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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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27: 噂と伝承

ルキの靴屋を出ると、コハナと一緒に食べようと、カラフルなシュガーレイズドがかかったカップケーキを買った。


自分で稼いだお金で買い物をするのは、こんなにも楽しいのかと胸が弾む。


そのまま足は、自然とあの花屋へ向いていた。


店先には、今日も色とりどりの花が並び、陽の光を受けてやわらかく揺れている。


「いらっしゃいませ」


顔を上げた女性が、すぐに気づいて微笑んだ。


「あら、買いに来てくれたの?」


「はい。前にいただいたお花、部屋がぱっと明るくなって……嬉しくて」


ルシナがそう言うと、花屋の女性――ミュリーは目を細めた。


「それはよかったわ。花はね、置いた場所の空気まで少し変えるのよ」


そう言いながら、手際よくオレンジと赤を中心に束ねていく。

茎を整え、リボンをかけ、最後に軽く形を整える指先の動きが美しかった。


「はい。今日のあなたの色」


両手で、そっと差し出す。


花から、ほのかに甘い香りが立ちのぼった。


「素敵…ありがとうございます」


支払いを済ませ、近くで遊んでる子ども達を微笑ましく感じながら、町での話をミュリーとする。


人好きのする笑顔が話しやすい。


「そうなんです、セイラさんのカフェで働き始めて…」


そうルシナが話し始めると、子どもたちが言い争いを始めた


「なんだよー嘘つき!」


「嘘じゃないよー。お父さんが言ってたもん!崖の近くで珍獣をみたって!」


「お前の父ちゃん、酔っ払いだろー」


「お酒飲んでたけど、鳴き声聞いたって、他の人も言ってたもん!」


やいのやいのと騒ぎ立てている


「珍獣じゃなくて、もしかしたら魔獣かも知れないじゃん!危ないかもしれないよ!」


そんな焦燥感を子どもが言うのは、親の影響か…。


腕を組んでいる少年が語尾を強くする


「自警団が何も言ってないのに、変なこと言うなよ!」


言われた方も負けていない


「自警団に任せていたらダメだって!お父さん言ってたもん!」


どんどんヒートアップする話題にルシナは居た堪れない気持ちになってくる


(珍獣から、魔獣、自警団、話のスケールが大きくなってる…)


あらあら…そうミュリーが頬に手を充てながら困ったように子ども達の様子を伺っている


「最近、大人の中にも自警団の巡回を増やすべきだって話も出ててね、それがきっと子ども達にも影響しているんだわ」


ミュリーはため息混じりにそう呟くと子ども達のところへ向かう


「はーい。君たち、そこまでにしましょうね。確信のない事で不安にさせることも、人を口で攻撃もしては駄目ですよ」


穏やかな笑顔とゆったりとした口調が、子ども達に響く


「それに、そんな会話をしていたら、メンダヴォルがやってくるわよ」


ミュリーはすっと笑顔を消し、声が僅かに低くなる。


「どこで何が聞いているか分からない……。

子どもも大人も連れていかれるわよ」


子ども達に囁くように言うと、子ども達はピタっと動きを止める


「さっ!君たちはもう帰りなさい!」


そういって、いつもの笑顔と優しい口調に戻った。


「うん…分かったよ。ごめんな…」


「いいよ。僕も怖いこと言ってごめん」


お互いに謝り、トボトボと帰っていった


子ども達が角を曲がるところまで見送り、ミュリーは小さく息を吐いた。


「子どもって大人が思っている以上に色々聞いているものなのね…」


店に並んだ花に軽く触れながらつぶやく。


「あの…メンダヴォルってなんですか?」


(確かカイもそんなような事言ってた気がする)


「あぁ、ルシナさんは最近この町に来たんでしたね」


ルシナに向き直ると、先程の子ども達の仲裁をしていた時の声色で教えてくれた


『メンダヴォルが来るぞ。

火をつけに来るぞ。

大人も子どもも連れてくぞ。


メンダヴォルは仲間を増やすぞ

仲間同士で争うぞ

残るのは心を無くした人間ぞ


メンダヴォルの後には燃えかすぞ

見えぬ火は広がるぞ

残るのは心を無くした人間ぞ』


ミュリーの真顔は心を冷やし、優しい声は低く、背筋を氷でなぞる。


「この地域の伝承よ…メンダヴォルは魔物の一種なんだけど、よく生態がわかっていなくてね」


ミュリーは顔を上げると、空を見つめ、説明の言葉を選ぶ


「過剰に何かに執着したり、暴こうとしたり、騒ぎ立てると寄ってくるのではないかって言われているわ」


一息ついてから、自信なさげに続ける。


「そんな事は私の母の世代からないらしいから昔話ね。祖母の時代はあったみたいだけど…」


町の人は噂話は好きだけど、干渉しないーーー。


(この町の地域性だったのね)

そうルシナは理解した。


「さて!ちょっと怖い話をしてしまったわね。これはお詫びよ」


ミュリーは明るい声で、店先の白い花を3本抜き取るとルシナに手渡す。


「噂の色に染まらない、無垢なあなたでいてね」


その言葉と花のやさしい香りが、不安をそっとほどいていく。


礼を言って店を後にした。


(私の叫び声がこんな大事になるなんて…)


空を飛ぶ姿も見られない方がいいのだろう


いつもより慎重に崖下へ進むと、周囲を見回してから浮かび上がる。


……もしかしたら滑り台ルートで帰るのが正解なのかもしれない。


花を飾り、コハナと一緒にカップケーキを食べながら、今日が初給料日だったこと、セイラから財布を頂いたこと、ルキの店の妖精の話をする。


コハナは無表情ながらも、少し興味ありげに無言で頷きながら話を聞いてくれる。


ちょっと意地悪したくなったルシナは、今日聞いたメンダヴォルの伝承の話を始める。


ミュリーと同じ様にとはいかなかったが、ちょっと恐ろしげに語ったのに、コハナは一言「知ってた」と無表情に答えただけだった。


(そうだよね…知ってるよね…でも一言…)


少しだけいじけたルシナは、フーにメンダヴォル伝承を伝える。フーは大きな目で見つめてくれたが、話の重さなど関係ないとばかりに身体を押しつけ、撫でろと催促するだけだった。


そんな様子をコハナは銀の腕輪に触れながらじっと無表情に見つめていた

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