表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/69

46: 白い花、青い目

コハナがパン屋のブレンダを呼びに行くと、ルシナはミュリーと二人だけになった。


ミュリーは、愛犬に顔を舐められ意識を取り戻し、今はゆっくりと水を飲んでいる。


クルクルした毛並の茶色い小型犬ココは、ミュリーの膝の上に乗って丸くなっている。


ミュリーは、ココの背をふわりと撫でると、枯れた花で荒れた部屋を見渡す。


まだ呆然としているミュリーを、ルシナはそっと見守った。


「私……何をしていたんだろう」

ミュリーは、震える声で天井を見上げた。


「何があったんですか?」


ルシナはそっと肩に触れる。

華奢な肩がビクリと揺れた。


「……。分からないの。町の人に薬草を隠し持っているだろって。そして隣国に横流ししているんだろって。そう言われたの。そんなの噂が流れてるなんて……」


そばに落ちていた枯れた花をルシナは眺める。


「薬草に近い花は、確かにあるけど……。薬草とは別物。薬になるようなものじゃないのに……」


誰がそんなことを言ったんだろう。

誰かに恨まれているのか。

そんな噂を鵜呑みにする人達が許せない。


そんな考えが頭から離れなくて、最近よく眠れていなかったと、ミュリーはココの背に顔を埋めながら呟いた。


ルシナはミュリーの背をそっと撫でる。


「そしたら、目の前が真っ暗になって……。

なんでみんな分かってくれないの、なんでって……」


ミュリーは震える声で続けた。


「花も……ココも……大切だったものも、

憎しみも悲しみも、全部ごちゃごちゃになって……。

全て黒くなっていって……何も感じなくなってきて……」


ミュリーは深く息を吸った。


「恐ろしかったの。何も感じない……。

生きていることさえ、何も感じなくなっていったの」


ミュリーの目は、感情の揺れを失っている。

ぽっかりと穴が空いているように仄暗い。


辛うじて、ココを撫でる手だけが人間らしい温度を保っていた。


「ミュリーさん……」


「ルシナちゃん……。ありがとう。やっぱりあなたは白い花ね」


噂の色に染まらない、無垢なあなたーー。


ミュリーは目を閉じてルシナに頭を預ける。 

そっとその頭をルシナが撫でるとミュリーはそっと力を抜いた。


再びミュリーが目を開けると、いつもの優しい眼差しに戻っていた。





「ミュリー大丈夫かい?」

ブレンダの声が優しく響く。


コハナがブレンダを呼びに行って、すぐに駆けつけてくれた。

「今、コハナがカイを呼びに行ったからね」


「ブレンダさん……ありがとうございます。ご迷惑おかけしてしまって……」


「いいんだよ〜。お互いさまじゃないか。さっ、そこのソファーに横になって」


ブレンダはミュリーを支えると、そっとソファーに座らせた。




しばらくすると、息を切らしたカイが店に駆け込んできた。


「ミュリーさん、大丈夫?

心が落ち着くハーブ、持ってきたよ。

安眠効果もあるから、これ飲んで寝て〜。

俺のスペシャルブレンドだよ!」


「私が今、お湯を沸かすよ。ミュリー、コンロを借りるね」


ブレンダはそう言うと、キッチンへ向かった。


「カイ、早かったね」


ルシナは不思議に思った。

コハナが呼びに行ってから、そんなに時間が経っていない。


ハーブをブレンドする時間と、薬草屋からここまでの距離を考えると――

少し早すぎる気がした。


「それがさぁ〜!なんか俺のスペシャルブレンドを作らなきゃいけない気がしてさ、ちょうど作ってたんだ。

そしたらコハナが来て、ミュリーのこと聞いたんだよ!


()()()()()()()()()()()んだよねー」


得意げに胸を張るカイの後ろで、

妖精が腕を組んで、うんうんと頷いている。


よく見ると――

その妖精は、薬草屋にいる子だった。


「んで、コハナが“走れ”って言ったからさ。コハナ置いて走ってきたんだー。

あっ、ほら。コハナが来た」


コハナは少し息を切らしながら、ルシナの隣までやって来た。


ココはコハナを見ると、尻尾を振って歓迎する。


「さあ、お湯が沸いたよ。カイ、これはハーブティーにすればいいんだよね?」


ブレンダが声をかける。


「うん。少し濃いめでお願い」


カイはミュリーの顔色を見ながら答えた。


ミュリーはカイのスペシャルブレンドのハーブティーを、ゆっくりと飲む。


その様子を、カイの世話焼き妖精が難しい顔をしながら見ていた。


「とりあえず、これで落ち着くと思うよ。あとは水分をなるべく飲んでね」


「カイくん、ありがとう。代金は……」


「あぁ……代金はまた来週払いに来てよ。とりあえず今は寝て」


そう言うと、カイは足早に薬草屋へ帰っていった。


「皆さん、本当にありがとうございます。また改めて、お礼をさせてください」


ミュリーはソファーから立ち上がると、丁寧にお辞儀をした。


「ミュリーさん、ゆっくり休んでください」


ルシナがそう声をかけると、ミュリーは人好きのする笑顔で答えた。






ブレンダとも別れ、ルシナとコハナは再び崖下へ戻る。

ふいに、コハナがピタリと立ち止まった。


ルシナは少しギョッとしてコハナを見る。

コハナは無表情のまま、ルシナを見返した。




「フーのご飯……忘れた」



「…… 」



(そうだった、それを取りに行こうとしてたんだ)


ルシナもすっかり忘れていた。


「今度でもいい……かな?フーちゃん怒るかなー」


「前は怒らなかった。なんでも食べた」


「じゃあ、フーちゃんには悪いけど、今度にしようか」


「うん」


すっかり日が暮れ、辺りは暗くなってきている。


コハナが人差し指を立てると、金色の光が灯った。

ルシナも真似をして人差し指を立ててみたが、光はつかない。


(えっ。これは誰でもできるやつじゃないのね)


「コハナ、それも魔法だよね」


ルシナはコハナの指先を見つめる。


「うん……光の魔法」


それだけ答えると、コハナは先に進んだ。


コハナが滑り台に繋がる扉を開ける。

辺りはもう暗い。


(これなら飛んでも見られないよね)


「コハナ、今日は私、外から飛んで上に行くよ」


「うん。分かった」


最近は人目につかないように滑り台ルートで帰っていたが、中は飛びにくい。


ルシナはふわりとその場で浮き上がると、そのまま崖上へと飛び立った。


開放的な夜空に、少しだけ心が解き放たれた気がした。


崖上に着いても、ルシナはしばらく飛んでいた。

ここ最近、ずっと下を向いてばかりだった。


夜空は、こんなにも美しかった――。



  

その夜空を自由に飛ぶルシナを、夜に紛れた黒い大型の狼が見上げている。


 

青い目を光らせながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ