24: カフェ仕事
カフェでの仕事を終え、小屋に戻ると、フーが飛びつくように出迎えてくれた。
しゃがんで目線を合わせると、顔をぺろぺろと舐めてくる。
「ぶへ。フーちゃん……鼻の穴はさすがにやめて……」
背中を撫でると、お尻も、お腹もとばかりに身体を擦りつけてくる。
一日の疲れが、こんなにも簡単にほどけるものなのかとルシナが思っていると、扉が開いてコハナが戻ってきた。
「コハナ、おかえり。今日は会わなかったね」
振り向きながら声をかけると、コハナは蒸した鶏肉の包みを手にしている。
その匂いに反応して、フーが尻尾をぶんぶん振りながら、きゅんきゅんと鳴いた。
「パン屋のおかみさんが持たせてくれた」
たまに肉料理や卵料理を分けてくれるらしい。
コハナが痩せているから心配しているのだろうと、ルシナは思う。
「そうなんだ。町の人、優しいね」
「うん……みんな親切……でも……」
そこまで言ってから、ぶんぶんと首を振る。
「なんでもない」
少し引っかかりを覚えたが、この空気を壊したくなくて、ルシナはそれ以上は聞かなかった。
「じゃあ、そのお肉でサンドイッチ作ろっか。セイラさんに教えてもらったんだ」
空気を変えるように、わざと明るく言う。
「コハナが前に作ってくれたソース、セイラさんのだよね? 同じ味だった」
「うん。セイラに教えてもらった」
「やっぱり。お店の人気メニューなんだって」
カフェでの出来事や、セイラの働きぶりを話しながら支度をする。
蒸し鶏と葉野菜にソース。
パンは軽く焼いて、豆のスープも添える。
素朴だけれど、しっかり美味しく仕上がった。
フーは鶏肉が気に入ったらしく、野菜と一緒に出しても、肉ばかり選んで食べている。
鼻をフスンフスンと鳴らしながら食べる様子が、たまらなくかわいかった。
夜ーーー。
ハイヒールを眺める。
このハイヒールと出会わなければ、一歩前に踏み出そうと思わなかったかもしれない。
これを作ってもらえるように、頑張って働こう。明日も頑張ろう。そう思って目を閉じた。
ーーーーー
翌日もカフェに出勤したルシナは、前日に教えてもらったことを思い出しながら、接客やサンドイッチの盛り付け、提供を行った。
カフェの料金は、コーヒーが銅貨4枚、パンケーキが7枚、サンドイッチが9枚。
この町では、銅貨10枚で小銀貨1枚、小銀貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚になる。
日当は小銀貨5枚。十日ごとに銀貨5枚で支払われると、セイラが教えてくれた。
それに加えて、お客さんからチップをもらうこともある。
ボルドーのハイヒールはオーダーメイドになる。きっと価格も高いはずだ。
少しずつ貯めて、頑張ろう。
コハナにもたくさん助けてもらったから、お礼もしたい。
いいのか悪いのか、家賃はかからない。
(ふふ……小屋に感謝ね)
そんなことを考えながら、仕事をこなしていった。
カランコロンーーー
カフェの扉が開き、カイとルキの姿が見えた。
「いらっしゃいませ」
見知った顔に、胸が少し弾むのを感じながら出迎える。
「やぁ!ルシナ!頑張ってる?」
カイが屈託のない笑顔で手を上げた。
「はい!セイラさんに教えていただきながら、仕事を覚えているところです」
紹介してくれたカイには、感謝の気持ちでいっぱいだった。
カイよりも背が高く、驚くほど姿勢のいいルキを見ると、心が少しだけ跳ねる。
「ルキさん!先日はありがとうございました。おかげさまで、前向きな気持ちで働けています」
少し声が上ずった自分に気づき、内心で照れる。
「前向きになれてよかった。カイから、ここで働くことになったと聞いてね。様子を見に来ました」
落ち着いた声が、静かに胸に落ちてくる。
「ルキから聞いたよー。ハイヒール、作ってもらうために頑張るんだって?」
カイが少しだけ意地の悪い笑みを浮かべる。
「はい!今の目標は、ハイヒールを作ってもらうことと、この町に馴染むことです」
まっすぐ二人を見て宣言した。
「いいねぇ!俺らも応援してるよ!なっルキ!」
「ああ、応援してる。さて、コーヒーをいただけますか」
応援されるというのは、こんなにも力が湧くものなのかと感じながら、ルシナは二人をカウンターの近くの席へ案内をした。
「あら、いらっしゃい。相変わらず仲がいいのね。二人はコーヒーとサンドイッチかしら?」
セイラが顔を上げ、カウンター越しに声をかける。常連らしいやり取りだった。
二人が帰ったあとも、ルシナは接客を続けた。
セイラの的確な指示のもと、テーブルの片付けや台拭き、客足が途切れた時間を見計らって店内の掃除もこなしていく。
「お疲れ様。もう閉店するから、今日はここまででいいわ。ルシナが来てくれたおかげで仕事が捗った。助かったわ」
エプロンを外しながらそう言って、セイラは軽くウインクする。
「明日はゆっくり休んで。明後日、また待ってる」
そのままバックヤードへ入っていった。
これから会計業務をするのだろう。
店を回しながら、経営の仕事までこなすセイラの背中は、やはり格好いい。
ルシナは、できることを増やして、少しでも負担を減らせるようになろうと心に決めた。
今日は帰り道、コハナと会えたため、滑り台コースで小屋に戻った。
相変わらず「よいしょ。よいしょ」と登るコハナが愛らしかった。
銅貨100円、小銀貨1000円、銀貨10,000円、金貨100,000円。算数苦手です。




