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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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33/70

30: 勇気をもって

革の匂いが広がる店のバックヤードでは、ルキが靴を作っていた。


革の裁断を終え、次の工程に向け整理をする。

ふと片方だけのボルドーのハイヒールを眺める。


明るく前向きにカフェで働くルシナの姿を思い出す。


まっすぐに『頑張りたい』と話すルシナの深い青色の瞳が美しいと思った。


ボルドーのハイヒールを作ったら、彼女はここに来なくなってしまうのではないか…。一瞬浮かんだ想いにルキは、ハイヒールを眺めるのをやめた。


会いたければカフェに行けばいいだけのこと、そんな事を思いながら、ルキは作業に戻る。


作業台の隅に置かれたままの、屋台フェスティバルのチラシが、目に入るたびに視線を外している。



ーーーー。



カフェのピークタイムが過ぎた店内はコーヒーの残り香と静かな空間が広がっている。


慌ただしい時間が嘘のようで、ルシナは一息ついた。


ルシナがテーブルを拭いていると、バックヤードから出てきたセイラに声をかけられた。


「ルシナ、明日から仕入れの取引で出かけるから3日間、お店を閉めようと思うの」


「そうなんですね」

布巾をたたみ直しながら、ルシナはセイラに向き直る。


「えぇ……悪いんだけど、その間はお休みってことでいいかしら」


少しだけ申し訳なさそうに眉を下げながらも、何か別のことを考えているかのようだ。


そんな様子に気付かず、ルシナはすぐに首を横に振る。


「大丈夫ですよ」


そう言って笑うと、セイラは小さく息を吐いた。


「助かるわ。戻ったら、またお願いするわね」


しばらくするとまた客足が増えてきて、ルシナは接客の仕事をこなしていった。


「お疲れ様。明日からのお休みだけど、3日後に屋台フェスティバルあるみたいだから、誰か誘って行ってみるといいわ」


パチンとウインクをしながらセイラが言った。


“誰か…”ふと浮かんだ顔に、胸の奥がくすぐったくなって、ルシナは首を振ってかき消す。


そんな様子を見て、セイラは小さく喉で笑った。

ルシナは、その視線の意味に気づかなかった。



ーーーー


コハナに屋台フェスティバルに行ってみないかと誘ってみたが、パン屋も出店するらしく、あっさりと首を横に振られてしまった。


「仕事」


短い一言…。さっ寂しい…。


「そっか……がんばってね」


翌日、カイにも声をかけてみたが、この日は薬草屋が忙しいらしい。


「祭りの後ってさ、だいたい食べ過ぎと飲み過ぎで腹やられる人が続出するんだよねー。先回りして薬草たくさん作らなきゃなんだー」


笑っているのに目が死んでいた。


(みんな予定ありかぁ……)


一人で行くのも悪くはない。

悪くはないけれど、少しだけ気が引ける。


なんとなく足が向いた先で、ルシナは立ち止まった。


靴屋のショーウィンドウ。

磨かれた革靴と、整然と並ぶブーツ。


ショーウィンドウ越しにルキと目が合うと、ルキが店先に出てきてきた。


「ルシナさん、こんにちは」


そう声をかけられ、思わず声をがうわずく。


「ルキさん!こんにちは。きょっ今日もいい天気ですね」


出てきてくれるとは思わず、心が跳ねる。

勇気を出して誘ってみようか…


「あっあの、2日後の屋台フェスティバルの日はルキさんお仕事ですか?」


そう尋ねるとルキはわずかに目を見開いた。


予想していなかった問いだったらしく、ほんの一瞬だけ間が空く。


「……屋台フェスティバル、ですか」


考えるように視線を少しだけ落とす。


「作業の予定はありますが、イベントの日は客足が少ないので閉めようと思ってたところです」


それから、まっすぐルシナを見る。


「行かれるんですか?」


問い返されて、胸がどきっと鳴る。


「は、はい。ちょっと気になってて……でも一人だと少し不安で」


言ってから、しまったと思う。

他に予定があるかもしれないし、カイもいないし…。


ルキは一歩だけ距離を詰めた。


「では、一緒に行きましょうか?」


間を置かずに言った。


「足もまだ万全ではないでしょう。人も多いでしょうし、俺が支えになりますよ」


さらっと言うその目は、誠実だった。


背が高く、姿勢がいいルキの顔は少し遠い。顔をあげて見上げると、体温が上がるのを感じた。


「いいんですか?誰かと行く予定だったとか…」


どんどん声が小さくなるルシナを、少しだけためらってから、腰を屈め、そっと手を取った。


「俺でよければ、ぜひ一緒に」


もう、心臓がバクバクして顔から湯気が出そうだ


「よ、よろしくお願いします」


そう答えてフラフラになりながらルシナは小屋へと戻っていった


飾る位置を変えたボルドーのハイヒールは、いつもと違う輝きを放ち、ぼーっとそれを眺める。


その手元では、フーが頭を擦りつけてセルフ撫で撫でをしていた。

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