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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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57: 薬草屋と、崖上小屋では……

町の店が休業が相次ぐ中、カイの薬草屋は忙しい。


王都から派遣された人員は、カイが話しかけても、最低限の返事をするだけ。


それだけならまだ良かったのだが、返事の中に、若干の上から目線な空気を含んでおり、自分から話す時だけは、饒舌だった。


「へぇ〜……一人でやってる割には、しっかりやってるんですね」


「…… 」


「ちなみに、この調合のレシピどう書いてます?ちょっと見せてくださいよ………。へぇ〜上手く書けてるんですね」


「…… ありがと」


(なんなの……俺、そんなに出来ない奴みたい?

師匠からの紹介らしいけど、この子なんなの?)


「王都では、このやり方だと個人プレー過ぎて回らないけど、この町なら効率よく出来てるんじゃないですか?」


「あはは……ありがと」


カイは目の前の作業に集中する。

それでも派遣は止まらない……。


「俺、教育、指導みたいな仕事したいんですよね。でも中々、その仕事が回ってこないですよ。自分は、そっちの方が向いてると思うんです」


「へー……」

(まあ、その仕事は回ってこないだろーね)


「まあ、俺が見た中でも、ここまでレシピや記録をとってる人いなかったし、一人の割には、本当によく出来てますよ。……この間、行ったところなんて、二人もいたのに全然やってないんですよー」


「へー……そうなんだー」

(それ、俺に関係ある?……この人、早く王都に帰らないかな……)


“うるさいやっちゃのー……おらのしゃていに、ごちゃごちゃと……”


カイの頭の上で胡座を組んだ妖精は、眉を顰めて派遣を睨んでいる。


「カイくん、これ、後で食べなさいな」


腰痛持ちの年配の女性が、カイに、こっそり飴玉を渡すと、頑張れ!と応援して帰って行く。


(おばぁちゃん……。ありがと。俺、頑張る)


カイは、忙しさと共に、神経をすり減らしていた……。


「助かるけど、つらっ……」


カイのつぶやきは、誰にも聞かれず、静かに空気に溶けていった。




ーーーー



カフェが休業になり、ルシナは時間を持て余していた。


小屋の掃除や、フーと長めの散歩、ノスタルジアのカラオケに(朝まで)付き合ったり。


それでも、カフェで働いている方がずっと、楽しかった。


賑やかな声が、少し恋しくなる。


時間があると、つい考え込んでしまう。


片足だけのボルドーのハイヒールを、ぼんやりと眺める。


前向きになるための靴ーー。


『これを履いたら自分を取り戻せるような気がする』


ルシナは自分の言葉を思い出していた。


(ハイヒールが完成して、出来上がったら……。私は、自分を取り戻せるのかな……)


ノスタルジアの歌ーー。


『選択の時は近い』

このフレーズが、何度もルシナの頭を掠めていく……。


流美の魂か、ルシナの魂か。

似ているからこそ、重なる魂ーー。


考える事は、同じ。


(貴女が残って……)


だからこそ、決められない。


互いの声が聞こえて、会話が出来たとしても——

きっと、決められないだろう。


セイラならどうするのだろうか。

ふと、ルシナはセイラとの会話を思い出した。


(そういえば、そんな様な話をした気がする)


『まずは、どんな道があるのかを探すわね。

そして、与えられた道以外の可能性や、未来を想像するの』


『選択権は自分自身にあるのよ。選択肢だって作ってやる』


確かに、セイラはそう言っていた。


(選択肢は、二つだけ……?)

(流美とルシナどちらかしか選べない?)



グゥ〜キュルルル……。

何かを掴めたような気がしたが、お腹が鳴ってしまった。


その音を聞きつけたフーが不思議そうに首を傾げている。


コハナは、出来た時間で編み物をしている。

出来上がった小さな帽子を、フーの頭に被せていた。


ちゃんと耳が出るように作られた赤い帽子は、フーによく似合っている。


今はブランケット(糸の色も、編み方も、段ごとに変えているらしい)という大物に挑戦中らしく、手を高速で動かしている。


「コハナ、お昼にしよう」


コハナは、ルシナの声に、パッと顔を上げるとコクリと頷いた。



昼食後は、ルシナも編み物に挑戦した。


作り目までは何とか出来たが、次の段から、ごちゃごちゃしてきた。


(うん……そういえば、流美もルシナも不器用だった……やめよっ)


コハナはリズムよく、さくさくと編んでいる。その様子をみながら、ルシナは、コーヒーを一口飲む。


ほっと一息をつくと、また、思考の渦に飲まれていった。


次に浮かんだのは、ノアが消された事ーー


怖い人だったけど、妖精たちは嫌っていなかった。


毛布を持ってきてくれたこともあった。


自分が怖がると、一歩下がって、バツの悪そうな表情をしていた。


監視というよりも、見守られているーー。


そんな気配が、確かにあった。


「ちょっと、群生地に行ってくるね」


ルシナがコハナに声をかけると、コハナは一瞬だけ顔をあげ、こくりと頷く。


ルシナの背中を、コハナはじっと見つめると、銀の腕輪をそっと撫でる。


「気をつけて……」

コハナの小さな声は、ルシナには届かなかった。

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