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崖上小屋で今日もハイヒールを眺めます  作者: 小原みん


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24/69

22:カフェ面接

カイの案内で、ルシナとコハナはカフェに着いた。


「いらっしゃいませ」


透き通った声は、大きくないのによく通る。


「セイラさん、人手が足りないって言ってたよね。この子どうかな?」


カイがルシナの背中をそっと押す。


セイラと呼ばれた女性は、背が高く、すらりとしていて美人だった。

ダークブラウンの髪を後ろでひとつにまとめている。

目力が強く、筋の通った鼻筋と薄い唇が、どこか色っぽい。


その視線が、すっとルシナに向けられる。


頭の先から、つま先まで。

値踏みというより、確認に近い視線だった。


(うっ……)


思わず背筋が伸び、肩が強張る。


(緊張するよー)


「あなたいくつ。接客の経験は?」


声は落ち着いているのに、圧があった。


「えっと……20です。カフェではないですが、接客はしたことがあります」


——20歳。

いまの自分は、そういうことになっている。


経験は、流美のものだ。


セイラは親指の爪を人差し指の爪で弾きながら、少しだけ黙った。

考えている時の癖なのだろう。


「あなたどれくらい働ける? 出勤のペースは」


大きな目がまっすぐ向けられる。

試すというより、配置を決める目だった。


「えっと……6時間くらいで、3日に一度お休みを頂けると嬉しいです。もちろん、調整はできます」


「……分かったわ」


もう一度、爪を小さく弾く。


「まずは慣れるところからね」


セイラはそう前置きしてから言った。


「2日に一度休み。1日5時間。昼のピークとおやつ時に入ってもらうわ。状況次第で延長や短縮はあるけど、働いた分はきちんと払う」


迷いのない口調だった。


「これからよろしく」


差し出された手を、慌てて握り返す。


「あ、それと」


手を離したあと、付け足すように言う。


「熱があったり、お腹が痛いときは報告すること」


「お客さんに移しちゃダメですよね」


「ふふ…よく分かってるじゃない」


少しだけ笑った。


「エプロンは支給するわ。それ以外は自分で用意して。露出が多くなければ問題ない」


要点だけを、手早く伝えていく。


ルシナは無事、カフェで働くことが出来そうだ。


ふと、セイラの視線がコハナに向いた。


「あら、コハナ。元気にしてる? これからパンの配達、お願いできるかしら。ちょっと足りなそうなのよ」


「分かった」


短い返事だった。


「一緒に来たの? 知り合いかしら。友達?」


友達——。

そう言われて、ルシナは少しだけ迷う。

この子との関係を、まだうまく言葉にできない。


コハナはセイラをまっすぐ見て、こくんと頷いた。


セイラの表情がやわらぐ。

愛おしそうに目を細め、そっと頭を撫でた。


「そう……もう一人じゃないのね」


その言葉の重さを、ルシナはまだ知らない



ーーーー



コハナがパンを取りにパン屋へ向かう後ろ姿を見送ると、セイラは切なげな表情でルシナを見た。


「コハナね、ふらっと二年前にこの町へ来たのよ」


爪を弾きながら思い返すように出した声は小さく、それなのに妙に心に響いた。


「最初に気づいたのはカイだったわ」


当の本人は、少し困ったように頭をかく。


「腹減ってそうでさ。小さいし、放っとけなかったんだよな」


「何か食べさせてやってくれって、ずいぶん食い下がったのよ」


「だって喋んねーんだもん。倒れられても困るだろ」


カイは頭をかきあげると、ひとつ息をついた。


「あの子、自分からあまり話さないだろ?……頷くだけ。これからどうするって聞いても、ずっと下向いてた」


セイラは扉の方へ視線を向け、カイは腰に手を当てて話を続けた。


「だからパン屋を紹介したんだ。ちょうど使いを頼める子を探してたし、言葉が少なくても何とかなるかなって思ってな」


コハナは、配達をしたり、残り物を分けてもらったりしながら、少しずつこの町に慣れていったらしい。


それでも誰かと一緒にいることはなく、カイもセイラも気にかけていたという。


「でもあなたが現れた……私、嬉しいのよ。この町へようこそ」


微笑むセイラは、胸がざわつくほど美しかった。


「この町は噂話は好きだけど、余計な詮索はしないんだ。

『メンダヴォルがやってくる。火をつけにやってくる』だからな」


カイはそう言って、歯並びのいい笑顔を向けた。


ルシナは、この町がさらに好きになってきた。

誰も深くは聞かない。けれど、ちゃんと見てくれている。


ーーーそれが、少しだけ不思議だった

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