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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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59: シヴァルとの邂逅

群生地では、ベリーの香りが広がっており、時折、冷たい風が吹いている。


そこに対峙しているのは、長身の青年と、大きな狼型魔獣。


魔獣は尻をつけたまま、青年を見上げ、その青い瞳は愉快そうに細められていた。


「……ノア」


ノアはしばらく思案した後、魔獣を見下ろしながら短く答えた。


「かっかっか……、そうか、ノアか」


魔獣は立ち上がり、鼻先をノアに向けた。


「我は、シヴァル」


青く澄んだ瞳がノアを真っ直ぐ見据える。


「して、ノアよ。あの娘の後を追っているのは——お前の方ではないか」


シヴァルは、呆れたようにため息をつき、前足を伸ばすと、しなやかに体を伸ばした。


再び座り込むと、大きく欠伸をして、ノアの返答を待つ。


「俺が聞いているんだ、シヴァル。あの子を襲わず、後を追うのは何故だ」


「はは……。お前は本当に面白い。……良いだろう。我から答えよう」


シヴァルはノアから視線を外すと、ルシナが逃げた方向を見る。先程までルシナがいた 場所には、ひっくり返った籠と、潰れたベリーがあった。


「あの娘は不思議だ……。メンダヴォルが寄り付かない。そして、魂が異質だ……。お前も薄々気づいていたんじゃないか?」


ノアはシヴァルを見下ろし、眉をひそめる。


「メンダヴォルが見えている時点で異質だ。あれは、メンダヴォルに取り込まれた末期でしか見えない」


(ルシナがメンダヴォルが見える要因を知っているのか……?そして……)


シヴァルは、ノアの表情の僅かな変化を見逃さない。


「ノア……お前も見えているな?」


ノアの鼻に皺が寄る。


「……ははは!図星か!……人の子は面白い!メンダヴォルが見えるという事はな、お前が言う通り、異質な存在だ。別の世界の魂が紛れているからな」


ノアの青い瞳が最大限に広がる。


「お前も……紛れたな」


シヴァルは口を大きく広げてニヤリと笑った。


ノアは動揺を隠せず、シヴァルを見下ろし続ける。互いの視線の間を、冷たい風が吹き抜けた。


「……まぁいい。お前は選択したな。あの娘はまだ選択をしていないか……。まあ、選択をせずに壊れずにいるのが興味深くてな。それで見ていただけだ」


「壊れるところを見るつもりか?」

ノアの重く低い声が、更に低くなる。


「何、ただの暇つぶしだ。あの娘が壊れても、我には関係ない。我の関心事はな、メンダヴォルが広がり過ぎてる事だ。あれに侵食された人間が増えると厄介でな。力を持つ若造が増えると、後々面倒なんだよ」


「赤目の狼……」


ノアが呟くと、シヴァルは喉を鳴らし頷く。


「さあ、お前が得意な交渉といこうではないか」


シヴァルの深く青い瞳が、ノアの青い瞳を見据える。


「……ここでも、討伐依頼か」


ノアは肩の力が抜けていくのを感じた。


「蒼き深緑の王ーーシヴァルが命ずる。あやつを滅せよ!」


射抜くような視線と、逃れられない覇気がノアを襲う。


「あやつをどうしようが、我は手を出さん。森の王の機嫌を損ねるなど、考えるな」


シヴァルは前足をペロペロと舐めながら、上目遣いでノアを見る。


ノアの喉仏が大きく動く。


「交渉だーー。赤目の弱点を教えろ。そして、ルシナを見守れ」


「……良かろう」


シヴァルは、ニヤリと笑うと、音もなく間合いを詰めると、鼻先をノアの指先に擦り付けた。


「ーー交渉成立」


シヴァルは低く喉を震わせると、ノアの横を擦り抜け駆け去っていく。


残されたノアは、その後ろ姿を見つめると、自身の掌に視線を移した。


『ーー選びなさい。どちらの魂を残すのか』


白銀の女神の姿が頭に浮かぶ。

酷く曖昧で霞んで見えるその姿は、ぼんやりとしか思い出せない。


『どっちでもいい!早く、この苦しみから解放させてくれ!』


発狂して叫ぶ自分の声が耳の奥で響く。


『これだけ苦しんだんだ、それなりの詫びってものがあってもいいんじゃないか?』


美しい姿の女神に詰め寄る。


『力を、この世界で生きていくための、力を要求する!』


女神からの凍えるような視線を無視して、力を要求した。


『力を持つことで、増える試練もあるわよ?ただでさえ、苦しい魂を選んだのに。貴方は耐えられるかしら?』


『耐え難い苦しみも、痛さも、今味わったさ』


ノアは女神を睨みつけながら手を伸ばす。


『力を!!』


(あの時の自分に言ってやりたいーー。その選択で良かったのかと……)


ノアは、落ちていた籠を拾うと、ベリーの実を一つ一つ摘みながら、過去を思い出していた。


(考える余裕があるなら、しっかり考えろ)


気付けば、ノアは籠がいっぱいになるまで、ベリーの実を摘んでいた。



ーーーー



妖精の後を追うように飛んでいくと、気付けばノクターンの鏡湖に辿り着いていた


「あれっ。ここ、女神さまの湖?」


妖精はくるくると周りながら、花の蜜を吸っている。


「女神さまのところって、魔獣は追ってこない?」


“ここが、いちばん、あんぜんなのー”

“くろいおおかみは、たまにくるのー”


“でも、めがみさまと、おともだちー”

“だから、だいじょうぶ”


“まよいごいがい、これないのー”

“あと、おともだちー”

“てきは、これないのー”



妖精たちが、わらわらと集まってくる。


「そうなの?私……女神さまの『お友達』だったんだ!」


“おちついたー?”

“あんない、ここまででいーい?”


妖精たちは、白い花を囲いながら、くるくると周って遊んでいる。


「はっ!……そういえば、ちょこって?」


“のあ、いつもちょこくれるよー”

“だから、おしごと、てつだうのー”


「ノアさんって、みんなとお話し出来るの?」


“うん、ずっとまえからなのー”

“かお、こわいけど、やさしーよ”


「そうなんだ……。なんで、見えない振りしてたんだろ……」


以前に、妖精が目の前にいても、反応していなかった。


“のあ、いつも、むしするのー”

“そうゆうの、つんでれっていうんだってー”

“なにそれーあはははー”


「ツンデレ……。なるほど……」


ルシナは妙に腑に落ちた気がした。


ノスタルジアは今日は湖から出てこない。

だけど、ワンピースに付いたベリーの赤い染みは、いつの間にか、キレイに消えていた。

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