6: 境界線
次に目覚めたら、幾分頭がすっきりとしていた。
眼鏡を手探りで探そうとすると、ふわふわの毛の感触がする。
フーがペロリとその手を舐め、続いて顔や耳を丹念に舐め始めた。
「ぶへぇ…うぅ…ちょ、フーちゃんやめて…」
フーは大きな目でこちらを見つめると、フスンと鼻を鳴らし、テトテトと離れていく。
「起きた?」
コハナの声がした。
「お腹空いたかと思って、ご飯用意した」
そう言って、ベッドの近くまでトレーに乗せたサンドイッチとハーブティーを持ってきてくれた。
「足の痛みはどう?」
そう尋ねられる。
引きつれるような痛みはあるものの、寝る前よりも緩和している気がした。
「だいぶ痛みは引いてるみたい」
身体を起こして端座位になりながら答える。
「よかった」
サンドイッチを見た瞬間、とてつもなくお腹が空いていることに気付いた。
ベッドの上で食べていると、フーがじーっと見つめてくる。
「フーのご飯はこっち」
コハナが肉と野菜が混ざった皿を床に置くと、フーがガツガツと食べ始めた。
(ふふふ。かわいい。私まで食欲が湧いてきた)
フーに負けじと一気にサンドイッチを食べ、ハーブティーを飲む。
「コハナ、このサンドイッチ美味しい。コハナが作ってくれたの?」
ソースがハムと癖のあるハーブの美味しさを引き立てていて、少し硬めのパンとの相性が抜群に良かった。
「うん。教えてもらった」
“たべたのー”
“げんきでたのー”
妖精たちの光がパタパタと周りをうろついている。
「夢をみたの…ここではない世界の」
一呼吸置いてから続けた。
「今が夢なのか…それも曖昧で」
鼻に触れて、さらに言う。
「夢の中では眼鏡がないと見えなかったはずなのに、今は見えてる」
止まらなくなりそうな不安を、ハーブティーで流し込んだ。
「境界線…」
コハナがぽつりと呟いた。
“やっぱりみずうみなのー”
“いくのー”
“いこーよー”
「湖?」
そういえば、寝る前にもそんなようなことを聞いた気がする。
「わかった…行こう」
コハナは、なにか決意じみた表情をした。
食べ終わった食事を片付けると、コハナが傷口の確認をした。
「立てる?」
足を床につく。
強い痛みはあるものの、前ほどではない。
(痛み止めが効いているのかも)
「妖精たち、支えるの手伝って」
“いいよー”
“まかせてなのー”
身体がふわりと軽くなり、あまり痛みを感じずに立つことができた。




