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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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58: 青い瞳と群生地

革の匂いが漂う作業場では、ルキがボルドーのハイヒールを作っている。


型紙通りに裁断した深い赤色の革を、木型に沿わせていく。


足を痛めているルシナには、正直なところ、この高さのハイヒールはおすすめ出来なかった。


おそらく傷があったのは、足首の腱だろう。


ハイヒールは足首に負担がかかる。


それでも、彼女はーー


『この高さがいいです!歩きやすいし、ダンスもしやすそう!』


弾けるような笑顔を向けてきた。


(ダンス……誰と?)



ルシナは、きっとハイヒールが完成したら、誰かの隣を歩いて、誰かと踊る。


その隣にいるのが、自分であって欲しい。


そう思わずには、いられなかった。




ーーーー





ルシナは一人で群生地まで散歩に来ていた。


風が少しだけ冷たく、肩にかけたショールを、そっと巻き直す。


フーもついて来るかと思ったが、ルシナをチラリと見るだけで、昼寝をしてしまった。


群生地の草花の色も移り変わっている。

実の種類も変わり、今はベリー系の実が、あちこちに色づいていた。


ルシナは小屋から持ってきたカゴに、ひと粒ずつ入れていく。

(これ、ホリッジに乗せて、ハチミツかけたら美味しそう……)

(ジャムにするのもいいなー)


ひとつ摘むたびに、甘い香りがふわりと広がる。


(数日、町に行ってないけど……モーヴェ便、地味に助かってるな)

 

一人であれこれ考えながら実を摘んでいると

ふと、風が止む。


次の瞬間——


突風が叩きつける。


「ふぎゃあ!」


ルシナはバランスを崩し、カゴをひっくり返すと

ベリーが地面に散らばり、その上に尻もちをついた。


「あー……やっちまった…」


ルシナの着ていた、水色のワンピースがベリーで赤く染まる。


「うう……。シミになっちゃたよー」


ルシナがワンピースのシミを擦っていると、ふと気配を感じて顔を上げる。


そこには、鹿ほどの大きさの狼型の魔獣が、静かに立っていた。


黒く艶のある毛並み。

その奥で、青い瞳がこちらを見ている。


そして、嗤ったーー。




ルシナは慌てて、立ちあがろうとしたが、腰が抜けてしまい動けない。


その様子をじっくりと舐めるように眺めながら、

青い目の魔獣は、ゆっくりと近づいてくる。


(こっ怖い!……選択する前に死ぬやつ〜!)


身を縮こませ、ぎゅっと目を閉じる。


——来る。


そう思って覚悟を決めた……はずだった。



すっとルシナの前に影が、伸びた。


魔獣の息の音は、まだ遠く、明らかな異変だった。


恐る恐る目を開け、顔を上げると、長身の青年が立っていた。


短く刈り上げた灰色の髪。

引き締まった体つき。


僅かに振り向き、ルシナを見下ろす。

その瞳は、青く鋭かった。


「立てないのか?」

低い声が、重く響く。


「……ノア、さん?」


(……いつの間に)

(音、全然しなかった……)

(っていうか……死んだんじゃないの?)


「怪我したのか!」

赤く染まったワンピースに、素早く視線を落とす。


「……ベリーです!」


「……そうか……なら何故、立たない!」


「ひぇ……腰が抜けました!」


「チッ」


ノアは、青銀の魔法陣をいくつか展開し、魔獣の周囲へ滑らせる。


それでも、魔獣は、変わらず嗤っていた。


ノアは、ルシナを片手で引き上げ、そのまま乱暴に立たせる。


「ぐぇ……」


足元がぐらつき、ノアの腕にしがみつく。


「いいか、そのまま飛んで逃げろ」


「えっ……何で知って……」


「チッ……。おい、役に立て。こいつを連れて行け」


ノアは耳にぶら下がっていた小さな妖精を摘み上げ、ルシナの頭に乗せる。


「チョコ三個だ」


“わかったー。やくそくだよー”


「あぁ」


“とりゅふちょこねー”


「……あぁ」


“るしな、いくよー”


ノアが妖精と話していること。

自分が飛べることを知っていること。

そして——


(チョコ?)


ルシナは、情報が多すぎて混乱して、ぼーっとしている。


「行け!」


鋭い声に、はっとする。

ふわりと浮き上がり、妖精の後を追うように飛んで真っ直ぐ進む。


ルシナは、ノアが気になり、振り返った。



背後では、魔法が弾け、爆発音が響いていた。

ノアはさらに、魔法陣を展開させて、笑っていた。




ーーーー




ノアは隙を見て、横目で後方を確認する。

ルシナが真っ直ぐ飛びながら、徐々に離れていくのを見守る。


——よし、離れたな。


魔法陣を連続して展開し、魔獣の周囲へ配置する。


先程の攻撃は、ほとんど効いていない。

嗤っている。


(こいつ……)


ノアは展開した魔法陣は維持したまま、魔獣を観察する。


「おい、お前。何故、あいつに付き纏う。……ずっと近くにいたな」


上位種の魔獣は、人語を理解すると聞く。

ノアは魔獣へ対話を試みた。


「くっくっくっ。お前とな……」


癖のある声が、腹に落ちるように重く響く。


「我と対等と思うておるか」


静かな響きなのに、皮膚を刺す。


ノアは僅かに眉を動かしただけで、動かない。

そのまま、静かに睨みつける。


「はっ……。では、お前は神とでも言うのか」


魔獣は、くっくっと喉を鳴らす。


「神とな……くっく。人の子は、神が好きよのう」


魔獣はゆっくりと腰を落とし、地に座ると、浮かぶ魔法陣を仰ぎ見た。


「これ程の魔力量……。加護を受けたな?」


低く吠えると、砕けるような音を立てて、魔法陣は消滅した。


「……チッ」


表情は動かさないまま、ノアは睨みつける。


「はは……所詮は人の子よ……例え加護を受けてもな……」

   

少し興味あり気にノアを見つめた。


「我も人の子と話すのは久しい……気分が良い。お前も座るか?」


「その余興に俺が付き合うとでも?」


「かっかっかっ!面白い、面白い!」


魔獣は喉を鳴らしながら、地を転がるように笑う。


「これほどの圧をかけても、揺らがぬとは……こんな人の子もおったか」


獲物ではなく“玩具”を見つけたかのように、ニヤリと口を開けた。


「その態度で、女神と交渉したか?」


ノアの青い瞳に、動揺が滲んだが、それも一瞬だった。


「くくく……気に入った!お前、名を申せ!」


「何故、名を名乗る必要がある」


ノアは、魔獣の青い瞳から視線を外さず、睨みつける。


「その瞳も気に入った。青は美しい。お前が名を名乗るなら、我も名を名乗ろうぞ」


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