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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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34: 距離感がおかしい

自警団の打ち上げ魔法が終わると、集まった人々はまた屋台を楽しむために散っていった。


「どうでしたか?」


ルキが、いつも通りの落ち着いた笑顔を向ける。


「すごくきれいでした。自警団の方の魔法って凄いんですね」


彷徨いかけた心をつなぎ止めるように、万華鏡のような光景を思い出す。


「えぇ。この町の自警団は優秀ですよ。剣も魔法も」


無駄のない引き締まった体に、鋭い眼光、姿勢の良さが体幹がしっかりしているのがわかる。


自警団を見ていると、視線に気付いた女性隊員が、手を振りながら走ってきた。


「ルキ!元気にしてた?」


明るい声はよく透き通っていて、走っていても身体がぶれない。


「あぁ、元気だ。アンナはどうだ?」


「変わりないわよ。相変わらず訓練も厳しくてね」


昔馴染みらしく、アンナの声が弾んでいる。


「んで?こちらのお嬢さんは?」


槍を肩にかけたまま、ニカっと笑う。じっと見つめられているのに、変な圧力もなく身構えずにすんだ。


「えっと…ルシナです」


「ルシナね、私アンナよ。よろしく!」


すっと差し出された手を握ると、女性らしい細い手なのに、硬く鍛えらているのが分かる


後ろで束ねられた髪は、艶があり、爪はきれいにマニキュアが塗られており、隙がない。

おしゃれに気を配るところも、圧がないのに周りへの警戒を欠かさないところも、熟練の隊員であることが分かる。


「んで?靴を作って引きこもり体質な君が、デートとはね。なーんか面白いことが起きてるじゃない」


「ほっとけ!」


揶揄うように言われ、ルキは笑いながら返す。


「あっ…あの、魔法!すごくきれいでした!」


感動を伝えたくて少し声がうわずってしまった。


アンナは、目を丸くしてルシナを見てからルキを見る


「なにこの子!ちょーかわいいんですけど、私にちょーだい」


ぎゅっとルシナに抱きつき、目を輝かせる。

ふわっと花の香りがする。


「ルシナは物じゃない。渡さない。それに、お前にはカイがいるだろ」


ルキはいつも通りの落ち着いた声のまま、アンナをそっと引き離した。


「引きこもりの独占欲…」

ぼそっとアンナが呟いた瞬間、ルキが素早く平手突きを放つ。


「あはは!遅い遅い!鈍ってる!」

アンナはひらりとかわし、高らかに笑った。


「ルシナ、もう行こう」

ルキは深いため息をつき、ルシナの手を取るとその場を離れた。


「その手、離すなよー」

ケタケタ笑いながら、アンナはひらひらと手を振った。


その場の空気に押されてしまったルシナは顔を真っ赤にしながらルキに手を引かれるまま歩き出した。


「あ…あの、ルキさん?」


「ルキでいい……です」


見上げたルキは、耳まで赤かった。


その様子に余計に胸が熱くなってしまい、ルシナは慌てて視線を前に戻す。


ちょうど果実水の屋台が目に入り、二人は逃げ込むように立ち寄った。


「これください」


冷たい果実水を受け取り、ほとんど同時に口をつける。


甘酸っぱさと冷たさが、火照った顔にしみた。


「くくっ」

「ふへへ」


同時に飲み終えて、顔を合わせると、笑いが込み上げてくる。


そんな様子を屋台の若い店主は、「こっちは仕事中だぞ」と言いた気な遠い目で見ていた。


「はいはーい!追加のハーブですよー」


大量のハーブを抱えたカイが屋台の隙間からぬっと現れた。


「カイ、忙しそうだな」


「そうなんだよー!どこぞのカップルが羨ましいですよぉー」


そんな憎まれ口を吐きながら、屋台の柱に、手慣れた様子でハーブをくくりつけた。


「このハーブは、食欲出るやつ?」

「……いんや。これはね…魔除けだよ」


ルシナがハーブの効能を聞くと、カイから笑みが消え、少しトーンを抑えた声で答えた。


「魔除け?」

「うん。人がたくさん集まる時はね、悪いものも集まりやすいんだ」


「よし!これで終了!」と手を叩いて腰に手を当てた。


「カイ、さっき向こうにアンナがいたぞ」

「うへっ…まじかー!声かけるかー」


「後でいじけるからなー」とぽりぽり頭をかき、再びハーブを抱える


「じゃ!二人は楽しんでねー」

そう言い放って颯爽と次の店へ走っていった…


「ルキさ……ルキ、カイとアンナって……」

「あぁ、あの二人は幼馴染でね、恋人…なんじゃないかな」


幼馴染の延長上で、恋人を通り越して夫婦のような距離感らしい。


「アンナが世話好きだからね」


「カイの性格には合ってる……ってことなのかな?」 


「そうだな……。カイはああ見えて頼りになるし、アンナも負けん気が強い癖に、弱いところもあるからね」


二人を思いながら話すルキの表情は、やわらかかった。


ーーーー


屋台フェスティバルでは、大道芸も行われており、魔法を使ったアクロバットや、魔法を使わない手品など、見どころがたくさんある。


お祭りムードはますます盛り上がり、人の流れも増えている。


「そういえば、セイラさんのカフェは参加していないですよね」


準備を手伝った覚えもなく、開催の話も聞いていない。

不思議に思って、ルシナはルキを見上げて聞いた。


「あぁ、セイラはこういったイベントは苦手らしいんだ……。人が多いと疲れるって言ってたかな」


「なんか、意外ですね。人が好きそうに見えますけど」


「いや……そう見せているんだろう」


(セイラさん、美人で仕事ができて、話しやすくて……でもそれだけ気を張ってるってことだよね。もう少しお店を任せてもらえるよう、頑張ろ)


ルシナがセイラのことを考えていると、急に人の流れが増えてきた。


——その時。


足元に黒い影が揺らいだ気がして、体勢を崩してしまった。


「おっと……大丈夫?」


気付けば、ルキの腕の中だった。


頬がルキの胸に当たる。ほんのり革の匂いがした。


「ふひゃ……すっ、すいません」


自分から胸に飛び込んだような体勢になり、慌てて顔を離す。


「大丈夫……。人も多いから、もっと俺を頼って」


(あわわわ……。ルキさん、距離感がおかしいです!近い、近い、心臓がもたないです!まさか、加護のせい?)


ふと視線を感じ振り返ると、パン屋出店の屋台があり、コハナが無表情でこちらを見ていた。


その周りでは、妖精たちが祝福するかのように、親指を立てたり、バンザイをしていた。

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