19: まさかのばったり
カイの薬草屋を訪ねると、店は閉まっていた。
扉には貼り紙がある。
『仕入れに行ってます。午後には戻ります』
丸っこい可愛らしい文字で書かれていて、なんとなくカイの性格が伝わってくる。
(残念……また明日にしようかな。今日はゆっくり休もう)
そう思いながら、近くの花屋の前で足を止めた。
店先には色とりどりの花が並び、やわらかな香りが風に乗っている。
「かわいい花がいっぱい」
思わずこぼれた独り言に、
「ふふふ……見るだけでも大丈夫ですよ。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」
柔らかな笑顔の女性が、やさしく声をかけてきた。
突然話しかけられて、ルシナは少しだけ胸が跳ねた。
「いろんな花があるんですね。これとか、かわいい」
やさしい笑顔に安心して、自然と声が出た。
「花は日常に色をつけてくれますからね。誰かの心が明るくなると、私もうれしいんです」
そう言って女性は、小さな花を一輪摘み、ルシナへ差し出した。
「よかったら。あなたの心にも、色のお裾分け」
オレンジ色の花を受け取り、ルシナの表情がほころぶ。
「いいんですか?ありがとうございます。また来てもいいですか。今度は買いに来ます」
女性は花の手入れを続けながら、顔を上げて微笑んだ。
「ええ、いつでも待っていますよ」
オレンジ色の花を手に、心が少し明るくなる。
足取りも軽くなり、そのままパン屋の前を通り過ぎようとした時、見慣れた姿と鉢合わせした。
顎下で切り揃えらた柔らかそうな栗色の髪。
小柄で痩せ細った腕と、水色のエプロン。
銀の腕輪がキラリと光っている。
「え? コハナ?」
思わず口を開いて立ち止まる。
コハナも、ほんのわずかに目を見開いていた。
「ルシナ? ここで会うなんて驚いた」
知らない人が見たら、きっと驚いているとは分からない。
それでも無表情の中で、確かに小さな変化があった。
「えっと……コハナは買い物?」
動揺を隠しきれないまま、荷物を抱えたコハナに尋ねると、コハナはこくりと頷いた。
「食べ物、買った。野菜とか、卵とか」
両手いっぱいの袋を見下ろしながら、ぽつりと答える。
少し荷物を分けてもらうと、見た目よりもずっしりと重かった。
「今日ルシナ、甘酸っぱい実とバターのパン、おいしそうに食べてたから。ジャムとバター、買った」
少しだけ照れたような気配が混じる。
その控えめさが、かえって可愛らしい。
「荷物いっぱい……コハナありがとう。重かったでしょう?」
小さな体には、さすがに重かったはずだ。
「妖精たちが手伝ってくれたから、軽い」
“そうなのー”
“てつだったのー”
“あとで、あまいのもらうのー”
どうやら妖精たちも一緒らしい。
「もう帰るの?」
「うん」
「……ところで、ここまでどうやって来てるの?」
ルシナがそう尋ねると、コハナはルシナをじっと見つめてから、小さく顎を動かした。
「こっち」
それだけ言って、街道の方へ歩き出す。
ルシナも慌てて後を追った。




