな」


軽く問われて、呆気に取られる。



「ルシナ…と呼んでもらいたい…です」


すぐに口から出た返答に戸惑いを隠せない


「ルシナ…それがあなたの名前」


ずっと手を握っていてくれたコハナが、ルシナをまっすぐ見つめる。


「うん…コハナ、私の名前はルシナ。よろしくね」


そう答えると、コハナは少しだけ目を細めた


「よろしく」


“よろしくなのー”

“ルシナかわいいのー”


妖精たちが光りながら、周りをうろちょろしている。

よく見ると光ではなく、絵本に出てくるような妖精の姿をしていた。

彩り豊かな羽をパタパタさせて飛び回っている。


「えっ…妖精さんの姿がはっきり見える」


目を見開いて、妖精の動きを追った。


「今まで見えてなかった?」

コハナが不思議そうにする。


「今までは光だけだったよ。しかもこんなにたくさんいるなんて…」


驚きを隠せないでいると、


「あぁ私の影響かもね。でも元々素質があったのよ〜」


妖精たちの姿を視線で追いながら、ノスタルジアが続けてルシナを呼んだ。


「ルシナ、ちょっとこちらに来なさいな」


湖の中へと手招きをする。


誘われるようにコハナと手を離し、腰まで湖の中へ進むと、ノスタルジアに軽く抱きしめられた。


「流美…人に優しく、自分に出来ることを精一杯生きてきたわね」

「ルシナ…周りの人のために自分を犠牲にして生きてきたわね」

「二人とも、えらいわ〜」


優しい母のような声に、思わず涙ぐむ。


「これは私からのサービス…魂が混線してしまったお詫びでもあるわ。上手く使ってね」


そう言うと、ルシナの体が白銀に光り輝き、思わず目を閉じた。


光が落ち着き、目を開けるとルシナはコハナの隣にいた。

服も濡れておらず、困惑する。


「もうすぐ日も暮れるわよ。あなたたちはもう帰りなさいな」


ノスタルジアは湖の中央へと音もなく移動する。


「あっそうそう、いつでも遊びにきていいからね〜待ってるわ〜」


そう言って投げキッスをしながら、湖の中へと消えていった。


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