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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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36: 黒い影

お詫び

投稿する準備間違えてました。

ストーリーが繋がらず、訳わからない流れになっていました。前のエピソードも見て頂けると幸いです

黒い影は、地面を這うように静かに広がっていた。


けれど――

屋台の近くには、なぜか寄り付かない。


避けるように進み、

人の多い中央へと流れていく。


「あれ……なんだろう」


中央では、自警団が鋭い眼光で周囲を見渡している。


けれど――

黒い影には、誰も気づいていない。


(……見えていない?)


「どうした?」

ルキは目を細めて、ルシナの視線の先を探る


「ううん……何でもない」

気のせいかもしれない。けれど胸のざわめきは消えない……。


ーその時だった


「おい!やめろ!やりすぎだ!!」

自警団が動き出し、怒号が飛ぶ


ルシナ達のいるベンチまで、数人が逃げてきた。


「怖かったー」

「私、よく分かんなかったけど……何があったの?」


二人組の女性が、自警団が取り押さえてる人を見ながら、興奮気味に話している。


「なんか、おばあちゃんがバッグ取られたらしくて……追いかけたおじさんが殴ったみたいよ」


「それで血だらけだったの?」


「そうそう。んで、自警団が引き剥がしたって感じ」


「人多いからねぇ、こういうの増えるのよねー」


自警団に「見せ物じゃない」と一喝された見物人たちも、ベンチの近くへ流れてきた。


自警団の態度に不満をこぼしていたが、すぐに話題は変わるーー。


「殴られてた人、隣国の奴らしいよ」

「え、ほんと?」

「ほら入国審査が緩くなったじゃん?」

「隣国のやつら、あまりいい生活出来てないって噂だよな」


ひそひそ声が、風に乗って流れてくる。


「まぁ、自業自得だろ」


誰かが軽く笑った。


ルシナは、その笑い声に理由のわからない寒気を覚えた。


事件はもう終わった話のように、

人々の関心は再び屋台へ戻る。その後を黒い影が追うように這っていった。


収まったはずの喧騒の中で――

魔除けとして吊るされていたハーブだけが、

徐々に黒くなっていた。


「うげー!!ここもハーブ消費されてんじゃん!もう在庫ないよー!」


聞き覚えのある声が、場違いなほど明るく響いた。


「カイ!どうした!」


ルキが声を張り上げる。

その声に気づいたカイが、はっと顔を上げ、ルシナたちの姿を見つけた。


「聞いてくれよー。ハーブがすぐに悪くなちゃうんだよー。こんなの初めてだよー」


カイはルキに泣きつく


「……異常事態か?」

いつもより低い声にルシナの背中がピリつく。


「んーまだ分かんない!人がいつもよりも多いからかもだし……」


頭を掻きながらカイが辺りを見渡すと、ルキも一緒に、鋭い眼差しで周囲を見渡す。


ただならぬ空気に、コハナはルシナの手をぎゅっと握った。


その力が思ったより強くて、ルシナはわずかに息を呑む。


ルシナはコハナを自分の近くに引き寄せる。


そのとき――足元に、黒い影が漂っているのが見えた。


(これ……なんなんだろう)


視線を落とした瞬間、背筋を冷たいものがなぞった。


足で地面を擦るように影を追う。


影は音もなく、揺れることもなく消え、

スルスルと別の場所へ移動し、またゆらゆらと漂い始めた。


(えっ……気持ち悪っ)


理由もないのに、胸の奥がざわついた。


コハナは相変わらず無表情のまま、ルシナの手を強く握り、ルキとカイの様子を静かに見ている。


――その瞬間。


ぐいっと腕が引かれた。


「え?」


コハナが突然、ルシナの手を引いて屋台の方へ走り出した。


「コハナ!?……どうしたの?」


足を取られそうになりながらも、ルシナは必死に後を追う。

遅れてルキとカイも駆け出した。


屋台の前でコハナは足を止めた。

手を離さないまま、無表情で会場を見渡している。


「今は離れない方がいい。……何か気になるものでもあったか?」


ルキは穏やかな声でそう言いながら、

しゃがみ込み、コハナの目線に静かに合わせた。


――次の瞬間。


会場の奥から、鋭い悲鳴が上がった。


人波が裂けた中心に、

黒い塊が、そこに“居た”。


「何……あれ」

ルシナの声が震える。


「……メンダヴォル、なのか?」


カイは眉を寄せたまま、黒い塊を見据えていた。


黒い塊が、ぶるり、と震えた。


影が内側から脈打つように膨らみ、

輪郭がゆっくりとほどけていく。


そして――


そこに現れたのは、大型の狼だった。


「まっ魔獣だ!誰か、自警団を呼べ!」


誰かの叫び声が広場に響いた。


次の瞬間、

人の流れが崩れた。


悲鳴。

倒れる音。

屋台の食器が割れる乾いた音。


人々が一斉に走り出し、

会場は瞬く間に混乱に飲み込まれた。


それでも、狼の魔獣は動かない。


逃げ惑う人々を、

ゆっくりと見渡していた。


黒い影が、人の足元を這うように動いている。

逃げる足に絡みつくように、

音もなく蠢いていた。


ルシナのいる屋台に吊るされたハーブが――


一斉に、黒く染まった。


ぱらり、と乾いた音を立てて崩れ落ちる。


誰も、言葉を発せない。


「うげー!!ハーブってここまで黒くなるのー!?やばい!やばい!ルキどうしよー!」


カイの声だけが、場違いなほど明るく響いた。


カイは散っていくハーブを見ながら、ルキを見た。


「カイ、二人を守れ」


狼の魔獣から目を逸らさないまま、ルキが言う。


足元に転がっていた屋台の支柱――ポールを拾い上げると、静かに三人の前へ出た。


ルキはポールの重さを確かめ、低く構える。


魔獣は動かない。

ゆっくりと人の流れを見渡している。


そして――

ルキを見据えて、止まった。


「うわー!怖えー……。気休めでしかないけど!」


カイが何かを呟き、ぱちんと指を鳴らす。

右手を頭上へ掲げると、薄い緑色の膜が三人を包み込んだ。


「動かないでね〜!結界の効果なくなるから〜!」


「わかった」


コハナは短く答える。

無表情のまま、狼の魔獣を見据えた。 


そして、ルシナを見つめると、握っていた手の力をそっと緩めた。


狼が、一歩。

――二歩。


ゆっくりと近づいてくる。


ルキを見る。

そしてカイ、コハナへと視線を移した。


コハナを見た瞬間、

狼の目が、わずかに細められる。


次に、ルシナを見る。


視線が止まった。


頭の先から、つま先まで。

舐めるように観察する。


得体の知れない“何か”を測るように。


それから、またルキへ視線を戻すと、低く唸った。



――その時だった。


「道を開けろ!」


鋭い声が広場に響いた。


人混みをかき分けるように、自警団の隊員たちが駆け込んでくる。


「下がれ!刺激するな!」


一人が手を掲げると、足元から淡い光が走る。

次の瞬間――


空気が震えた。


赤い閃光が狼の魔獣の目の前で弾ける。


魔獣は、顔を背けて光から逃れた。


長い髪を後ろで束ねた騎士たちが、素早く狼を囲み、槍や剣を構える。


さらに狼の魔獣の周りに多数の魔法陣が取り囲んでいるが、攻撃には至っていない……。


それは、威嚇だった。

攻撃ではないと理解したのか、ゆっくりと体を引く。


そして――


狼の魔獣は踵を返した。


数歩進み、

ふと、足を止め、ゆっくりと振り返った。


光のない赤い瞳が、まっすぐにルシナを捉えた。


ほんの一瞬。


だが確かに、

“見定める”ような視線だった。


次の瞬間、狼の姿はどこかへ消えていく。


黒い影は、変わらず人々の足元で蠢いていた……。

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