表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/69

間話: 黒い太陽

煌びやかな装飾のクイーンサイズのベッドに、少女が俯いて座っている。


ダークブラウンの長い髪は乱れ、自分で抜いてしまったのであろう抜け毛が、床やベッドの周りに散乱していた。


大きな瞳は赤く、きらきらと輝く魅力的な眼差しはそこにはない。

頬は涙の跡が残り、美しかった肌は荒れている。


「………」


何かを呟いている。

だが言葉にはなっておらず、何を言っているのか分からない。


手が時折、彷徨うように宙を掻き、何かを払うように力なく、ふわふわと動いていた。


変わり果てた妹の姿を、ドレス姿のセイラはただ見守ることしか出来ない。


ふと、気配を感じて振り返る。


そこには、端正秀麗な顔立ちの兄が立っていた。


「婚約は白紙となった。忌々しい噂のせいだ」


普段は感情を表に出さないよう教育された兄の声に、珍しく怒りが滲んでいる。


──この人にも、こんな感情があるんだ。


セイラは、場違いなことを思いつつ、怒りが収まらない。


「お兄様……一体誰がそんな噂を!!あんなパーティーに行かせなければ良かったわ!」


兄に問い詰めても、どうにもならないことはセイラも分かっていた。

でも、セイラは感情をぶつける先が分からない。


「ローズマリーだ。あの小娘、ジャスミンの優しさと純粋さを利用しやがった。噂を流し、追い立て、責め立てた。大勢の前で!」


聴くものを虜にする、兄の美声は低く、冷え切っていた。

兄の拳は青筋がたち、震えている。


「ふらふらになって、歩けなくなったジャスミンを、ルキオが抱えて連れ帰ってきてくれた」


「ルキオは今、何を?」


セイラは、何度もルキオの姿を探したが見つけられなかった。


「……守れなくて申し訳ないと、ふらりと何処かへ行ってしまったよ」


兄は震える拳をゆっくりと開いていく。

手のひらには、血が滲んでいた。


「あぁあぁあ」

少女が天井を見上げ、言葉にならない叫びをあげる。

その声は小さく、弱々しい。


「ジャスミン!!」

セイラが駆け寄るーー。

少女の周りは重苦しい空気が漂っており、セイラは僅かに顔をしかめる。


(なんなの……この重く生温かい気配は……)


少女は、何か得体の知れないものがあるように、力なく腕を払い続けている。


「ジャスミン!」

もう一度、セイラが名前を呼ぶと、ふと視線が合った。


「お姉……様……」

はつらつとした、可愛らしい声は弱々しく、聞き取りにくい。


「お姉様……。火が……火があるの。燃えてしまう。あぁああぁ……。黒い火…。黒い火があるの」

少女の目の焦点が再び合わなくなってくる。


セイラはベットに駆け上り、妹を抱きしめる。

少しでも安心できるようにーー。

少しでも心を取り戻すようにーー。


「お姉様……助けて……くろい、ひ……」


その言葉を、最後に少女の目から光が消え、

言葉も、感情も、太陽のような温かい笑顔も、完全に消滅してしまった。


「ジャスミン……ジャミー!!」

どんなに呼びかけても、反応はない。


人形のように、無表情で視線も一点を見つめるのみ。

その瞳には、セイラの顔も部屋の中も見えているのか分からない。


「ジャミー……?」

セイラは唇を震わせ、消え入るような声で呼びかける。


兄だけは、奥歯を噛み締めながら、冷静に状況を把握していた。


「ヴォル化した!」


兄は踵を返すと、対策に移る。


「ジャスミンから目を離すな!外に出すな!魔獣に警戒しろ!」


屋敷中に響き渡る声で発令を出す。


セイラは、ただ動くだけの――

空っぽの肉体になった妹を、抱き寄せたまま、動けないでいた。


どれくらい時間が経っただろうか。

窓から差し込む日の光が影を差す――


やがてセイラは、体の力を緩めるとふらりとベットから降りた。


薄暗い部屋をふらふらと歩き、部屋の扉に辿り着くと、

力いっぱい拳を叩きつけた。


「ジャミーを追い詰めた奴……許さない」


その瞳は、憎悪に満ちている。


「徹底的に潰してやる」


ジャミーの笑顔を取り戻すためなら――


「私は悪にでも、何にでも……なってやる」


大きな瞳から涙が止まらず、流れ落ちているのに、その眼光は鋭く……決意に満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ